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005 カクテル缶

「ただいま~」

「おかえり。今日は早かったね」

 いつものように新聞を畳むクロだが、リナの様子がおかしいと気付き、すぐに近寄った。

「どうしたの?」

「ん~、大丈夫。ちょっと怖かっただけだから……」

 そう言って座り込むリナに合わせて、クロも腰掛けた。

 しかしリナは青年の膝に強引に頭を乗せ、膝枕で寝転がった。

「久々に銃振り回してね~抱かれなくて済んだのはいいけどもう散々。おまけに死体も見ちゃったから、暫く肉系は食べられないな~」

「……わかった、買い置きのうどんがあったはずだから、かけうどんにしよう。野菜は食べられそう?」

「食べられる~」

 となると野菜うどんの方がいいか、とクロは独りごちたが、動こうとしない。

 飼い主が動くまではじっとしようと、飼われた青年は身動き一つしなかった。

「お風呂湧いてたっけ~」

「もう湧いているよ。入る?」

「入る~」

 そこでようやくリナは立ち上がり、いつも通り服を脱いでいった。

「……何見てんの~」

 普段は見ないくせに、今日はめずらしくガン見してくるクロに、リナはふざけながら身体を隠しているが、ほとんどポーズで、下着のように隠す役割を担っていない。

 しかし、クロはリナに構わず視線を離し、脱ぎ捨てられた下着を拾い集め、状態を確認している。

「……え、なに、下着フェチ?」

 まさかの性癖にリナは愕然としかけたが、脱衣籠に放り込んだのを見て、それは違うと悟った。

「襲われたというから、身体に傷がついたり、下着が傷んでいないかを見ただけだけど?」

「あんたってドライというか、心配の方向性があってるようでずれてるというか……」

 もう隠すこともなく、全裸で堂々と立って頭を掻くリナ。馬鹿らしくなったのか、さっさとユニットバスの中に入り込んだ。まあ、よく考えたらクロの好みじゃなかったな、と思い直して。

 クロもカレーの入った鍋を一旦退け、別の鍋でうどんの玉を煮出している。

 テキパキと野菜うどんと付け合わせに漬物を小皿に移しておいてから座卓に並べ、それからもののついでとばかりに冷蔵庫からカクテル缶を取り出した。

 飲酒経験があるとはいえ、リナは普段アルコールを摂らない。それでも気晴らしにはなるだろうと、主人のためにクロは缶を並べた。

「おっ、わかってるじゃんクロ~」

 ユニットバスから出てきたリナは、下着をさっさと着けてから座卓に着き、真っ先にカクテル缶のプルタブを引っ張った。

 普段は飲まないくせに、慣れたように一息でほとんど飲み干し、それから用意された野菜うどんに手を出した。

「いっただきま~す」

 リナの満足そうな顔を眺めてから、クロは再びカクテル缶片手に、今日の収入である現金を数えはじめた。

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