009 おんぶ
「クロ~おんぶ~」
「はいはい。こう?」
公園からの帰り道、朝靄が立ち込める中を、リナ達はアパートへの帰路に着いていた。
スクバを背負ったままクロの背中に乗ったリナは、規則的な歩幅で揺れながら、まどろみ始めた。
「クロ~なにかおはなし~眠くなっちゃう~」
「……お客さん、一人いなくなっちゃうかな?」
「だいじょぶじょぶ~」
眠気が勝りながらも、リナはぽやぽやと答える。
「たまに寂しくなったら、呼んでくれるでしょう。男の方だって、借金があるのは変わらないんだから、そうそう会いに来れないって」
「……お客さんの方が会いたくなって男の方に会いに行ったら?」
「ん~ないんじゃない?」
とうとう目を閉じたが、リナの意識はまだ落ちていない。ねむさよりも心地よさが勝っているのか、話はまだ続いた。
「カオルさんって、確かに自分の思い通りにしたいところがあるけどさ、結局は道徳的なんだよね。だから無理矢理着いて行くとか、無理矢理探し出すとかはしないと思うな~。……まあ、下手したら何年も待っちゃいそうだけどねぇ」
「……ああ、それでまた、寂しくなって仕事のお願いがくるのか」
「そゆこと~」
それでとうとう意識が飛んだのか、リナは口も閉じ、眠りについた。
「……おやすみ」
ご主人様の少女をおぶりながら、ペットの青年はアパートに入っていった。
あれから数日が経った。そしてアップルフォンも五分程鳴り続けていた。
「クロ~まだ鳴ってる~?」
「鳴ってる。どうする?」
リナの読み通り、カオルは未だに仕事を頼んでくる。それも、今迄と同じかそれ以上のペースでだ。
さしものリナもグロッキーになっているのか、ぐったりと布団の上で横たわっていた。
「少し寝たら行ってくるから~着替え用意しといて~」
「了解、大丈夫?」
「だいじょうぶ~ただの気疲れだから~」
不思議そうに首を傾けるクロに、リナは手を振りつつ答えた。
「別にセックスはしてないんだよね~どっちかというとお茶会とか深夜帯でもやってるお店を回ったりとかが多くなっててね~楽しいけど一応はお客さんでしょう、もう疲れちゃって」
「……ばれた?」
「ばれたっぽい」
まあ、話した相手がワタシだけっぽいしね~。
そうボヤキながら、リナはアップルフォンに出た。どうやら今日も出掛けるらしい。
通話を切り、アップルフォンを置いて立ち上がると、リナは何かを思いついたような顔をクロに向けた。
「……そうだ、何ならクロも来る?」
「やめとく……接客って苦手なんだ」
「このやろ~ご主人様だけ働かせやがって~」
とはいえ本気じゃないのか、クロに軽くじゃれついてから、リナはいつもの私服化した制服に着替えた。
「まあ、近いうちにクロの服も買いに行くから、そっちは逃げないでね~」
「了解……派手な服はやめてね」
「え~一着だけでもいいじゃ~ん」
スクバを肩に掛け、リナは今日もクロの見送りを受けながら仕事に向かった。
「でわいってきます」
「いってらっしゃい」