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013 好悪

「……そういえばさ」

「うん?」

 リナが売人との仕事から帰って来た就寝明け。

 彼女に飼われた青年、クロは野菜サンドを作りながら問いかけた。

「何で身体売ってるの?」

「何々、クロ。ご主人様の仕事が気に入らなくなった?」

「いや、そうじゃなくて」

 野菜サンドを盛りつけた皿を座卓に置き、リナの向かいに腰掛けながら、クロは言葉を続けた。

「普通の人は持っていない銃があるんだし、別に殺し屋になっても良かったんじゃないかな、って思っただけ。性病で死ぬより生きられそうだけど?」

「う~ん……クロってさ、人を殺す時どう思う?」

 問いかけに疑問で返されたクロだが、既に考えていたことなのか即答した。

「赤の他人がいなくなっても別に気にしない。知り合いだったら、もしかしたら悲しむかもだけど、それでも必要なら捨てられる、かな」

「……ワタシの場合は、簡単に捨てられないかな~」

 野菜サンドを食み、ある程度食べてからリナはまた話し始めた。

「別に人の命背負ってる、って気負ってるつもりはないんだけどさぁ……やっぱり抱え込んじゃうのかな。今はないけど、昔一人で住んでた時はそのせいで何度も目が覚めちゃってさ~」

 リナの答えを、クロは静かに聞き続けた。

「だから、人を殺すのは必要な時だけ。それ以上は余計なしがらみやトラウマを抱え込まない。……そう昔に決めたんだ」

「そっか……」

 それに、とリナは続けた。

「人殺して回るより、抱かれてる方が好きってのもあるんだけどね~性病持ちのお客さんは会った時に分かるし」

「……え?」

 クロは不思議に思った。

 そもそも、相手が性病持ちかどうかなんて実際に会っても分かるものじゃない。専門医でも困難なレベルだ。何しろ見た目だけでは分からず、病気によっては外的変化も見受けられない。本人ですら気付かない時だってある。

 それなのに分かるとはどういうことなのか?

「ワタシの特技っての、なんか相手の嘘とか心理状態とか体調とかが分かっちゃうんだ。なんでか知らないけどね」

「……不思議な特技だね」

 クロの返事に、リナはまったくだと返してから残りの野菜サンドを飲み込んだ。

「だから病気の心配もなく、殺し屋に無理して転職する必要もないってこと。というか……」

 アップルフォンが鳴る。どうやら新しい仕事のようだ。




「こんな小娘が殺し屋やったって、次の日に川に浮かんでるのが関の山だっての」

「……そっか」




 その会話を最後に、リナはいつもの制服に着替え始めた。

 クロが直したばかりのスクバを用意し、中に拳銃を含めた商売道具を詰めていく。

「ご飯のリクエストは、何かある?」

「う~ん……ハンバーグってできる?」

「挽肉あったから作れるよ」

 じゃあそれ、と身振りで答えてから、リナはローファーに足を通した。

 手鏡で髪型と化粧を確認し、スクバを肩に掛けてから振り返った。

「でわいってきます」

「いってらっしゃい」

 いつものように挨拶をし、いつものように仕事に行くリナと、それをいつものように送り出すクロ。

 二人の生活は、まだ終わりそうにない。

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