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012 飼育?

 しかし、二人の生活を続けたいと真っ先に言い出したのはリナの方だった。

 食事。

「なっ、なんてリーズナブルっ!?」

「そこは、おいしいとかじゃないの?」

「いやワタシ凝り性でさ。料理一つ作るのにも凝りすぎて、材料費二、三万と一日無駄にしたことがあるのよ」

「……何作ったの?」

「パエリア」

 掃除。

「……何してるの?」

「分別。まとめて燃えるゴミだと、いつかゴミ捨て場に放置されるよ?」

「別にいいじゃん。ゴミ出してるだけだし」

「……放置する場所がなくなって大家から回収命令。ゴミ屋敷が先か追い出されるのが先か」

「すみませんでした」

 洗濯。

「あれ、この下着傷みが少ないような……」

「ちゃんとネットに分けて洗わないから、今まで傷みが早かったんだよ。後色分けして洗ってるから、変な色に染まってないでしょ?」

「確かに……」

 おまけに家計管理。

「ところで今日、家賃の催促に大家来なかった?」

「三日前に振り込んでおいたよ。後引き落としも可能だったから、ついでに銀行で手続きしておいた」

「……一応、口座の名義はワタシだったよね?」

「印鑑があれば代理申請できるよ。一緒に電気ガス水道も引き落としにしたから」

注:実際は各銀行に問い合わせてください。今回は未成年の保護者という立ち位置で都合よく申請できたということにしています。

「それと、通帳の管理はちゃんとしてね。印鑑と一緒に持っていけば、本人じゃなくても窓口で出金できるんだから」

「……はい、気をつけます」

 こんな状況が続けば、人は誰でも堕落する。

 おまけに性欲が薄いという青年の言葉は本当だったらしく、襲われるどころか下着にイタズラされた形跡も見られなかった。

 都合よく働き、危害を与えることも何かを盗むこともしない忠実な男。こんな人間が近くにいれば、たとえリナでなくとも、側に置いてしまうだろう。下手な人間なら信用しすぎてしっぺ返しを食らう可能性もあった。

 しかし、それでもリナは腑に落ちない点があった。




「ねえ、あんたもしかして……何かから逃げてる?」

 昼夜逆転した、二人の共同生活から半月程経った休日。リナは煙草を咥えながら、洗濯物を畳んでいる青年に問いかけた。

「別に、犯罪はしてないよ」

「いやそれ言ったら、ワタシの方が犯罪者じゃん。……そうじゃなくて」

 肺に溜まった煙を吐き出しながら、リナは再度問いかけた。

「あんたさぁ、ここに来てから一人で出かけたのって、銀行の一件だけじゃないの。他はみんな、ワタシの休日に買い出しの名目で連れ出して、『男一人』で目立つのを避けてるみたいだし」

「……迷惑、だった?」

「いや全然」

 というか、全体的に助かっていると、リナは告げた。

「なんというかさ、別にいいんだよね。いつ終わるともしれない生活もさ。ワタシが楽しければ。……でもさ、あんたふらっといなくなったりしようとしてない?」

「……まあ、明日にでも出ようかと考えてたけど」

「そっちの方が迷惑」

 煙草を灰皿に押し付け、口を開けたリナは、そのまま膝を立てて抱えた。

「ここまで面倒見てくれるならさ、その時まで一緒にいてよ。……お金ならワタシが稼いでくるからさ」

「それって……ヒモ?」

 訪ねてきた青年に、リナは首を傾げながら答えた。

「というより、家政夫ってやつ、う~ん……ごめん、上手い言葉が見っかんない」

「……後悔するかもしれないよ」

「別にいいよ」

 再び煙草を咥えるリナ。しかしすぐには火を点けず、ライターを手の中で弄んでいた。

「別にいい……今が楽しければそれで」

「そう……よろしく?」

「何で疑問形~?」

 器用に煙草を咥えながら、リナは静かに笑った。

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