3話「自尊心?なにそれ殴られなく済むの?」
3話「自尊心?なにそれ殴られなくて済むの?」
ガクガクブルブルと震えながらも呼び出しに応じて一人で屋上前の廊下に来た。
「不安なら一緒に行ってやろうか?」
とまぁ谷山の心底イケメン具合を受けながらも俺は一人で行くことにした。実際は付いて来てほしい訳なのだがそう言う訳にもいかないのだ。
一人を呼び出したに二人いましたとかそんなことをしたら更に相手を起こらせることにもなりかねないからである。
にしても女子高生に呼び出されるのにこんな重い気分があっていいのか?
いや…俺には殆ど重い気分しかなかったわ。
女子に呼び出される程、怖い事はねーよなぁ…
告白と思って期待したらドッキリでしたとか、マジで説教の為に呼び出されたとかだったし。
ああ思い出しただけで寒気がする。
くり抜きプリクラ事件と言うものが中学時代起こった。
アレは俺の携帯が俺の所有物ではなかった時の話だ。
いやおかしい話なのは重々承知してはいるのだが学校にいる間は俺の携帯は俺の所にはなくイジメっ子が所有していたのだ。
携帯のロックを解除して渡さなければならなかったので誰もが俺の携帯を開けるという誰でも楽々開けれるフォンという状況になっていた。
え?渡さなければ良いって?ふっ、渡さなければ殴られるので諦めているのだよ。
すごく情けないけど相手は空手をやっていたなんちゃって猛者、技の練習とか言って殴る蹴るは当たり前のド畜生なのだ。もう空手とか辞めているのに技の練習して何になるかは全く分からなかったけど。
そんなある日、SNSにグループのプリクラを載せていた女子がいたんだわ。
それを見つけたイジメっ子集団が一人の女子の顔をくり抜いて俺の写メをはめ込んで遊んでたんだ。
俺はマジで勘弁して欲しかったんだが意見をすれば殴られるのがデフォだったので何も言わなかったんだ。
それがあんな事になる事も知らずに……
それから3日程が経ちその女子グループから俺だけ呼び出しがかかった。
そのグループと俺はそんなに接点がないのだがその時の俺はまだ期待に満ちていた男子中学生だったので告白かなぁと思っていたのだがいざ行ってみればその女子グループ全員がいた。
「多野中!!!コレは一体なんのつもりなの!?」
リーダー格からそう言われて出されたのはあのくり抜きプリクラ写真を入れたスマホだった。
別にどっかのサイトに貼った訳でもなく、友人同士でプリクラを回した訳でもないのに何故かそのプリクラを持っていたのだ。
「何で持ってんの!?」
思わず声を出した俺の気持ちを分かって欲しい。出回ってもいない画像をそのグループの女子が持っていたのだから。
後になって分かった事だが、イジメっ子は俺の携帯の待ち受け画面をそれにしてたらしい。
さらに俺の携帯をイジメっ子が机の上に置きっぱなしにしているところを勝手に取って見たらしく、そしてその画像を自分の携帯に送信したっぽい。
いやいやマズその行為自体が責められる行為じゃねーかよ。そんな事も思ったがまぁ意見できるような立場でもなく負い目を感じていたので何も言わなかったが俺のせいじゃないよね?
しかも俺の携帯で遊んでるの確実にいじめっ子じゃねーかよ。というかそれ確実に俺のせいじゃないと思う。
そんな理屈が通るのは人間として認められる人だけらしく台所の黒い悪魔以下の俺の権利ではギャルには通じなかった。
「アンタの写真が貼ってたんだからアンタが主犯でしょうが!!」
いや俺が主犯だとしてもそれを待ち受けにする訳ねーだろうが普通。
そんな痛いプリクラ全力で証拠隠滅に務めるぞ?まぁ消したら殴られるからできなかったけどさ……
大体そんな訳の分からん事を言ってるから一昔前の訳の分からん携帯小説とかギャルの間で流行るんだよ。
そりゃまともな作品もあるけど殆どが地雷だからなぁアレ……
そんな嫌な思い出を思い出しながら重い足を引きずって屋上前の廊下にやって来ると涼子ちゃんこと華山さんが立っていた。
腰に届きそうな黒髪をそのまま垂れ流しているだけの髪型に威圧感を感じる。制服を崩している訳でもなくキッチリと校則通りの身だしなみであるのに逆にそれがオーラを高めている。
うん、凄い怖い。
「よく来たねとりあえず屋上へ行こうか」
「え?屋上って鍵掛かってるんじゃ……」
「ああ、コレか?」
そう言いながら屋上の南京錠の鍵をプラプラと回しながら俺に見せた。どうやら屋上へ行けるらしいけど何でだ?
「ウチは清掃委員で清掃委員は屋上の清掃活動で許可されてるんだ。ほら許可証」
そう言われて見せられたのは「屋上立ち入り許可」と書かれた腕章だった。ああ、威圧感で勘違いされやすそうだけど真面目な方なんですねぇ華山さん……
言われるがままに屋上へ付いて行く足取りが先ほどよりも重くなる。
しかし屋上へ女の子と2人きりとか物凄い緊張するなぁ……
まぁ俺ほどの罰ゲーム慣れしている男であれば勘違いする事はないけどな。
「さて来てもらった事には感謝しよう。テメェには話があるんだ」
振り返りながら腕を組んで仁王立ちとか番長が調子に乗ってる奴をしめる時のポージングじゃないですかぁ…
「は、話ってなんでしゅか?」
あまりの威圧感と女の子へとの緊張で声が震えて裏返って噛んだ。そのせいで更に緊張するという悪循環に陥いってしまうのは仕方ないだろう。
「テメェ、朝に由梨絵の事をコソコソと隠れて見てただろ?」
「あ、はい」
声が震えている事等はスルーする優しさに少し感動しながらもやっぱりその事だったのかという事実におどおどしてしまう。
「何で見ていた?つうかあの場にいて何で隠れて見てたんだ?」
真っ直ぐと澄んだ茶色の瞳で見てくるという通常の思春期男子なら顔が赤くなるシチュエーションなのだが逆に顔が青くなってしまう。
怖えよんだよ女の子…
「あ、いやそのですね何というでしょうか……」
すごく声が震えている事が自分でも分かる。消しゴム拾って貰った女の子にお礼言う時の声の数倍は震えているわぁ。
「ああ?」
ドスを効かせた凄いダミ声ですねハスキーボイスだから威圧感が数倍増しで俺の心はプリンの様に震えている。
プルンプルンだ。
「と、通りかかったら女の子が絡まれてまして」
「で?」
「見かけたので助けようか迷ってました」
「ほほう?」
「あ、えーまぁそんな感じです」
自分で言って思うがどんな感じなんだよとは思うが、あまりの眼力という名のプレッシャーで目を逸らしたくなるがそう言う訳にもいかないのでおどおどしながらも相手の目を見続けそう受け答えすると溜息を吐かれた。
まぁ妥当な溜息だね溜息に妥当があるか分からないけど。
「ハァ……絡んでる女を助けるかどうか迷ってテメェは電柱の陰でコソコソと私達を見ていたって訳か?」
「概ねその通りでしゅ」
噛み過ぎだが実際普通に女の子と話していてもこうなるのでどうしようもない。
「まぁ絡まれてるところを助けるってのは結構勇気がいるからできないってのは分からなくもない」
おや?てっきりその事で怒られるかと思ってたのだが予想を覆されて驚きである。頭ごなしに怒るような人ではなくて良かったけどなら何で屋上まで呼び出されたんだろ?
「だけどな女のピンチに何もできない奴に由梨絵は任せらないな、せめて警察呼ぶ振りでもしろよなぁったくガタイはそこそこ良いってのに」
あれ?何か雲行きが怪しくなって来ていませんか?
「あのスイマセン何故僕が由梨絵さんを任せられるかどうかの話に?」
「そりゃテメェ、見て見ぬ振りもせずにコソコソ隠れて様子見てったってことはそう言う事じゃないのか?」
なるほど、どうやら勘違いしているようだ。確かにどうでもいいと思っている人間ならば見て見ぬ振りをしてもおかしくはないが、それって人としてどうなんだ?
そりゃ確かに若くて美人の人ならば下心も多少はあって助ける可能性も高いが俺はおばあちゃんが絡まれていても助けようと迷うぞ?相手がパーマじゃなければだけど。
「すいません別にそういう理由でコソコソと隠れてた訳ではないんです」
「じゃあどういう理由があったて言うんだ?まさか一緒に襲おうとか考えてたのか?」
声色が急に低くなり拳をポキポキと鳴らしながら俺の目を真っ直ぐ捉えて離さない。
それを見ると俺の両手がプレッシャーと恐怖でプルプルと震えだす。
「なんだいんやる気かい?」
それを見た華山さんは俺が煽られて怒っていると感じたらしくなんか半身でこっちを見ながら構えていた。
こうなった場合、感情が先行して冷静な会話ができるような状況じゃないのは明らかだ。弁明できる程のトーク力が俺にはないし……
こうなりゃやるしかないな、俺の奥の手であり決まれば普通の人間であれば一瞬思考が止まるであろう俺の超必殺技を!
コンクリートの地面を両足で蹴りそのまま飛んで足を折り畳み正座の体制を整え、そのまま膝から座るとダメージが甚大なので両手を先に着く事で充分な衝撃を吸収してから正座の状態で座る。
頭は相手に向かってツムジを見せる格好だ。
「パーマが怖かったんです!パーマが怖くてビビって何も出来なかったんです!!マジですいません、ごめんなさい、生きててすみません本当に勘弁して下さい」
これが俺の奥の手にして最終奥義、名づけて「ジャンピング土下座」である。
ここまで心底意味不明で情けない内容の卑屈な謝り方があっただろうか?
これ以上の卑屈な謝り方を俺はあんまり知らないが、まぁ謝る事で許されるのなら安いもんだと考えるしかないだろう。
自尊心?なにそれ殴られなくて済むの?
という感じの中学生活で俺は土下座を嫌がる自尊心などとうの昔にゴミ箱に捨てて焼却炉で消し炭になっているのだ。
ポイントは相手を唖然させて怒る事自体がバカらしくさせること。
みっともなく涙声になると尚効果的である。まぁ本当にプレッシャーで涙声になっているので情けないけど殴られなかったら別にどうでもいいのである。
「え?ちょっと泣かないでよこっちが困るじゃん…」
あれ?
とりあえず殴られることはなさそうですか?