Act7.「本当の名前」
人から借りたものは大事に。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
その瞬間だった、スカイ達の体に八つの光の玉が取り囲み、集束し、はじけ、閃光となり城全体を一瞬で真っ白に染め上げた。
王様
『うわあぁぁぁぁ!!』
同時に凄まじい地響きがうなり、中庭の石畳がスカイ達に引き寄せられる。雨のように射出した無数の矢は硬い金属にはじかれる鋭い音を奏で、力なく地面に転がった。
王様
『なっ…なんだアレは!?』
そこには信じられない光景があった、幾百、幾千もの槍や刀や斧や盾、数え切れないほどの武器、防具が地面から生まれ、鳥の巣のように絡み合ってどんどん上昇しながら巨大化していくのだ。怒りの声にも聞こえた金属のこすれあう轟音が辺り一体に鳴り響いた。
それはさながら鉄の巨木とも言える造形で、その高さが50mを達した頃、ようやく「成長」が止まった。人々は瞬きすることすら忘れてその一部始終に釘付けになっていた。
スカイ
『………………うっ…………』
スカイ
『……どうなったの…?…何?…コレ』
スカイは体を地面からせり上がった武器や防具に押し上げられ、鉄の巨木の頂上にて地上を見下ろしていた。
???
『…スカイ…』
スカイ
『…!?』
???
『…………バカだな…こんなに無茶して…髪も服もボロボロじゃないか…』
スカイ
『…い…今…スカイって呼んだ…?』
そこには石化の呪いが解け、元の姿に戻ったワンの姿があった。
ワン
『ほら、ミライもこんなに疲れちまってるし…』
疲れきって小さな犬の姿に戻ったミライを抱きかかえている。ミライも無事だった。
スカイ
『…ワン…あなた…ワンなのね…』
ワン
『…ああ…俺は…ワン…この名は君がつけてくれた…』
スカイ
『…………ワンッ!』
二人と一匹は抱き合った、夜が明けて朝日が差し込み世界を照らす。鉄の巨木上にいるスカイ達のシルエットがハッキリと作り出された。
ワン
『スカイ…ミライ…本当にすまなかった…ありがとう』
スカイ
『いいの……私もミライも、あなたがこうして…人間としてこの世界に戻ってきたことが…何よりもうれしいの…』
ワン
『……俺もだ…』
スカイ
『…あれ?…これは…?』
天空より雪のような光の粒が大量に降り注いだ、そしてその光には心を和ませる不思議な温かみがあった。
ワン
『見ろ!君の体中の傷が消えていくぞ!』
スカイ
『…本当だ!何なのこれ?』
スカイが唱えた呪いを解く呪文の光には凝縮された生命エネルギーが込められていた。ワンの呪いを解くために使われた力の余韻が全てを癒す光の粒となって降り注がれたのだ。
ミライ
『ウワンッ!ウワンッ!』
スカイ
『ミライも元気になった…!よかった…今こうしていられるのも、全部この子のおかげよ!』
ワン
『ああ…本当にそうだ、言ってみりゃ俺の本当の名付け親だしな、たいしたもんだ』
スカイ
『ふふ…本当ね』
ワン
『……この光で君がやむを得ず傷つけてしまった兵士達も助かるだろう』
スカイ
『…私達…とんでもないことをしちゃったのよね…』
ワン
『…気にするな…そういうことは後で悩もう、今大事なのは…魔王を倒した英雄の一人が、今こうして無事に帰還したってことでな』
スカイ
『でも…王様はそうは思ってないみたい…』
ワン
『ああ、なんか下で微かにちっこいのがワーワー叫んでいるように見えるな…』
スカイ
『あなたがこんな派手なことをするから…誤解されちゃったじゃない』
ワン
『まあいいさ、そんじゃ、とにかくどこか遠くに行こう』
スカイ
『遠くに…?』
ワン
『ほとぼりが冷めるまで、どこかに…俺達だけで、その後でゆっくり解決していこう』
スカイ
『いいのかな?』
ワン
『そうするしかないな、この状況は…』
スカイ
『ま…そうね…』
ワン
『それじゃミライ、ちょっと頼む!』
ミライは巨大な翼をもつ幻獣キマイラに変身し、背中にワンとスカイを乗せた。
スカイ
『…この子の呪いはそのままなのね…』
ワン
『本人も気に入っているみたいだからいいじゃないか』
スカイ
『そういえば…ワン、あなた昔の記憶も戻ったワケなの?』
ワン
『…ああ、本当の名前も、全部な……ま、後でゆっくり話そう、とりあえず今はここから離れなくちゃな』
ミライは翼を広げて鉄の巨木から飛翔し、水面のように澄み切った青い大空へと吸い込まれ、大衆から消え去った。
スカイ
『どこまで行くの?』
ワン
『遠くさ!ずっとずっと遠くに行くんだ!』
スカイ
『……ねぇ』
ワン
『何?』
スカイ
『聞かせて…あなたの本当の名前…』
ワン
『……いいよ、わかった、でも俺は何がなんだろうとワンだからな』
スカイ
『うん!で、何なの?』
ワン
『俺の本当の名は…………イマジン』
スカイ達の行く先に待ち構えているのは輝かしい幸せなのか、それとも新たなる困難が待ち構えているのか?その答えは誰にも分からない、ただ一つだけ言えることは、スカイ達の揺ぎ無い信念だけは不滅だということ…
大きな一つの信念が大空をひたすら翔る、輝かしい未来を想像して…
彼らの冒険はこれからも続く!
The End
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「うおおおおおおッ!!」
僕はウセディクスをクリアした喜びと興奮で思わず思い切りコントローラーを床に叩き付けて無残な残骸へと変えてしまった。
「良かった…本当に良かった…」
ゆっくりと流れるスタッフロールを見ながら、長かった戦いの記憶が僕の頭の中で勝手に総集されて妄想で美化された名場面集を作り上げていた。
スカイの成長、信念、それらに心を打たれ、充実した疲労感を全身に纏って仰向けに倒れてこんだ。もしも、僕がこのゲームをみーちゃんから受け取った直後にプレイし、クリアをしていれば、スカイ達の生き様に影響を受けて少しは違った人生を歩んでいたかもしれない。みーちゃんは多分僕にそういう思いを抱かせたくてこの作品を作ってくれたんだろう。そんな気持ちも知らないで僕は…なんて情けないんだろう。
思わず一筋の涙が目尻からこぼれ落ちて耳をなでる、生暖かい感触が自分の過ちに対する後悔がカタチとなって引き立たせる。
みーちゃんに会いたい…会って謝りたい…貰ったゲームをほったらかしたことを…こんな言い訳だらけの自分自身を…せめて、本名が分かれば…
「あ!」
僕はゲーマー失格だ!クリア直後のスタッフロールを見ずにほったらかすなんて!みーちゃんの名前を知る方法があったじゃないか!
このロープレメイカーというゲームソフトは、エンディングのスタッフロールに製作者の名前を表記することが可能であり、もしかしたらみーちゃんはそこに本名が流れるように作っていたかもしれない。まだ可能性はある。
僕は最後の集中力を振り絞って下から流れる無数の英語表記を食いつくようにチェックした。しかし流れる表示はおそらくはみーちゃんとは関係の無いこのロープレメイカーそのものの製作スタッフと思われる人物名ばかりだった。
「ちくしょう…見逃したのか…?」
いや、まだ大丈夫だ、おそらくはスタッフロールの最後、Director(監督)の表記がみーちゃんの本名のはずだ。落ち着け、まだ待つんだ。
今か今かとDirectorのテロップが流れてくる瞬間を待ちわびる、僕は多分生涯でここまで真剣にスタッフロールを観る事は二度とないだろうと思った。そして終わりのない様にまで長く感じられるほどに待ちに待って、ついに念願Directorの文字がせり上がる。
「よし!来た!ディレクター!ディレクターの名前!」
「みーちゃんの本名……………………」
信じられないほどの衝撃的現場に出くわしたとき、思いがけない悲劇が起こったとき、全身の毛穴が収縮し、鳥肌が立つことがある。僕自身はとてつもなく体が冷えた時以外に鳥肌を経験したことがなかったけど、今日はじめて僕は精神的な理由で鳥肌を立ててしまった。そしてそれは、これから自分が何をすべきかを理解させてくれた。
これは大変だ。僕はゲーム中の騒音に痺れを切らして怒鳴り散らしてきた母親を尻目に、ワンの元へ向かうスカイの如き疾走で家を飛び出す。
もうゲームどころじゃない、とにかく僕はある人物に会うために走りまくった。これは断じて間違った選択なんかじゃない!
実際のツクールシリーズでここまでの演出を作り上げるのは
ほぼ無理だと思います。




