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Act5.「呪い」

エンディングを見るまでがゲーム。

挿絵(By みてみん)





小鳥のさえずりが聞こえる、新聞配達のバイクのエンジン音が聞こえる。そして僕はやや青みがかかった薄いグレーの空を窓から見つめている。近くの自動販売機で買った缶コーヒーの味が五臓六腑に染み渡る。





 「ふぅ~…」





 時刻は朝5時半、僕は寝る間も惜しんでウセディクスに没頭してしまい、ある一つの予想外な出来事によって少し途方にくれてしまったのだ。





 「はぁ~…」





 まさか…まさか魔王を倒した後も続きがあっただなんて…





■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




ミライの [高熱ブレス]!魔王ゲラに1500ダメージ!





魔王ゲラの [高速爆破現象]!スカイに250ダメージ! ワンに210ダメージ! ミライに50ダメージ!





ワンはスカイを刀に変えて振りかざす![スカイツイスター]!魔王に3850ダメージ!





『ぐををぉぉぉぉぉ!!!!』





ワン

『やったか!?』




スカイ

『倒したの!?』






魔王ゲラ

『…見事だ…ワン…そしてスカイとかいう小娘…わしはもうすぐ死ぬ…だが…ただでは倒れんぞ!』





魔王ゲラの [圧倒的呪怨現象]!ワンの体は石化した





スカイ

『ワァァァーーーン!!』





魔王ゲラ

『小娘よ…教えてやろう…この石化はただの呪いではない…この呪いを解くには世界中に散らばった8つのキーワードを集めてその言葉を唱えなければならない…』





スカイ

『なんですって?』





魔王ゲラ

『そしてもう一つ…ワンは…元々わしの右腕とも言える部下じゃった、ヤツは魔族にも関わらず人間に情を抱き、謀反を起こした為、わしが魔法で記憶を消してこの空中魔王城から突き落としたのじゃ…』





スカイ

『ワンが…魔族…?』





魔王ゲラ

『…石化の呪いを解くキーワードは…石化と同時に…元の記憶も甦る…果たしてその時…お前との思い出も消されずに残っているか…それはわしにもわからん…さぁ…どうする小娘…クァーハッハッハ………………………………グフッ…………………』





魔王は倒れた





スカイは石になったワンと共に、魔王討伐の吉報を届ける為、王国に凱旋する。









スカイ

『王国の皆様…魔王は倒れました…平和は今戻りました!』





王様

『見事だったぞスカイ!そしてその相棒ミライよ…しかし問題が残ってしまったな…』





スカイ

『…はい、ワンのことですね…』





王様

『左様…しかし、先の議会によりこの件にはそなたにとって厳しい決断が下された』





スカイ

『…どういうことです?』





王様

『そなたが言うにはワンはもともと魔族…それに魔王の散り際の言葉も鵜呑みに出来ん。そのキーワードは石化を解くモノではなく、ワンを凶悪な悪魔へと戻すための呪文なのかもしれん』





スカイ

『そんな…まさか…!?』





王様

『国が下した決断は一つだ!石化したワンを粉々に砕くこと!』





スカイ

『そんな…!待ってください!そんなのあんまりです!国を救った英雄なんですよ!』





王様

『やむを得ん…平和というものは何かを犠牲にせねば成り立たないのだ…ここはわきまえるのだ、スカイよ』





スカイ

『…………その決断…けっして覆ることは無いんですね…』





王様

『天地が逆になろうとも覆らぬ』





スカイ

『…わかりました…それなら…………私の答えはこれです!』





[ ワンを助けますか? ]

はい

いいえ



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■






 みーちゃん…なんて意地悪なことを…ドラマチックに話を展開させ、不意打ちの選択肢を強いるとは。





 僕は深夜帯になると何故か体から湧き出る妙なテンションに身を任せて、3時間ほど途中経過を保存しないままここまで来てしまった、ゲーマーとしてはあるまじき行為だ。つまりこの選択肢を間違えたらもしかしたらまた3時間ほど前の状態からやり直しということもありえるのだ。





 この究極の選択肢を [はい] にするか、もしくは [いいえ] にするか決めかねているうちに、そろそろ1時間が経とうとしている。





 普通に考えたら仲間を助ける為に [はい] を選ぶに決まっている。だけど、今回は事情が違う…もしも王様の言うとおり、魔王ゲラの罠だったとしたら…魔族として甦ったワンが再び国を脅かすことになるかもしれない…これは国民への裏切り行為だ…あのスカイが大反逆者になってしまう。





 だからといって [いいえ] を軽々と選択できない。一緒に戦い、助け合った唯一無二の仲間が、同じ人間の同士によって粉々に砕かれる姿なんて想像すらしたくない。





 僕はまんまとみーちゃんの手のひらの上で踊らされている。最後の最後までぬかりのない作りにある意味恐ろしさすら感じられた。みーちゃん…一体何者なんだ…?





 答えを出せないまま、ふとロープレメイカーが落ちていた床を見つめる。長い間同じ場所に本棚を配置していたのでその場所だけフローリングの床が変色せずにキレイな長方形を描いていた。あの時部屋の模様替えをしていなかったら今こうして悩んでいることもなかっただろうに。僕がしみじみと感傷に浸っていると、本棚を動かす時に負ってしまった左腕の引っかき傷が目に入った。





 確か…スカイも腕に傷を負っていたな、戦いに疲れて思わず自分で自分を傷をつけて言い訳しようとした。僕もそうだ…試験勉強という現実から目を背けて今もこうしてゲームに没頭することで自分に言い訳をしている…………僕とスカイは、同じなんだ。同じような悩みと葛藤があったんだ…









 ゲームの主人公と自分を重ね合わせ、自身を振り返ったその時、僕の脳みその中心に確かな煌きを感じ、全身のだるさが一気に消え去った。





 「そうだよ!」





 僕はようやく答えを決めることができた。そうだ!言い訳をしてはいけないんだ!国の為、平和の為だとか自分に言い聞かせて大切な仲間を見捨てるだなんて駄目だ!自分の気持ちをごまかしてはいけないんだ!





 「僕の答えはこれだ!」





■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



王様

『血迷ったか!スカイよ!』





スカイは風の魔法で周囲の兵士達を吹き飛ばし、謁見の間から飛び出した。





スカイ

『ミライ!すぐに戻るからね!ワンをお願い!』





石になったワンは城の中庭に魔力を帯びた鎖で固定されて運び出すことが出来ない。その為スカイはミライにワンの護衛を任せたのだ。





王様

『スカイと犬をとめろ!早くワンを砕くんだ!』





ミライ

『ガルルル!』





ミライは三つ首のケルベロスに変身し、ワンに襲い掛かる兵士をなぎ払う。





スカイ

『待っててね、ワン!ミライ!』





スカイによるキーワード探しの一人旅が始まった!



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■






金なし、体力なし、アイテムなし、の状態でうっかりセーブをしてしまい、詰み状態に陥らせる経験を経て、人は皆大人になっていく。

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