Act4.「空色の刀」
ゲームパートと実世界パートは■■■■■■で区切っています。
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スカイ
『ごめんね、ワン…私、一緒に魔王城には行けない…』
ワン
『どうしたんだ?スカイ、その腕の包帯は…』
スカイ
『…前の戦いで怪我を負ってしまったの…もうこれ以上は無理なの…』
ワン
『…そうなのか…?』
スカイ
『これ以上は足手まといになるから…もう私はこの町でお別れよ…』
ワン
『…………違うね…』
スカイ
『え…待って!何を!?やめて!!包帯を取らないで!』
ワン
『…この刃物の痕は…敵にやられた傷じゃないな………………まさか!?』
スカイ
『…ごめんね…ワン…私、怖くなったの…これ以上戦い続けることが…色んな人達から期待されることが…これだけ多くの人々の犠牲を払って…いっぱいがんばって…それでも魔王を倒すことが出来なかったら…………不安で…怖くて…だから自分に言い訳が欲しかった…』
ワン
『それで自分で自分を傷つけた…ハンデを負わせた…というワケか…』
スカイ
『………………そう』
ワン
『…………こんなになるまで傷をつけるなんて…そこまで思いつめていたなんて…すまなかった、俺がもっと君の気持ちを理解していれば…』
スカイ
『なぜあなたが謝るの?いけないのは私よ…私が…役立たずの能無しだからいけないのよ…』
ワン
『……………………君が戦いを続けるかどうかは自由だ…俺からは無理強いしないよ……ただ』
スカイ
『……ただ?』
ワン
『ただ一つだけ言っておきたい、君は能無しなんかじゃないよ、倒れていた俺を救ってくれて…新しい名前までつけてくれて…どんなつらい時だって前向きな君の笑顔を見ていればがんばれたんだ!ここまでこれたんだよ!』
スカイ
『……ワン…』
ワン
『…ここまで、一緒に来てくれてありがとう』
スカイ
『…………ううっ……』
二人は抱き合った、お互いの心からの言葉に蓄積されていた涙が流れ落ちた。二人の気持ちが本当の意味で一つになったその時…奇跡が起きた。
ワン
『…なんだ!?これは…俺の能力が…!?』
スカイ
『私の体が…光ってる…!?』
光に包まれたスカイはワンの武器化能力により、美しい空色の刀に変化した。
ワン
『こ…これは…もの凄い魔力だ…これなら…』
スカイ
『…これなら…魔王に……勝てる』
ワン
『…スカイ…これでも自分を能無しだと思うかい?』
スカイ
『…ごめんね…ワン…私…もう何も迷わない!』
ワン
『…分かった…いよいよ決戦だ!いくぞ!魔王城へ!』
スカイ
『…ところでワン…これって元に戻れるよね?』
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俺はとうとうウセディクスをやり込み、魔王ゲラが待ち構えるラストダンジョンの一歩手前までたどり着いた。ちなみに今は金曜日の夜8時、週明けの月曜日に行われる期末テストに向けて、他のみんなは試験勉強に打ち込んでいるであろう時に、僕は十代の女の子が作り上げたシナリオに感動し、情けない涙と鼻水で顔面をひどい有様に変えていた。
「うう…よかったなぁ…スカイ…」
ゲームの世界では、数々のドラマがあった。スカイは魔法協会の洗礼を受けて風の魔術を覚えた。犬のミライが呪いで凶暴なモンスターに変えられたが、スカイの魔術により自我を取り戻し、その後は様々なモンスターに変身する力を得て心強い戦力になった。そしてワンの記憶を奪った張本人が魔王ゲラであることも分かった。そのあと七闘士やらなんやらが立ちはだかって全て蹴散らした。あとは空中に浮かぶ魔王城に乗り込み、ゲラを成敗するのみ!
「よし!このままいくぞ!」
僕は長時間の使用でぬるくなってた額の冷却シートを新しいものに貼り換え、心機一転。ノンストップで最後の難関へと挑む。
「そういちーーーー!!!!ちょっと来なさい!!!!」
階下より明らかに怒りのこもった声が2階の我が自室にまで響き渡った。おそらく10年、50年、100年先の未来でもハッキリと変わることは無いと言い切れることが一つある。母親というモノは、なぜか毎回「イイところ」で子供の邪魔をするものだ。
「…はーい!」
額に冷却シートを貼り付けたまま階段を降りると母が一冊の本を手に僕を睨み付けている。
「…えーと…何?」
「想一…これに見覚えは?」
母が持っていた本は僕がベッドの下に隠していた肌色が多めの絵本、ではなく現代国語の教科書だった。
「あれ、僕の教科書だ…なんで母さんが持っているワケ?」
「バカ!芦沢先生がね!さっきわざわざ届けてくれたのよ!」
しまった!学校で保健体育の教材的DVDを友人に貸すため、取引場所の体育倉庫までその教科書に挟んで密輸していたことをすっかり忘れていたのだ。役目を終えた教科書はおそらく跳び箱の上にでも置き去りにされていたに違いない、それを先生に発見されたというワケか。
「まったく恥ずかしい子だよアンタは!今度学校でちゃんと先生にお礼をいいなさいよ!」
「…は…はい…すいませんでした…」
これは心が重くなった…なぜなら現代国語は担任である芦沢が受け持つ教科、しかも月曜日のテスト初日にはもれなく現国もラインナップされている。これはそこそこの点を取っておかないと何を言われるか想像するだけでも恐ろしい…
僕はとぼとぼと自室に引き返し、やりかけのゲームコントローラーを握る。
「よし!やるかっ!!」
わたくし明日想一、切り替えの早さはニュートリノ並だと自負しています。
今の子って動画をダウンロードして楽しむ方法が主流だから
DVDを買ったりするのは少数派なのだろうかとふと思う。




