Act2.「みーちゃん」
学生時代にゲームばかりしていた人に限って社会人になるとバッタリやらなくなってしまうことが多い…
「テストも近いってのに…余裕だねぇ…想一」
「いや…違うんだ、なんというか、これも勉強の為なんだよ」
僕がはるばる出向いた人物、レトロゲームマニアの堀田は明らかに見下した態度で僕に「ゲームステーション」を手渡す。ちなみに堀田の家は自宅から2軒も離れた場所にある。
「それ、純正の初期型だからな、傷をつけないでくれよ」
「分かったって、サンキュー」
僕は最新のゲーム機が発売されるたびに、前に使っていたゲームは全て売り払って買い換えるというタイプのゲーマーなので二世代も前のロープレメイカーを遊ぶ手段を持ち合わせていなかった。そのため、やや曲がった性格のマニアックな友人にわざわざ助けを求めたのだ。
家に帰り、軽く母親に説教をされてから、中途半端に模様替えを終わらせた自室でさっそくロープレメイカーを起動させる。ゲームが起動するまでのロード画面を見つめながら僕は甦った過去の記憶をもう一度掘り起こしていた。
9歳か10歳のころだったか…ある女の子に僕はこのゲームをプレゼントされたのだ。その女の子は僕よりも2歳か3歳…詳しくは覚えていないけど、とにかく年上の子で、僕は彼女のことを「みーちゃん」と呼んでいた。本名は分からない。僕はみーちゃんの家でよく一緒にゲームをして遊んだ。そしてみーちゃんは物知りで頭が良くて、しょっちゅう宿題を教えてもらったこともある。
だけど、今思えばみーちゃんの家庭はあまり恵まれてはいなかったように思えた。僕が遊びに行ったら両親が物凄い剣幕で言い争いをしていてゲームどころじゃなかった、という気まずい場面に何度も出くわした記憶がある。そんな時は僕とみーちゃんは彼女が飼っていたミッキーという名前の犬といっしょにあてもなくだらだらと散歩に出掛けた。どんな会話をしていたかは全く覚えていないけど…
そして多分家庭の事情だったんだろう、ある日僕がみーちゃんの家に行くと、誰もいなくなっていて、突然引っ越してしまったということを知った。その時は泣きながら家に帰ったなぁ…。だけど、帰宅するとポストに小さなリボン付きの紙袋が置いてあることに気が付いた。その中身こそが、今起動させているロープレメイカーだ。
みーちゃんは多分僕と一緒に遊ぶつもりでこのゲームでオリジナルのRPGを作ったけど、急に引越しをせざるを得なくなった、だからせめて僕にだけでも楽しんでもらおうとこんなことをしたに違いない。でもその当時、僕はゲームステーションを持っていなくて、こうやって今みたいに起動させることが出来なかった。いつかゲームステーションを買ってこのゲームで遊んでみようとどこかにしまっておいたつもりが、なんかの拍子で本棚の後ろに隠れてしまい、そのままこのゲームの存在自体忘れてしまったということなんだろう…僕ってば本当にバカだ。
幼き自分を思い切り叱り付けたい気持ちでいっぱいになっているうちにメモリーカードに保存されいたゲームデータの読み込みが終わっていて、さっそくゲームをスタートしてみることにした。
画面が暗転した後、青い空の背景がじんわりと浮かび上がり、大きな白文字のテロップが画面上からゆっくりと降りてきた。
『ウセディクス』
コレは多分、みーちゃん作のオリジナルゲームタイトルだ。
堀田のような友人は学生の頃には頼もしい存在(?)




