Act1.「そーくんへ」
初代プレイステーション世代の方にオススメ(?)です。
テスト前にいざ勉強をしなければならなくなった時、思わず部屋の掃除や模様替えをしたくなってしまうことを「セルフ・ハンディキャッピング」というらしい。ようするにワザと自分を不利な状況に立たせることで「あ~…あの時部屋が汚くて掃除しなきゃいけなかったからしょうがないよなぁ…」などとテストの点が悪かった時に気持ちをごまかすことが出来るから自分に甘い性格の人はついついやってしまうというモノ。
そして今まさに、自分は大晦日ですらしたことのない大規模な部屋の模様替えの真っ最中である。ついでに言うと一週間後は高校三年の一学期期末テストと言われるビッグイベントが待ち構えている。勘違いしてもらいたくは無いが、今こうして漫画だらけの本棚を汗だくになりながら引きずっているこの行為は断じてセルフ・ハンディキャッピングなどではない。いざ勉強しようと机に向かった時、真っ暗なパソコンのモニターにちょうど本棚に敷き詰められている漫画の背表紙が写りこんでしまい、勉強どころではなくなるからだ。ちゃんとした理由だ。そしてその本棚を動かすにはベッドの位置も少しずらさなければならないのでこれは部屋中の家具を引越しするしかなくなってしまった。面倒くさいけどしかたがない、全ては勉強の為である。
ようやく第一関門の本棚を動かし終えた。その際、棚のささくれたトゲに腕を引っ掛けてちょっとした引っかき傷を負ってしまう。「これはいかんなー、休憩しないと」と本棚に置いてある絆創膏の箱を手に取ろうとしたが、その時ふと何かが視界に写りこんだ。本棚が元あった場所に何かが埃まみれになって転がっていた。よく見るとそれは少し厚めのCDケースのようであり、手に取ると何やらゲームソフトのパッケージであることが分かった。ケースを覆っていた埃をティッシュで軽く拭き取り、そこには「ロープレメイカー」というタイトルが露になる。
「なつかし~」
このゲームは今より二世代ほど前のゲーム機「ゲームステーション」で遊べるソフトであり、自分でオリジナルのRPGを作成して遊べるという代物だった。しかし、自分はこのソフトを買ったこともないし、ましてやプレイしたこともない。ただ幼い頃、そんな名前のゲームのCMを何度か見たことがある。というぐらいモノだった。こんなモノがなぜここに?疑問は色々とあったが、とにかく好奇心を膨らませながらケースのフタを開いてみた。
「これは…」
ケースの中にはロープレメイカーの説明書とソフトであるディスク、そしてゲーム中のデータを保存する為のメモリーカードが一枚同梱されていた。その小さなビスケットサイズのメモリーカードには油性ペンで 「そーくんへ」 と一言書かれている。
その一文で全てを思い出した。
これは大変だ。僕は模様替えの騒音に痺れを切らして怒鳴り散らしてきた母親を尻目に、陸上選手の如き疾走で家を飛び出す。
もう勉強どころじゃない、とにかく僕はある人物に会うために走りまくった。言っておくけど、これも断じてセルフ・ハンディキャッピングなんかじゃないぞ!
作中ゲーム「ロープレメイカー」のモデルはもちろんご存知「RPGツクール」です。学生の頃に友人とオリジナルゲームを作って遊んだ経験を元にこの作品を作りました。




