インストール中... 研究所の今昔
そこはとある未来、日本のとある町のとある研究所。そこには一人の博士と一人の助手がいました。
逆に言えばその二人しかいません。まあ、生物だけを数えるということならですけれど。
その研究所にはその二人のほかにロボットがたくさんいます。
その種類はというと、今これを見ているあなたの時代にある自律思考ロボットを何世代も改良を重ねほとんど人間と変わらないほどの感受性をもっているものとか、体の中に永久機関を備えるロボットなどいろいろなロボットです。
おや、助手さんが博士とはなしていますよ。少し聞いてみましょう。
「え?僕がなぜ科学者を目指したかって?そりゃあ僕がなりたかったからに決まっているだろう」
「いやいやいかにも当たり前みたいな顔でさらっと会話を破綻させないでくださいよ」
言い忘れていましたが助手さんは女性です。かわいい顔をぷりぷりさせて怒っています。でもぷりぷりなんて表現方法古すぎませんかね?しかもこの未来からみればもう古代遺産みたいなものかもしれません。
「まあそんなに顔をぷりぷりさせて怒るんじゃないよ」
別に古代遺産ではありませんでした。
「まあまともに答えると、やっぱりあの二人の影響が強いんじゃないかな」
助手さんは首をかしげてまたたずねます。
「あの二人、とは?」
博士は笑いながら答えます。
「二人と表現するのはちょっと他人行儀すぎたね、まあその二人っていうのは僕の両親だ。僕の両親も科学者でね、僕はこんなおじさん、おじいさんと言ってもいい歳になっても、まだあの若かった二人には追い付けていないのかもしれないと思うほどにメチャクチャでハチャメチャでとても人の親とは思えない人達だったけど、それでも僕は尊敬していたし、かけがえのない家族だったんだ」
博士は昔を懐かしむように微笑みながら言葉を続けます。
「僕は物心ついた時から父さんや母さんのような科学者にあこがれていたし、なぜか知らないけど僕は絶対に科学者になれると信じて疑わなかった。このあたりは母さん譲りかな?」
「でも博士がちゃんと博士しているってことは、子供のころ思っていたことが本当になったってことでしょう?come true じゃないですか。すごいじゃないですか」
博士はその言葉を聞いて真剣な表情になり助手さんの眼をしっかり見つめながら言いました。
「いいかい、僕は子供のころから本気で科学者になりたいと思っていたし、科学者になるために両親がやっていることを見て少しでも技術を盗もうともしたし、自分一人で独学で勉強をしたりした。
そんな僕が科学者になれなかったらそれは努力は無駄だと神様が言っているようなもんなんだよ、だから子供のころの僕はやれることをすべてやったらその後は自然に成功するものだと思っていたし、今も思っている」
助手さんはその言葉を聞いて少し不満そうです。
「でも博士ーそんなこといっても私中学校のテストでもうやれることはないというほど自信があったのにそのテストの結果は散々でしたよ」
「あっはっは、それは君が自信過剰なだけじゃないのかい?」
「違いますよ!と言いたいところですが中々反論できませんね」
まだ不満そうな助手さんをなだめるように博士は言います。
「やれることをすべてやってもできなかったときは、そのやれることがまだあったってことだよ。その点僕の両親はすごかったなあ。」
「どこがどんなふうにすごかったんですか?」
「あの二人はやれることを全てやるだけじゃ飽き足らず、やれないことまでやってしまうんだよ」
助手さんはとても筆舌に尽くしがたい複雑な顔をしています。
「やれないことをやるって盾矛していませんか?」
「いくら理系だとはいえ矛盾をそういう風に間違えるんじゃない、どんな読み方をするんだよ。まあ説明するとだね、ちょうど僕が聞いた話はあの二人のテストの話だった。あの二人は超頭がよかったし普通にやってもいい点を取れるんだろうけどね、中学校三年の最後の社会のテストの時に二人はあることをした」
「あること、とは?」
「二人はこれまでの三年間の問題の出題傾向を予測して、自分たちで問題用紙を作りそれを、それだけをパーフェクトにした。」
助手さんは目を大きく見開いて
「ま、まさか・・・」
「ここまで来たら想像できるね。テスト当日に配られた問題用紙はそれと全く同じものだったんだ。」
「そ、そんなことが・・・できるわけないでしょう!」
「いやそんなのただ頭がいいだけでできるわけないだろう、まさか問題用紙をぬすんだわけじゃあるまいし」
「じゃあなんで・・・」
「そうあの人たちはただ頭がよかったんじゃない」
博士は精一杯もったいぶっていいます。
「あの二人はとても、すごく「運」が良かったんだ」
「運、ですか」
「あの二人が出かけようとするだけで大雨がやみ、太陽が顔を出す。まるで外へ出かける二人にいってらっしゃいを言っているようだったよ。あの人たちは惑星までも手玉に取っていたようだった。でもこれじゃあまだインパクトが足りないな」
博士は顎に手を添えて、必死に思い出を掬い上げようとします。そして何かを思いついたかのように、いやように、はいりませんでしたね。とにかく何かを思いつきパッと顔をあげました。
「そうそう、あれは僕らが海外旅行に行こうとしているときだった。それは何回も飛行機を乗り継いで行かないといけない場所だったんだ」
そこまで言ったとき、博士は助手さんが勝ち誇ったような顔をしていることに気づきました。
「何だい・・・その顔は?」
「いやーさすが博士といえど這いよる歳の波には勝てないようですねぇ、わかっちゃいましたよその話の続きが、いまなら「次にお前は~~と言う!」ができる気がしますよ。話のオチを私ごときに予測させるとは博士の話術もおちたものですねぇ、もう博士を私に譲った方がいいんじゃないんですか?」
クソ調子乗っています。
「話の続きを予測させただけで職を卸されるってどんなエンターテイナーの会社なんだよ、首切るぞ」
首を切るといっても、物理的に頭と体を切り離すってことじゃないですよ。そんなことをする子じゃありません。
「なんだね助手君、何か文句があるのかね?」
「誰も博士を譲るとは言ってねえし何で僕が助手になってるんだよ」
博士(新助手?)は昔からの言葉使いを必死に直して大人の威厳を保とうと日々努力しているのですが、ヒートアップすると昔の言葉使いが出てしまいます。というか大人の威厳って助手さん(新博士?)も大人なんですけどね。
「そこまで自信があるのなら言ってもらおうか」
「ああいいですよ、言ってやりますよやってやりますよ。私の読みにびっくりして黄泉の世界へ旅立たないでくださいね」
助手さんがフラグを立てまくっています。いやもう奉っています。
「どうせ本当は乗るはずだった飛行機に乗り遅れてしまって、けどその飛行機が墜落してしまって乗らないでよかったね。とかいう話なんでしょう?」
「半分あっていて、半分外れているね」
「どこが半分あってたんですか?」
「僕たちの乗った飛行機が落ちた」
「はああああああああ!?お、落ちたぁ!?ということはここにいる博士は?もしかして幽霊?悪霊?幽体?科学の才を集めたこの研究所に幽霊なんて非科学的なものがいる!これは正反対のものほど同居しているという人間の新しい真理か!?」
博士の衝撃的な言葉にこちらが驚くほど動揺しまくっています。
「僕は死んでないよ、ほらこんなふうに人にも物にも触れるんだから」
そんなことをいいながら博士は右手で助手さんの頬をひっぱり、左手でたまたま近くにいたロボットをぺたぺた触ります。
「ひゃあひゃんひぇひゃひゅひゃったんでひゅか?」
訳すると「じゃあなんで助かったんですか?」ですね。
「飛行機は墜落じゃなくて不時着だよ。ちょうど海に不時着したんだ、日本から海外へ行くんだ逆に海に落ちないほうがおかしいくらいさ」
「博士ぇ、でも今の話だったらどっちかというと運悪くありませんか?」
首を振りながら両手を天に向けるというオーバーリアクションをとりながら
「まだオチは来ていないよ、その不時着した場所が僕らが行こうとしていた旅行地なんだったんだ」
「ほうほう、そりゃ良かったですね」
なぜでしょうか、助手さんが心なしかそっけない態度をとっているように思えますが・・・
「おいおい自分の予想が外れていただけで拗ねてしまうとは君は子供かい?」
「さっきの博士の言葉を借りるのなら半分合っていて、半分は違う理由ですね」
助手さんは博士がその半分の理由を訊く前に自分から答えます。
「そんなにすごい科学者だったんだら飛行機なんか使うんじゃねえよ」
助手さんどれだけツッコミたかったんですか、思わずタメ語になってますよ
「いやまあ助手君の言っていることも分からなくもないよ?とにかくテレポート装置でも自家用光速ジェットでも自分たちで発明してそれで行けっていっているんだろう?」
「いや光速ジェットまでとは言ってませんが、てかそれ一秒で地球を7周半しちゃうじゃないですか」
「まあ僕も小さいころだったし、なぜかはわかんないんだよね。とにかくあの二人は何を考えているかわかんなかったし」
それは自分で作った料理より、人に作ってもらった料理のほうがおいしいとかそんな感じですよ。
「まああの二人の面白いところは、一人と一人の時は運がとてつもなく悪かったっていうとこなんだよ。」
その言葉に助手さんは目を輝かせます
「うわーそれ運命の相手みたいでいいですね!ステキじゃないですか、憧れちゃうなあそういうの」
「やはり助手さんは女の子だね、けどあの運のなさは憧れるには重すぎるよ」
博士はキャスター付きの椅子でグルグル回転しながら言います。
「一人だけででかけようとするといきなり大雨がふって。一人だけで旅行に行ったら普通に着いてしまう」
「着いてしまうってそれ普通じゃないですか」
「まあそんなわけであの人たちは例えるならマイナスっだったっていうことだね、一人一人はマイナスでもその二人が掛け合わさったらプラスに一気に逆転する」
博士はなかなかいいことを言いますね。
「よかったですねー、博士はマイナスを受け継がなくて」
「いやーそれだけは僕が両親から貰わなくていいと思ったものだよ、他の物は何でももらいたかったけどね」
「そんなに憧れちゃって、博士ってもしかしてマザコンでファザコンですか」
「否定はしないよ」
否定しなさい。
「やっぱりですか博士、もう丸わかりというか丸出しというか」
「自分の親がノーベル化学賞とれるほど偉かったのならそんなの尊敬しないわけがないよ」
もう清々しいほどですね、見ているこっちが恥ずかしくなってきます。
「じゃあ博士!一番もらってうれしかったものは何ですか」
その言葉を聞いて博士は迷わずに言いました。
「そりゃあ考える必要もなく、あいつだよ。」
そういう博士の視線の先には博士がまだ少年だったころの写真が・・・
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