理不尽にも生徒会の雑用に…
「おい、お前、ちょっと付いて来い」
はい?いくのはいいけど説明してくれますか?この駄目会長が。
どうも、私は萩野友香です。ただいま私の腕を掴んでどこかに向かっているこの駄目会長こと西野龍生です。
会長は容姿も整っていて成績もよい、リーダーシップもあり人気である。問題があるとすれば俺様な性格ということだ。
そんなちょっと困った会長がなぜか私を連れてどこかに向かっています。廊下にいる女子の皆さんが睨んだり悲鳴上げたりしています。ちょっと怖いです。まぁ、原因はすぐわかるんですけどね。それは私の容姿にある。眼鏡に二つ結びの何処にでもいる平均的な少女なのだから。ちょっと、そこのお姉さんあたしのほうが可愛いのになんであの子とか言わないの、泣きますよ?
「会長、何処行くんですか、離してください」
「うるせぇ、いいから付いて来い」
ちっ、教えてくれないか。腕を振りほどこうにも力が思ったより強く離れることはない。
そんなことは露知らずズカズカ進んだ先にあったものは生徒会室。あ、駄目だこれ、死んだ。
「おい、つれてきたぞ」
「離せ!私は帰る!1秒たりともここに居たくない!離せ!」
「うるさいよ、友香」
「さーせん!!」
撃沈。何故私が嫌がったかというとここ、生徒会室には従兄弟の音無紀南がいるから。こいつは危険人物だ、容姿は会長に劣らずよく、物腰の柔らかい性格であり、副会長である。だが、この音無さん、秘密がある。そう、腹黒どSなのです。何回餌食になったことでしょうか、しかも女子たちの鬱憤を私で晴らしてくるんです。こいつがいいって言う人、病院行きなさい。いいところ紹介します。
「なんで私ここに連れてこられたんですか?」
「友香に生徒会の仕事を手伝ってもらうことにしたんだよ」
「なんで!?」
「いやさー、いままでやってたんだけどそろそろ人数的に無理が生じてきたんだよね」
「だからこいつがお前を指名したわけだ」
「いや、他にも優秀な生徒いるじゃん、なんで私なのよ」
「だってさー、わかるー?他の子呼んだとしても仕事しないわけよ、俺らに見とれて」
「ちょっと待て、なんで男子という選択肢がない」
「なんでか断られるんだよね、青ざめながら」
それ絶対周りのお姉さま方の威圧じゃないかな?うん、絶対そうだよ。だって体験したもん。
「他の役員は?」
「今書類の提出にいっている、よしあいつらが帰ってきたら紹介するからとりあえずこいつを30部ずつコピーしてきてくれ」
さっそく仕事押し付けてきやがりましたよ、このくそ会長。頭捻りつぶしたろか。
ぐふんぐふん、さーてお仕事お仕事ー、私は何も見てなーい、紀南のものすっごく睨んだ顔なんて見てなーい。
コピー室にそそくさと逃げ込みコピーに専念する。えっと、両面コピーでいいのね。あー、この機械いいわー、早いわー。あの子が知ったら欲しい言うだろうなー。
おっと、終わったか。
「会長ー終わりまs」
「龍ー、この子」「だぁれ?」
なにこの中学生、あ、よく見たら知ってる顔。まぁ一方的に知ってるんだけどね。
「あぁ、こいつは雑用係だ」
「えー、大丈夫なのー?」「この前みたいなやつじゃないー?」
本人の前でなんてこと言うんだ。わからないでもないが、あんなふうにやられてるんなら警戒してもおかしくはない。
二人で私の周りをぐるぐる回り始める、鬱陶しい。あと雑用係言うな。
「萩野、こいつらは書記の夏野海人と勇人、そしてその奥に居るのが会計の細谷青だ。んで、こいつは雑用係の萩野友香」
「友香ちゃんかぁー、よろしくねぇ」
「……、よろしく」
「よ、よろしく…」
うわぁ、無理。なにこの双子の絡み方、会計君はいいとしてさ。
双子兄の海人はクリーム色の癖っ毛が左に流れているほうで、弟の勇人が右に流れているそうだ、これは友人情報。
会計君は帰国子女らしくちょっと日本語がたどたどしい。そして金髪で洋風の顔立ちだ。
今はお姉さま達がいないのでまだいいが、ここが廊下だとするともう視線に串刺しにされていましたよ。被害妄想なんかじゃなくて事実なのだから本当恐怖するよ。
飽きたのか仕事に戻っていく双子。私は仕事終わったんだけどどうすればいいんだろう。
「あの、会長、他には…」
「あぁ、終わったんだっけか。次は、この書類に判子押してくれ」
「わ、わかりました」
なにこの山。これ本当に紙?机に乗ってるのは良いけど私の顔くらいまであるよ?ちょっとどころじゃなく多いよね、どんだけためてたんですか。まぁでも個人の机にもたくさんの書類があり、みんな真剣に取り組んでいる。
俺様で少し苦手だった会長も、腹黒の従兄弟も、少し鬱陶しい双子も帰国子女な会計君も真剣で私も少しは役に立てたらと思った。
頑張れるだけ、頑張ろうかな。
とか思った過去の私を全力で殴り飛ばしたい。くっそ、なんだこの量は!押しても押しても減らないんだけど!!そろそろ手の感覚無くなってきたよ!?あまりの量にひーひー言ってると目の前にカップが置かれた。顔を上げると紀南の姿が。
「ん?」
「休憩、少し休みなよ。初日だし、ほどほどにね」
どうしよう、紀南が優しい、鳥肌が起立しております。あ、ごめんなさいごめんなさい。もう言わないから笑顔でカップ取り上げるのはやめて。他の役員のほうを見てみると、中央に置かれているソファに集まって寛いでいた。ソファ気持ちよさそうだな。
その視線に気付いたのか双子の兄のほうがこちらを見て手招きをしている。来い、ということらしい。
カップを持ってそちらに移動する。
「友香ちゃん、紀南の従兄弟なんだって?」
「はい、そうですよ」
「へぇ、道理で紀南が珍しく優しいわけだ」
「なにか文句でも?」
「べーつにー?ないよー?」
従兄弟ということで一応警戒は解いたようだ。人懐っこくなっている。机の上にあるチョコに手を伸ばしながら考える。
なんだかんだで雑用係になっているわけだが、私に明日はあるのだろうか、確か紀南に聞いた話によるとファンクラブがあった気がするのだが。そこらへんから酷い視線を受けかねない。少し注意しておこう。
休憩が終わるとまた仕事に取り掛かる。
やっと半分まで終わりあと少しとやる気を込め、ようとしたときに突然生徒会室のドアが開いた。
「おい、お前らー。もう下校時間だ、そろそろ帰れー」
やってきたのは担任の前原先生だった。
「萩野?どうしてここに…」
「あぁ、こいつは今日から雑用係としていれたんですよ」
会長が説明してくれている。先生も納得したのか頑張れよとか言ってくる、つか先生何しに来たの?
「前原先生は生徒会の顧問だよ」
双子弟がこっそり教えてくれた。なるほど納得した。話もほどほどにし、私たちは帰宅のため生徒会室を出る。
外はもう暗くなっており、うっすら星が見えている。
「友香、送るよ」
「え?あ、うん。ありがとう」
紀南と帰り道を歩く、従兄弟だが家は意外と近くなのだ。言葉に甘えて送ってもらうことにする。
「ありがとうね、友香。正直助かった。あのままだと仕事は滞ったままだし、会長倒れるまでやりそうだったから」
「え、そうだったの。というよりそんなに溜まってたのね」
「うん、人数やっぱり足りないよね。今年は特に少ないし、いままでやれてたのがすごいくらいなんだ」
「去年は倍くらいいたよね」
「多分選挙の仕方が悪いよ」
紀南さん、顔が怖いです。
確かにこの学校の生徒会選挙は変わっている。なぜなら人気投票なのだ。大体選ばれるのが容姿のいい奴、そんな人なら生徒も言うことを聞くだろうと教師側も認めている。だからか人数が毎年違うのだ。今回選ばれたのは4人だけ、去年は8人いた。
この差はなんなんだろうと思う、教師もこれはいけないと思わなかったのだろうか、あきらかに人員不足である。
俺様会長は意外と頑張り屋なようでいままで無理してでも仕事を完遂させていたが限界がきたようだ。
だから手伝いとして何人かを連れていたようだが、女子だと容姿のせいかこちらにやたらとかまってきたり媚売りにくるようで仕事をせず、やめさせ。男子を連れてきたかと思うと次の日に青ざめて辞退していくのだそうだ。
そして紀南が私を推薦したんだと。
そりゃ、誰でも警戒するわな。仕事しない奴が入ってきたんじゃないかと思っていたんだろう。
最初はやる気なかったけどここまで聞いてしまっては、やるしかなくなってきた。
「紀南ー、これからよろしくね」
「っ、うん。ありがとう、よろしく」
微笑みそう告げると驚いたような顔をしてこちらを見た後頷いた。
___次の日
「友香、昨日はなんだったの?」
はい、どうもおはようございます。萩野友香です。私はただいま教室に入った途端、友人の前原鈴香に強制的に机に座らせられております。あ、この子はコピー機のところで話に出た子です。そしてなんと前原先生の姪だそうです。まぁ知ってる人は他にはいないんだけどね。
鈴香が昨日のことについて聞いてくるがなんと答えればいいのやら。
「いや、ほら紀南に呼ばれたんだよ」
「なぜ会長が来た」
しょうがない、正直に話すとしよう。決して鈴香が黒い笑みを浮かべていたとかそんなじゃない、と信じたい。
人員不足で仕事が片付かないこと、手伝いを頼んでもちゃんとやってくれないこと、そこで従兄弟が提案して私を連れて行ったこと、そして私が雑用係になったこと。
掻い摘んで簡単に説明したが納得してくれたみたいだった。詳しいことは前原先生に聞いてくれないか。
それよりも気になることがある、むしろこっちが気になりすぎて話に集中できていなかったくらいだ。教室内の女子たちがこちらをちらちら見てくる、おそらく先ほどの話を聞いていたのだろう。教室に入った直後よりは視線のきつさは感じなくなっている。
他のことも聞きたそうにうずうずしているのが丸わかりだ。堂々とくればいいのに、とか考えている私である。
「理由はわかったわ、それよりも気をつけなさいよね、伊達にファンクラブがあるわけじゃないんだから。下手するとあんたやられるわよ」
「うん、わかってる」
「いつでも私に頼ってよ」
頼もしい味方だ、安心する。油断してはいけないけどね。
まだなにもしてきてないことからすると他の女子にはさほど浸透していない模様。昨日見ている人も半信半疑なのだろう。そのままじっとしてればいいのに。
そんなことを考えていると前原先生がやってきた。
「席につけー、HRはじめるぞ」
「起立、礼」
細かい連絡などをしてHRを終える。1限目は化学みたいだ。第一実験室に移動しなくてはいけない。
廊下に出ると何人か出ていたのかこちらを見てくる、が無視だ。面倒このうえない。
授業も終わり昼休みになった。鈴香と一緒に食べるため、弁当を開けようとしたとき、目の前に女子生徒が近づいてきた。
「あ、あの、」
早速来たかと構えたがその子はドアのほうを指差している。つられてそっちのほうを見ると双子がいた。
教室内は女子の歓喜の声に包まれる。鈴香の顔が怖いことになっているので落ち着いてください。
仕方なく双子のほうに足を向ける。
「なんですか?」
「んーん。ちょっと様子を見に来ただけー」
「友香ちゃん見れたし、僕たち帰るねー」
なんだとこの野郎、この言葉がどれだけ女子たちに火をつけたと思ってるのだ、ほら周りを見ろ。明らかに敵意向けてきてんだろうが、気付け、なに、見られてるのに慣れすぎて麻痺してる?それともこれわざとなの?あ?その小さい頭つぶすよ?
怖い顔してる、と鈴香に止められるまで双子の消えた方向を知らずうちに睨み続けてたらしい。周りの女子が若干引いてた。
そんなこんなで放課後。
紀南が迎えに来たので悲鳴をBGMに生徒会室に向かった。うん、紀南さんの耳栓最高です!ありがとうございます!
「連れてきたよ」
「あぁ、萩野。今日はこれをデータにしてくれ」
そう言って差し出してきたのはまたまた昨日くらいの高さがある、書類の山でした。こんなのデータに戻してたら腱鞘炎になるぞ。目で訴えても紀南が怖いので何も言えない。くやしいがやらなければ別の意味で私がやられるので急いで取り掛かることにした。
山も半分になりかけたところで会長が
「友香、この書類を風紀委員会に届けてくれない?」
紀南さんが一枚の書類を持ってきた。
「風紀委員会に?」
「そう、休憩がてらに行って来て、提出するだけでいいはずだから」
そう言って渡してくる。文句を言いたかったが休憩もできるので反論せずすぐさま向かう。
廊下を出て反対の棟に風紀委員会の教室がある。無駄に広い学園は反対の棟に行くのも少々大変なのだ。
授業などは少し急いでいかないと危ないくらい。
休憩と言ってくれたのでゆっくり反対の棟に向かった。