第三話 なぜ僕らはブランコが大好きなのだろう
平日の夕方、学校から帰宅すると屋敷の庭にデカい木で造られたであろうタイトルにも載ってあるものがあった。
そう『ブランコ』だ。登校するときにはなかったはずのものがいつの間にやら造られていた。
犯人というか実行犯は間違いなくヒメしかいないだろう。
とりあえず庭に駆け足で向かう。
庭に行くとヒメはいつもみたいにパラソルの日陰でお茶を飲んでいた。
「あら帰ってきましたか」
「『あら帰ってきましたか』じゃねぇよ!? これはなんだよ!?」
ビシッとブランコに指をさす。
「いいでしょ? ギネス記録並みのデカさですのよ! 乗ってみます?」
「えっ! いいの? では、遠慮なく~、じゃねぇよ!? なんで造ったのか聞いてんだよ!」
おもわずノリツッコミをしてしまったがおかまいなく。
「乗ってみたかっただけですけど?」
「…………それだけ?」
「それだけですけど?」
なんでこういうところだけは金持ちお嬢様なんだろうな~。
「いま『まあ可愛いところもあるじゃねぇか、このやろ~』とか思ったでしょ?」
「いや……思ってねぇし……」
頭を抱え、やれやれと悩ます。
どうすんだ? これ……。
「ヨル」
「なんだ?」
「みなさんと一緒に遊びますから呼んでくださいな」
「だからそんな場合じゃ……わかったよ……」
『そんな場合じゃ』のところで拗ねかけたので電話をかけることにした。僕って甘いのかな……。
「デケェな……」
「うん、たしかに」
「南雲、はじめて見ました~」
電話をかけて十分もしないうちにみんなが集まった。
最初の感想はやはり「デカい」からはじまるのがこのブランコの宿命のようです。
「あたしが先に乗っていいか?」
「あっ! ずるい、わたしも乗りたいです!」
「南雲も~」
「お静かに! みなさんの気持ちは十分にわかりますわ、だが……乗る順番はこれで決めますわ!」
奪い合いが勃発するのがわかってて、あらかじめ用意されていたであろう『くじ引き』を取り出すヒメ。
手に握ってあるくじの数は全部で1……2……3……4……あれ?
「四本しかないが、ヒメは乗らないのか?」
「いいですの、私はさっきまで三時間乗ってましたから」
「さ、三時間……」とみんなして驚きを隠せない、というか呆れていた。
なにわともあれ、引くものを握って決める。
「ならせいの、で引くからな」
「せいの!」と僕のかけ声と共にスッと引っぱる。
結果は僕、南雲ちゃん、莉乃、冬葉の順番になった。なぜ最初?
「わたし引き運ないな~」
冬葉が引いた紙を見つめながらに言う。
最後になったのが嫌なのか、はたまた4を引いたことに落ち込んでるのかを考えるなら前者だろう。
「意外に最後のほうが楽しいかもよ」
フォローのつもりではないが、逆に僕的には最後のほうが羨ましいわけだが。
「そうかな、じゃ〜wktkしながら待ってようかな」
なんか用語がでてきましたがツッコミ待ちなのかな……。ついでに意味を調べておこう。
「夜夏、さっさと乗れよ、あと待ってんだぜ」
「あ、すまん」
莉乃に急かされ、要望でもないムダデカブランコの旅がはじまった。
ゆっくりと立ち漕ぎをして、揺さぶりを大きくしていく。
十往復ぐらいしてからあることに気づいた。
夕方だからだろうか、風はそんなに強くもないにも関わらず、直に顔に強風が当たってすごい寒い……なので座ってスピードを落とそうとすると。
「なにスピード落とそうとしてんだよ! 風を感じて……こいよ、ドヤッ」
莉乃から決め顔でウザいコメントをもらいました。
早く終わりたい。
仕方なくそのまま三分間。なにも考えずに過ごそう。
一分経過。
やっぱり寒い……低くしたら莉乃がうるさいし、なにか考えよう。……そうだ、エロいことを考えたらいいのでは!? うんそうだ、そうに違いない、うんそうしよう!
ならばさっそく唸りながらに妄想しようじゃないか!
うーん。
「なに考えてんだー?」
横から不思議なのか叫びながらに質問してくる。
「今はやめてくれー! 瞑想してんだ!」
「…………しっかり景色を眺めろよー!?」
ごもっともです。
莉乃に正論をツッコまれるとはな。
考えるのをやめて、遠くの雲を眺めることで気を紛らわすことにした。
ようやく三分が経ち、足で徐々にスピードを落とし、ようやく大空への旅が終わった。
「ふぅー」と声をこぼしながらみんなの元に戻ると。
「どうだった?」
と莉乃が感想を求めてきた。
「そうだな、風が強くて少し寒い」
「楽しくなかったか?」
「楽しかったよ、もちろん。新感覚で」
「へ~楽しみだな、じゃ次、南雲だな」
「いまからワクワクがとまらねぇ~」
南雲ちゃんもツッコミ待ちなのかな? と思うがスルーしておく。
ブランコのイスに座り、静かにギーコーと金属音が響く中、ゆっくりとまたゆっくりと漕ぎだした南雲ちゃん。
高さはないが本人から「速いです~」という声が届いてきた。
「南雲……楽しそうだな」
「そうだね、わたしもはやく乗りたいな~」
まるで天使が遊んでいるのを見守るようにしている二人。
僕のときとは大違いだな、おい。
「そういえばふた――」「あ~~~~」「――したことある?」
………………。
「いま夜夏くん――」「あ~~~~」「――いったの?」
………………。
南雲ちゃんの絶叫(違うか)が混じるためまともな会話はできそうにない。
途切れた方がなんだか僕が逝ったみたいに聞こえたな。
「南雲~気分はどうだー?」
「あ~~~~~~、あ~~~~~~」
「ふっ……楽しそうじゃねえか、姉ちゃんは悲しいぜ、キラン」
莉乃の声が聞こえないぐらい夢中になっているらしく、おとなしく待つことにする。
その後は「あ~~~」と叫び続けている南雲ちゃんを眺めることで時間は過ぎさった。
癒される。
もしもの話をしよう。いま南雲ちゃんはスカートを履いている、もし立ち漕ぎをしていたら…………
「夜夏どうした? なんかにやけてないか?」
しまった!? 顔に出てしまったか、目の保養もできましたのでこの話はおしまい。
「なんでもないです」
「そっか」
そのまま眺めて過ぎさること二分、ようやく南雲ちゃんが夢の国から帰還してきた。
「どうだった?」
合計二回目。南雲ちゃんからして一回目の莉乃からの質問。
「ふぇ~? ハ○ジの気持ちがわかったかな~」
コメントに関しては「そうですか……」と返答する。
「さぁて……ようやく真打ちの出番だぜ」
「誰が真打ちだよ」
「誰ってあたしのことに決まってんだろ、三人はそこで黙ってあたしのショーでも観戦してるといいさ! じゃ、行ってくるぜ」
莉乃の後ろ姿を目で追っていると背中のほうから不気味なうめき声が……というかヒメだった。
「ふひひひ……ようやくこの機械を使うときがきましたわ……」
ヒメの手には如何にもなリモコンが握られていた。
「ねぇ……それはなに?」
冬葉が目を丸くして聞く。
「見てればわかりますわ。それではポチっとニャ」
ヤッ○ーマンではなくニ○ースのマネでリモコンのボタンを押す。
すると。
「な、なんだ!? う、動けねぇー……」
スタンばっていた莉乃の腰に金具が装着され逃げられないようになった。
さらに。
「姫夏!! これ外せ!!」
莉乃がヒメを怒鳴りつける。
それと同時に自動的にブランコが動きだした。
「うわ! うわ! た、たけー!?」
莉乃が絶叫する中、ヒメがまた一つボタンを押す。
今度は。
「変なとこで止めんな! つかめっちゃこえ~!!!!!?」
後ろ向きMAXでヒメは止め、莉乃の目線は地面に向かっている。
「姫夏ちゃん……莉乃ちゃん怖がってるしそろそろ止めてあげようよ……」
さすがに見過ごすわけにいかないのか冬葉が止めに入る。
そこに南雲ちゃんが。
「南雲、やってみたいかも~」
「それはダメですわ、起動時間が十分しか持ちませんの」
それを聞いた南雲ちゃんは、ほっぺを大きく膨らまし、拗ねた顔になった。
つかできたら乗せたのか?
ツッコミ放棄がずいぶんと多い、僕の日常。
「では本人に聞いてみましょうか。降りたいかどうか」
ヒメが冬葉にそう告げると莉乃のほうに向かってこう投げかけた。
「降りたいでちゅかー? りのちゃん? それとも~あらがいまちゅか~?」
赤ちゃん口調で莉乃に降参するか言い、反応を待つ。
これは僕でもムカつくな……。
それを聞いた莉乃はいかりを隠しもしなく。
「てめぇは俺をおこらせた……いいだろう……かかってコイヤー!」
もう読者はヒメVS莉乃の奮闘記とでも勘違いしているのでは? 少なくとも、すでに僕はそう勘違いしています。
本能のままにもう逃げたいです。
「莉乃ちゃん大丈夫かな……」
冬葉は優しいな。そう感心する。当然か。
「あぶなくなったら僕がヒメを止めるよ、いま止めたら莉乃が悔しがるし」
「そういうもの……なのかな……わたし……まだよくわからないや」
争いを好まない平和主義の冬葉にはこの二人の気持ちはわからないだろう、僕もわからないが。
「南雲は、早く乗りたいな~」
ヒメに断られたのにまだ諦めきれていない南雲ちゃんは、希望をまだ捨てていなかった。
「いや、無理だと思うよ」
「諦めたらそこで人生終了だよ~」
微妙にちがうが訂正しないほうが身のためか。
「そこまでの意気込みなの?」
「南雲は絶対にブランコに乗ります」
「僕が絶対にブランコには乗せません」
「――ここに、一つの矛盾が生じた。絶対にブランコに乗りたい人と絶対にブランコに乗らせない人がぶつかった時、勝つのはどっちー?」
冬葉がほ○たてみたいに説明してくれました。
そんなことをしているあいだに二人の矛盾対決もヒートアップしていた。
目線をブランコに戻すと。
「おいおい……やりすぎだろ」
「「な、ナニコレ~」」
いい加減にしないとあぶないな……つかこの二人(冬葉、南雲ちゃん)は今日どうした? やけにボケる。
さておきヒメがもうリモコンをいじりにいじり、ブランコが凄いことに。
「あ――は――な――ー!」
通訳すると『あたしは負けないぜー』だな。
前後に交互に激しく動く、ブランコは今にも壊れそうでもう結合部分はヤバそうだ。
「ひっひっひ、ならばこれならどう――あっ……」
「いーかげんにしろ」
狂っていたせいか、軽く頭を空手チョップしただけでヒメはのびた。というか気絶した。
とりあえず『とまる』を押し、ブランコを止め『解放』で金具を外した。
あやうく発動させようしたボタンを見ると『回転』と書かれていた。
「さすがにこれはあぶないだろうよ……」
「礼は言わないぜ……でも」
フラフラで立ち上がるのがやっとな莉乃が指さすのは。
「う、うん? あれ……たしか、莉乃で遊んでいて、途中から……覚えてませんわね、ってあれ? うごけな……」
「ようやくお目覚めのようだな、ひめさんよ~」
遠くから眺めている光景。
莉乃がヒメにいかりの鉄槌が下る瞬間の光景。
「莉乃、復讐は……なにも生ませんわよ……」
目の前にいる莉乃と視線を合わせないヒメ。よほど恐ろしいようだ。
「あーそうだな、復讐はなにも生まないよな~」
「そうですわよ、なら……」とさっさと解放されたいのか早口混じりに莉乃に追求するのだが。
「でもこれは復讐じゃねー」
「へっ?」
「これは『お仕置き』さ。ポチっとな」
「じゃあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!」
お嬢様やしからぬ叫びが轟いた今日を『お仕置き記念日』と名付けた(嘘)。
莉乃のお仕置き内容は、ブランコは起動最大時間の残りをすべて使って行われた。
五分間に渡るお仕置きは観るに絶えず途中から僕たち三人は、ラノベの感想を語り合っていた。
その結果がこれです。
「わ、わた、し……もう一生分のおたけびを使いましたわ……ガクッ……」
目が死んでおり、顔色も青白くなり、口を閉じるのもダルいのかポカーンと開いたままだった。
「莉乃、これはやりすぎだろうよ」
「うん、あたしもあとで『やべっ死んだか?』と後悔していた」
莉乃の証言によればブランコを止めた時、ヒメは白目むいてたそうです。
「とりあえずヒメを屋敷に運ぼうか」
「すまん、迷惑かけて」
「いや、悪いのこいつだし」
ヒメを二人で屋敷のリビングまで運び、ソファーに寝かせた。
「看病は僕がするから戻ってていいよ」
「…………あたしがするよ」
「いや、気をつかわなくていいぞ」
「いいや、あたしにさせてくれ」
やけに推してくる莉乃。罪悪感と罪滅ぼしをしたいのかな。
「わかった。まかせるよ」
「おう、まかせとけ」
とりあえず「タオルはよく絞れよ」とだけ言い残し庭に戻った。
「悪いなヒメが余計なことして待たせちゃって」
冬葉にヒメの代わりに謝っておく。
「いいよいいよ、それより姫夏ちゃんは大丈夫なの」
冬葉が心配そうにしていた。
「それなら心配ないよ」
「よかった~」
冬葉がホッと胸をなで下ろす。
「寝てれば治るさ。それより早くしないと日が暮れるぞ?」
思い出したかのような感じに焦りだす。
「じゃ、じゃー行ってくるね!」
小走りでブランコに向かい、イスに座わった。
只今、十七時半を回り、夕日が冬葉の背中を照らしている。
公園で母親の迎えをまつ、子供のようなスピードでブランコは動いている。
ぶっちゃけ巨大の意味はないような距離を行き来していた。
「あれじゃ意味ねーなー」
「うお!? ってヒメはいいのか?」
突然現れた莉乃にあらびっくり。
「なんか拒否られたから戻ってきた」
「そうかい」
あの決心はどこえやら。まあいいか。
「うーんこれじゃ面白くねぇな~、なあ南雲、なんかいい案ねぇか?」
「ふえ? う~高速ブランコ乗りたかったです~」
呆然と立ちすくんでいた南雲ちゃん。
どうやらまだ引きずっているようで、さっきラノベ談議してる時も「ブランコ~」と連呼していたぐらいだし。
「よ~わからんが、あとでアイス買ってやるから案をくれ」
「ふえ? アイス~! なら~二人乗りとかどうでしょ~」
あっさり食べ物に吊られましたよ。
「おっ! いいな! ならば人選は……」
莉乃が僕のほうに怪しい顔を向ける。
「今こそお前の中にあるリア充力を魅せるときだ!」
「僕ってリア充あつかいだったのか!?」
「……っていねー!?」
莉乃が僕のツッコミを無視して、冬葉をさっそくとばかりに呼び止めに行っていた。
流れに呑まれてしまい。
こうなりました。
「よ、よろしくね。夜夏くん……」
「おう……」
冬葉が座り、僕が立ち漕ぎすることに。
「じゃ~漕ぐからな」
「……うん」
徐々に徐々に前後の高さを調整していく。
ある一定の高さになると漕ぎのを止め、さっきと同じように空を眺めながら冬葉に怖くないか確認する。
「この高さなら大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
………………。
確信犯だよな。ツッコんだら負けだと悟りました。
うつむいている冬葉をこの角度からは、表情はまったく見えない。
「楽しいか?」
「凄い楽しいよ、ましては……夜夏くんと一緒だから……」
「あ、ありがとう……光栄です」
どう捉えるかは僕次第だが、褒め言葉として受け取った。
何気なく横にいる二人を伺うと、莉乃はニヤニヤして南雲ちゃんは目をきらめいていた。
なんか気恥ずかしくなった。
「………………」
「…………ねぇ」
「な、なに?」
無言の最中に静かに冬葉が呟く。
ま、まさか……
「このまま……とき……かけられないかな」
「…………いや、できないな」
スルーしたかったが軽くツッコミをいれた。
やはり今日の冬葉(南雲ちゃんも)はやはりおかしい。
「なあ今日はどうしたんだ? やけにボケるし」
「………………じつは」
「じつは?」
「ボケキャラのポジションを狙ってるの」
数秒、考える。
「え、なんで?」
「ほ、ほら、わたしおとなしいし、ボケキャラになったら夜夏くんにツッコミいれてもらえるし……だからなの!」
たしかにヒメ、莉乃、僕だけがしゃべって二人はずっと見ている時が多いことはしばしばある。でも……。
「無理に……自分で作ったキャラは冬葉自身じゃないと僕は思うんだ、作ってしまうならみんな同じになっちまうし」
「なら、夜夏くんは……普段のわたしのことどう思ってくれてるの?」
「そうだな~そばにいるだけで安心感と笑顔にさせてくれる『なにか』をみんなにあげている気がするんだ。だから~今までの冬葉が僕はいいと~思う……ごめん、これは答えじゃないよな……」
「そっか……ありがとね。えっと、そろそろ降りなくていいかな?」
冬葉に言われ、周りを見渡す。
気がつくと夕日が半分以上、沈み夜を迎えようとしていた。
楽しいとすぐに時間が経ってしまうのはなぜだろうな。
名残惜しい気もするが。
「じゃ~降りようか」
冬葉が先に降り、そのあとにジャンプして地に足がついた。
「なぁ、冬葉」
莉乃たちのところに向かおうとしている冬葉を呼び止めた。
「夜夏くんなに?」
「おっ! 告白ですかな?」
「ふお~」
勝手に盛り上がっている二人はとりあえず今は無視する。
「次に冬葉がボケるときは手加減なしにツッコむから覚悟してろよ!」
親指を上に立て、ニカッと笑った。
「ならー、期待してていいからね」
返事のように僕と同じニカッと笑い、前歯を覗かせていた。
「な~んだ違うのか、期待してソンしたぜ」
「しょぼ~ん、なのです~」
「いや、勝手に期待したのは二人だからな!?」
「あと南雲ちゃんにも聞きたいことが一つある」
「はい、なんですか~?」
「今日、なんでヤケにボケるの?」
この質問には莉乃は横で「?」を浮かばせていた。
「それはですね~冬葉ちゃんが~『今日のわたしはボケますので』と言っていたので合わせてただけですよ~」
「つまりは南雲ちゃんが勝手に冬葉と一緒にボケていただけと」
「そのとお~りです」
大きな胸を張り「えっへん」と威張っていた。
「なんで合わせたの?」
「おもしろそ~だったからです」
「なるほど理解できました」
「それはよかったです~では~」
まだ莉乃は横で話が読めないのか「?」が消えていないのを察してください。
「じゃーわたしも帰るね。また明日、夜夏くん」
「よ~わからんかったがじゃーな」
「また明日です~」
「おう、また明日」
サヨナラの挨拶を交わし、庭から出て行くのを確認し、お茶を片付けてから僕も屋敷に戻った。
余談だが次の日に学校から帰宅するとブランコは跡形もなく無くなっていた。
どうやら世界の遊具のない国に寄付したようだ。もちろん装置は外してだが。
今から夜夏の独り言がはじまります。興味がない方は読み飛ばしちゃってください。
後日談あります。
ヒメが庭になにかを造ることは今にはじまったわけではない。というのも過去にいろいろ前例があるのだ。
たとえばスポーツ場は全般やった。あとは消防署や警察署は当たり前に刑務所もある(これは大変だった)し裁判所や病院もある。
最近では遊園地を造ろうとしていたが断念したようだ。
推測するに今後は公園遊具らしい、また造るとすればその部類になるだろうからその時はまたよろしく。
いちいち建てずに観に行けば済むことにわざわざ庭に即興で造っては次の日に学校から帰ってきた時には無くなっている。
なんたる無駄遣いなんだろう、つうかどんだけ屋敷から出たくないんだろうな、あのヒッキーヒメは。
…………まあ愚痴はこれぐらいにしよう。
話は変えるが一つ質問しよう。
あなたは仲良し五人の一員だとします。
このグループはAさんを筆頭に遊んでいるグループだとします。
仮にAさんがいなくてもBさんが代わりに指揮をとり遊ぶとします。
でも両方いなくとも三人で遊ぶ時もあります。
しかし、他の誰かが突っつこうものなら壊れてしまう不完全な存在でもある。
では質問です。
あなたはどの位置になりたいですか?
正確はありません。もちろん結果もありませんし、今後も教えるつもりはありません。
伝えたかったのは考えることだけですから。
ここからは後日談です。
ブランコで遊んだ次の日の朝。
目覚めると外からキーコーという音が耳に入ってきた。
体を起こし、眠い目をこすりながら窓から庭を見下ろすとブランコに誰かが乗っていた。
私服できんぱ……つのというかヒメでした。
朝の準備だけして庭に向かった。
「なんで朝から乗ってんの? 珍しく早起きだし」
「あらヨルじゃないの、ちょっとお待ちなさい」
足で停止させ、そのままの状態で話を続けた。
「昨日は早く寝てしまいましたし、暇でしたので」
酔いと頭痛が治らず昨日はあれからずっと寝ていた。
「いつから乗ってんの?」
「四時からですわ」
「何時間乗ってんだよ!?」
これデジャヴだわ~。
「三時間ですわね、おそらく」
「ヒメ三時間が好きなの?」
「いいえ。二十四時間が好きですわ」
「あっ、そうですか」
「これでもアニメ観て、よつ○とも読んだんですのよ」
「作用ですか、お疲れ様」
適当にあしらう。
「ヨル。二人乗りしませんか?」
「そうだな~、また……今度の機会にしようかな」
「そうですか。残念ですわね」
そんなことを言って、顔では残念がっているようには見えない。
「では私はまだ満喫してますのでまた夕方に遊びましょうか」
「わかったよ」
用意するため屋敷に向かって歩くと後ろから再び、金属音が響いてきた。
ヒメに気づかれないようにブランコのほうを横目で見るとヒメは少し退屈そうな瞳をしていた。
そして僕はいつものように学校に行く。




