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一番近くにある日常  作者: 友城にい
七月編
15/19

第十二話 冷風と汗と暗いところ 前編

今回は連続物に成り行きでなりました。

 同日の夕方。

 水泳という水泳をやったわけではないが、目の保養……いやいや違う違う、そっちじゃなくて、盛り上がったかな。ひさしぶりの感覚だったから、疲れたのかもしれん。

 五時になりかけの時間になった時。


「皆さん、今晩肝試しをしませんか?」


「へっ? どこで?」とソファーに腰かけていた僕が問う。

「そんなの決まってますわ。ここで、ですわ」


 とヒメは下に指を差す。


「あたしはかまわないぜ」とゲームをしていた莉乃が顔だけをこっちに向けて言う。その顔は俄然のやる気満々な顔だった。

「南雲もいいですよ~」

「わ、わたしもみんながいいなら……」と冬葉は若干戸惑いながら了承。

「誰が、セッティングするんだよ?」


 僕は次の質問を投げかけた。


「もろちん……間違えました。もちろん私がやりますわ、文句はありますか?」


 ヒメは大きな自慢であるか知らんが、胸を張って断言した。


「いや、いいけど、そのあいだ僕らは……」

「どっかで食べてきてくださいな、三時間ほど」

「三時間!?」


 つまり、八時からということか。まあたしかに夏場は七時になっても辺りは明るかったりするし、そうだよな。


「ど、どこいく? 三時間ほど」


 僕は三人に尋ねた。

 先に答えたのは冬葉だった。


「じゃあ、あっこはどうかな? リオン」


 リオン――この前、冬葉と水着を買いにいったショッピングモールのこと。

 たしかにリオンなら、時間潰し&食事ができる絶好の場所だ。


「じゃあ、そこに行こうか、こっからそんなに遠くもないし」


 僕は財布を持って、立ちあがった。


「じゃあ、ヒメ行ってくるよ」


 僕がそういうとヒメは敬礼して「期待してくださいまし」とドヤ顔をかました。というか最近、ヒメのドヤ顔の表現が多いような気がする……。

 さてさて、外に出て、四人並んで歩くことにした。もちろん歩道で。


「夜夏。あたし財布持ってきてないんだけど、いいのか?」

「いいよ、僕が全部出すから、遠慮するな」

「お! 悪いな、じゃあ世話になる」

「いいって、元はと言えば、ヒメの遊びの事情なんだし」


 僕の左横を歩く莉乃とそんな話をしていると、


「な、なに食べる、みんな?」


 冬葉がそんな話を持ちかける。


「南雲は~ハンバーガーを食べたいです」

「それでいいか?」

「そういえば新メニューが出てるんだよな」

「へぇーどんなの?」

「冬葉、なんだったっけ?」莉乃がど忘れしたようで冬葉に聞く。

「えーと、たしか……ベジタブル……だったかな?」


 なにそれ……少しでも美味しそうとは思えない名前だな、なんか野菜だらけっぽい名前だし、でも商品を見たわけでもないし、名前で判断するのは良くないな。うん、僕成長したな、多分。


「南雲~それにします」

「え!?」と僕が反応すると。

「なんだ、夜夏? そんなに驚くことないだろ? すごい人気メニューになりつつあるんだぜ、ベジタブル」

「そんなにいいのか?」


 僕のそれに答えたのは冬葉だった。


「うん、耳が……でっかくなっちゃった!」



「「「……………………」」」



 天丼ですか、そうですか。


「冬葉ちゃ~ん、そうゆ~のは~、期間を空けないといけません」

「う、うん……でもギャグキャラを確立させたいな~、って思ってたら急がなきゃ、って」


 なんか南雲師匠(?)にお叱りを受けている模様。

 冬葉はでっかい耳をトートバッグにしまった。

 そこで僕は何気なく冬葉にこう言った。


「前にも言ったけど、やっぱり無理にすることはないと思うよ」


 冬葉は口を開けて、なにかを言おうとして一回口を閉じてから、もう一回口を開いた。


「ううん、わたし無理はしてないよ、わたしはみんなを笑わしたいだけだから、いつも見ているだけなのは、なんか……いやだから」


 冬葉のしている表情と言っていることはなんだか両立していない気がした。ただの僕の勘違いかもしれない。けど……。


「ははっ無理だけはするなよ」と莉乃は笑った。

「南雲と~一緒にギャグのテッペン獲りましょ~」南雲ちゃんは冬葉と反対側だけど、ふんわりとした笑顔を冬葉に向けた。


 ここからそう遠くはないリオンは、四人で駄弁りながら歩いているとあっという間に到着した。

 冬ならもう日が暮れている時間だというのに、空色はまだ水色を隠し切れていない青空だった。

 黄昏の日差しがリオンの建物を照らす。

 その日差しを浴びながら、僕ら四人は店内に入った。


「うわー、今の時間はけっこう混むんだな、やっぱり」


 莉乃がそんな率直な感想を述べながら、右側にあるパン屋を見ていた。


「なに? 莉乃はパンでいいのか?」

「そんなわけねえし」


 慌てた様子で僕の顔を睨んだ。冗談半分で言っただけなんだがな。


「はぐれんなよ、もしそうなったらマシドに集合」


 といってもここから……。


「夜夏くん、南雲ちゃんが……」

「へ? マジで?」


 僕の後ろをくっついて歩いていた冬葉が、おどおどした顔で僕に言ってきた。

 周りを確認すると、そこに南雲ちゃんの姿はなかった。

 いついなくなったのかわからない。けど少なくとも店内に入る時はいたはず。それと僕の注意を聞いていたのかは、また考えにくい……。


「クソ……あたしがいながら……クソ……」

「お、おい、莉乃!」


 僕がそう言った時には莉乃が迷わずに人混みの中にとけていった。


「ど、どうするの?」と冬葉が心配している声で目をキョロキョロとさせている。

「どうするって……とりあえず、マシドのところに行く? それなら莉乃が南雲ちゃんを見つけた時に合流がしやすいし」

「そ、そうだね……」


 その時の冬葉の顔は「二人を捜しに行きたい」という訴えの顔にも僕は見えた。




 幸いというべきなのかは、わからないけどグルメ街は時間帯によって人はピーク時よりかは空いていた。

 僕と冬葉はグルメ街の入り口付近の席にとりあえず座った。


「けっこう空いてるね」僕が気休めなことを。

「そうだね……」

「じゅ、ジュースだけでも頼もうか?」

「いい……」

「そういえば昨日『学園援助隊 ~生徒会だより~』を読んだんだけどさ、冬葉に勧められた通り、すごい面白くて……」

「いい、わたし……いまそんな気分になれないから……ごめんね」


 その『ごめんね』は僕の心に深く突き刺さった。これなら『死んで』のほうがマシに聞こえるくらいのインパクトのある言葉だった。

「…………」嫌なくらいな無言になってしまう僕。


 傍から見れば、別れ間際のカップルにも見えなくはない。けどそんなことしか考えられない、思えない人類はすでに思考が死んでいる。

 通りかかる夏休みを満喫中の学生カップルらしき人たちがクスクスと笑っているのを僕は見逃さない。

 他人の不幸を笑い、自分の不幸を笑うことを良しとしない。そんなのおかしい……!

 ……………………。

 そんなこと、今はどうでもいいことだ。

 僕は開いた口から言葉を発した。


「ほら! えっと、しゃべらないか? えっと……」


 言葉がうまく出ない。苦し紛れにそう思っていた。

 そして――


「〝二人ならすぐに戻ってくる〟って」


 僕は口に出した途端に気づいた。


「ご、ごめん……無頓着すぎ……」


 だが、もう遅かった。


「いいよ、夜夏くんは……ここでまってて。わたし、捜してくる」


 冬葉はグルメ街を出ていってしまった。それを追いかけていきたかったのに、僕にはもうなにもできなくて、肘をテーブルにつける。


「なにいってんだよ、心にもないことを言って……はは……でもこれが僕の……本心なのかな」


 ヒメがいない時の僕はすごく弱かった。

 雑魚一匹倒せないレベルの初期装備以上に、俗に言う村人Iみたいな存在だ。

 ――虎の威を借る狐。

 そういわれても仕方ない身分かもしれない。


 いつもヒメのそばにいて、自分の安全の場所だと思ってて、そう思いこんでて、これから先もこのままでいいと思ってて……。

 ヒメがいない時は、自分がしっかりしよう。男だから、なんてものじゃなくて、ヒメの代わりなんだ、と。

 今日だって、南雲ちゃんが行方不明になった途端に「僕の責任だ……」と背負いたかっただけで。

 だから、これ以上に面倒なことにならないように冬葉と待機していればいい、と勝手に判断した。


「死ぬわけじゃない」「誘拐されるような場所でもない」と最悪な考えを僕はしたくなかっただけで、心配していないわけでもない。

「あの人のことだから心配ないよ」の考えなんて持ってない。

 心の中はいつだって、みんなを大事に思っているつもりでいる。

 つもり……?

 はは……そういうことか、冬葉は、莉乃はそうだったのか……。


「でも……僕はどうしたら……」

「南雲と~まちますか~?」

「ああ、そうだな、そうする……ん?」


 あれ? 前にもこの流れあったような……。

 僕は俯かせていた顔を上げると……。


「あ、あれ、南雲ちゃん!?」

「は~い」


 僕の向かいの席にいつの間に座っていた。

 元気印のように手を挙げて、ニコッと笑う。


「どこ、行ってたの? 莉乃とか捜しに行ったよ」と僕が尋ねると、

「ふぇ~? 南雲は~きちんと莉乃ちゃんに~おトイレに行ってくるね~と言って行ったんだけど~莉乃ちゃんが多分聞こえてなかっただけなんだよ~。あ~でも莉乃ちゃんとは~きちんとここまで来たから~だいじょ~ぶ~だよ~」


 いつもみたいなふわふわ口調で南雲ちゃんは丁寧に説明してくれた。


「莉乃は?」

「莉乃ちゃんなら~夜夏く~んと、冬葉ちゃんが、一緒にいないのはへん~みたいだ~って、さがしに~いきました~。すぐに戻ってきます~」

「そ、そっか……」


 南雲ちゃんは僕の反応を見て、きょとんとした表情をしていた。

 そんな南雲ちゃんに僕は意を決して聞いてみた。


「ねえ、南雲ちゃん……南雲ちゃんは、僕のこと……どう思ってる? オブラートに包まなくていいから、正直に」


 それを聞いた南雲ちゃんは、垂れている目尻を少し上がって、びっくりした表情になった。なんだか珍しかった。

 南雲ちゃんは口元に指を当てて、悩む素振りを見せて、左の人差し指を僕の額に突きつけてから、


「そうですねぇ~、ずばり一言で言いますと~、大事にする人は一人に絞るべきです」


 僕は「どういうこと?」と聞き返した。

 でも南雲ちゃんは笑顔になって、こうとだけ言った。


「南雲には~莉乃ちゃんがいます。だから~そんなに気を背負わなくていいんですよ~わかりましたか~?」


 と、左の人差し指で僕の額をデコピンした。そんなに強い力じゃないから、痛くはなかったが、胸のほうがぼやけて痛くなった。


「そう、いうこと……なのかな。じゃ……僕は……」


 スッと伸びる手が僕の視線に入ってきた。

 僕はその腕の主をたどり、視界にいれた。


「おい、どうしたんだ?」


 莉乃だった。


「いや、なんでもない」

「そのなんでもない、が一番気になるんだが」


 続いて莉乃は伸びた握り拳を解いた。


「食べれよ、ほれ南雲も」


 莉乃が僕の前に落としたのは、みかん味のアメだった。

 僕は袋を開けて、アメを口の中に放りこむ。ほんのり甘い。


「それより冬葉どこに行ったんだ? どこにもいないし」

「僕も知らない。知ってたら苦労もないけど」


 この知らない、の意味を僕は二つあった。


「…………。そうかよ、心当たりとかもないのかよ?」

「さあな、僕が見失わせた、と言っても嘘でもないけど」

「ん? どうしたんだ?」


 莉乃が顔をしかめながら、心配そうに声をかける。


「なんでもない、本当に」

「冬葉ケータイ持ってなかったか?」

「多分、僕の電話には出ないよ」


 そう否定すると、莉乃の歯が「ちっ」と鳴る。


「二人とも~ケンカはダメだよ~」


 南雲ちゃんが仲裁に入る。ケンカをしているわけではないけど、そう見えるのも無理はない。

 僕の心はぽかんと開いていた。


「かけるだけかけろよ、あたしと南雲は屋敷に置いてきたし」


 僕はポケットからケータイを取りだし、着信履歴から冬葉の名前を見つけ、電話をかけ始める。

 トゥルルルルルルルっと僕の耳に流れだす。

 十秒、

 二十秒、

 と、呼びだし音が鳴り止まる。

『おかけになった電話は――』

 のところで僕はケータイの電源ボタンを押した。


「な、でないだろ――」


 そこまで言った時、一つのメール受信でケータイが震えた。

 僕は名前を見て、「あっ」と声が出る。

 横から「冬葉からか?」の莉乃の声で頷き、メールボックスを開き、新着メールを開いて、唖然とした。


「そ、そっか」


 件名:

 本文:屋敷に戻ってるね。


 中編につづく。

感想などまってます。


友城にい

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