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一番近くにある日常  作者: 友城にい
七月編
13/19

第十話 さぁやろうか! 夏休みとやらを……

 本日は終業式。

 このHRが終われば、明日からは夏休みとなっている。

 僕は主人公ポジションと言われている窓際の一番後ろの席に佇む。

 前の席は冬葉で、今は先生の話の途中のため、みんなその話を聞いている。

 僕はというと、話を聞いていないわけではないが、チラチラと外に目線を送っている。


 僕の席から見える景色は運動場でもなければ裏庭みたいな場所でもない、ただ雑草が茂った裏庭中の奥で、誰も踏み入らない場所しか見えない。

 そんな話は置いといてだ。机の上に置かれた夏休みの宿題という学生の中の一番の敵といっても過言ではないだろう。そんな敵が現れた。


 横の席に座る男子生徒はその向こうにいる友達だろうか、コソコソと話をしながら、これから遊びに行くところなどを決めていることだろう。

 そんなことは僕にはまったく関係ない。

 とくに決まった予定もないし、決まることもない。

 金持ちだから、夏はスイスに避暑地として旅行に出かけるなんてこともまったく持ってないのは、僕だけの話。


 夏休みといえば、去年も宿題とヒメの遊びの二つだけだった。

 とまあ、そんなこんなでそうこうしているうちに先生が、「はい。ではケガや問題を起こさないようにしてください」と女性なのはどうでもいいが、やっと終わった。

 机の上の宿題と夏休みの過ごし方らしきものが書かれたプリントをカバンに入れていると、


「夜夏くん、これから用事とかあるかな?」


 前の席に座っていた冬葉が立ちあがり様に、僕にそんなことを聞いてきた。


「とくにないよ、なにか買いにいくのか?」


 冬葉にもそれなりの同性の友達とかいるはずだ。それを前に聞いた時は、「わたしは夜夏くんと一緒に出かけたいの」と稀に見る天使に言われた。

 女の子と買い物――それはデートみたいなもの。そんなことを聞いて、ギャグポップコメディーみたいに周りの男子が妬みを持つ……


「ちっ中野ばっかりズリーのー」「まあなんだかんだいってやっぱり金持ちのボンボンなんだよ」「俺たちみたいな庶民にはない感性や魅力があるんだって」「北松さん、なんであんな天使が悪魔に懐いてんだろうな」「それこそ、世界の心理ってか!」


「「「「「はははははははっはははははっははははっはははははっはっははははっ!!!」」」」」


 近くにいた男子がそんなことを言っていたが、僕には関係ないこと。

 この学校、教室に僕の正しい居場所は最初からないことぐらい自覚していた。

 金を持っているだけで、人は簡単に手のひらを返してくる。それを僕は何度も繰り返した。

 僕の横に立っていた冬葉はもちろんさっきの会話が聞こえていただろう。一瞬だけ顔をしかめたあとに僕にはみかむ。


「さっ! 早くいこ! もう今から夏休みの始まりなんだから」

「そうだな、どこに行くんだ?」


 席を立ち、教室を出る。僕には毎日のように冷ややかな目線が浴びせられる。

後ろを振り向けばある、もう一つの真実と現実。

 とくに眼をやる必要もないのに、勝手にクラスが作りあげた現実を僕が見るように仕向ける奴らが僕は許せなかった。

 後ろ指を差し、有りもしない嘘を信じる奴らが、僕が金持ちの坊ちゃんだから冬葉をたぶらかしているとか、なにも知らない、知ろうともしない奴らが僕は、とてつもなく、


 ――大ッキライ


 ……………………

 になれない自分に吐き気すら感じた。




 冬葉に連れられたところは、屋敷の前を通って、三十分のところにある大型ショッピングモールだった。

 時刻は十二時半を回ったぐらいだ。そのためか、グルメ街を中心にたくさん人がいる。

 当然ながら僕と冬葉の用事ある場所とは違うのでスルーし、二階にエスカレーターで上がる。

 上がり終わるとそこは洋服店がズラリ立ち並ぶ、いわばどこからどこまでがその店の商品かわからないぐらいに。


「冬葉が行くお店はどこだっけ?」


 横を歩く冬葉に聞く。


「えっと、今日買うのは水着なんだけど、いいかな?」

「いや、連れて来させといていいかなって、もし僕がダメって言ったらどうするんだよ」

「そ、そうだよね、えっとこっちだよ」


 指で差して、そのほうに歩いていく。

 その場所から三、四分歩いたところに冬葉の目的地らしき、女性用水着販売店があった。


「ここ?」

「そうだよ」

「じゃあ、僕はここで……」

「え、夜夏くん、一緒に選んでくれないの……?」


 冬葉が戸惑いの表情を見せる。


「で、でも、ここ女性のお店だし、男の僕がいたら、ほかのお客さんとかが買いにくくなるかもしれないし」


 僕が見るかぎり、お店には五、六人ほどだが、女性のお客さんとか、お母さんと娘で買いにきてるのか、そういう人がちらほら見える。

 そんな中に僕がいたら、軽く営業妨害とかになりかねないような気も……。


「大丈夫だよ、夜夏くんがわたしだけを見てれば、ほかのお客さんも気にしないから」

「え、それって……」


 なんかこっちまで耳が赤くなりそうなほどの恥ずかしくなる発言だった。


「そ、それなら夜夏くんも選んでくれるでしょ」


 僕が「お、そうだな」と言う前に冬葉が僕の手を取り、店内に入っていった。掴まれた手の平は冬葉の高い体温で満たされていた。


「ちょっとまっててね」


 女子として背は平均的な冬葉だが、向かった水着のコーナーは、派手なビキニなどのないシンプルなデザインのところだった。

 冬葉が真剣な眼差しを水着に向けている姿を僕はそんな冬葉の姿を見つめた。言われたから見つめているからではない。ただの僕の興味だったりする。

 生真面目で気配りができて、人見知りで怖がりなところがあって、僕と知り合ったころもそんな感じだった気がした。

 そんなことを考えている、冬葉が二つの水着を手に取って、


「夜夏くん、どっちがいいかな?」

「え、ああ……」


 上下分かれているスカートのタイプと、ワンピース調のタイプを僕に見せてきた。

 僕にセンスがあるわけじゃないが、


「じゃあ、分かれているのを」

「そ、そっか……じゃあ試着してくるね」


 近くの店員さんに頼んで、冬葉が試着室に入っていった。

 僕は若そうな店員さんと冬葉が出てくるのを待つことになった。


「彼氏さんですか? いいですね、どこか旅行に?」


 僕は「え?」となってしまったが、何食わぬ顔で、


「それに近い感じです。えっと、友達以上恋人未満みたいな」

「お似合いですよ、お二人は。しかし、その関係が許されるのは、高校生までです。先輩からの助言です。期待には応えよ、わかりましたか?」


 店員さんがなにか熱く語っていたが、僕は「そ、そうできればいいですね……」なんて弱気に返した。

 そんなよくわからない会話をしているうちにカーテンがシャッと開いて、


「ど、どうかな、夜夏くん……」


 ショートカットの黒髪のため、身体のラインを覆う物はない。

 ピンクの水着。主張しきれていない控えめの胸。自信のなさそうなくびれ。色っぽいへそ。スカートの裾から覗く日陰に隠れた白い太もも。そこから伸びる綺麗な脚。


「…………」


 僕は見とれていた。


「あら、彼氏さん、見とれてますね~」

「やっぱり変かな……」

「えっ!? ああ、そんなことない。うん、すごい似合ってるよ」

「そ、そうかな、じゃあ買ってくるね」

「お、おう、じゃあ僕はそこでまってるから」


 こんな会話を店員さんはにやにや顔で傍観していた。




「ありがとね、付きあってくれて」

「いいよ、どうせ家帰ってもヒメの相手でゲームするだけだから」


 冬葉は「ふふふ、それもいいと思うよ」と微笑む。


「そうか? まあべつに嫌というわけではないのは、本当だけど」

「いまを大切にしないと、あとで後悔しちゃうよ」


 冬葉の言っていることは僕には、すぐに理解できそうでできない。もどかしい気持ち。

 そんな当たり前の日常を愛していると言えないぐらいのくすぐったさ。鈍感な日常のかけらを寄せ集めても、形になんてならない。


「ああ、無駄にはしない。それだけは誓うよ」

「うん、わたしもそばにいるから」

「ははは、心強いよ」


 僕は心まで温かくなるものを持っている。手に握っている。

 だから、めげないし、暗くならない。

 たとえどんな凶悪な敵が僕らの日常を妨害しようと守れるよう今は力を蓄えている。

 僕と冬葉は、この帰り道を笑いながら歩いた。

 後悔しないように。あとで後ろを振り返らないようにして。


連日更新。


感想などなんでもまってます。


友城にい

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