チェリー、16歳 (3)
「えーっ、ウソー!」
携帯の画面を見ながらマリアが叫ぶ。
「何、どうしたの?」
突然大きな声を出したマリアにちょっとびっくりしたようにレンが訊いた。
「ユーキのやつ、彼女と別れたって」
ええーっ! 私とレンの声が重なった。
ユーキも私たちのクラスメイトで、アメフト部に所属している男子だ。1年生の夏ごろから別のクラスの女子と付き合っていて、私たちの目にはとても仲が良いように見えていたのだけれど、本人たちの間ではいろいろあったみたいだ。
マリアとユーキは同じ中学出身ということもあって、友達として結構仲も良く、ユーキが別れたというその子と付き合う前も相談に乗ってあげたりしていた。だからユーキはきっと真っ先にマリアに連絡したのだろう。
私の目の前を、何かがひらひらと舞い落ちた。桜だ。私たちの今歩いている道に咲く桜の木々から、散った桜の花びらが舞い落ちたのだ。
足元を見ると、そうして散っていった桜の花びら達が、雨風にさらされたり踏んづけられたりして、美しく咲き誇っていた頃の見る影もなく無惨な姿で散らばっている。
「春って、別れの季節なのかな」
私はつぶやいた。レンやマリアに訊ねたというよりは、独り言に近い。
けれども私の突然の言葉に、ちょっと驚いたみたいに2人が私の顔を覗き込んできた。
「どうしたのさ、チェリー」
ちょっと心配したようにレンが訊く。
「なんかさ、思い出しちゃって。あの人のこと」
あの人。あれは中学校の卒業式を終えた後のこと。少し申し訳なさそうに丸めた背中が去っていく光景を思い出した。
「この前も言ってた、元カレのこと?」
マリアが訊ねる。マリアの言葉は今の時刻や明日の天気を訊くかのような、下手な気遣いのない自然な声色だった。
うん、と私はうなずく。今年の桜を見て思い出したのは、むかし家族と行ったお花見のことでも、去年この高校に入学してきたときのことでもない、中学の卒業式の日に別れた元カレのことだった。
元カレの話は、レンやマリアにももう何度かしてきている。
「もう忘れちゃいなさいよ。終わったことなんだし、いつまでも想い続けても仕方ないでしょ」
ユーキに相談されたときと同じような、強いけれど優しい調子でマリアが言った。
「ごめん、そこまで想ってるってわけじゃないんだけど……」
でも、なぜか時折さみしいような、悲しいような感情が沸き起こることがある。
そこまで想っていないというのは、時が経つにつれて気持ちが薄まっていったわけではなく、あの人と出会った最初のころからだ。