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★冒険者になろう3

「税でなにを困っていたの?」

「税とは国に払うお金のことですよ」

「それは知っているから……」


 ギルドで登録を終えて宿屋に来ている。適当にオススメのメニューを出してもらった。牛や豚などの肉はないので困った。魔物的な肉の種類があるんですけど。

 スローウナと一緒に食べようとしたんだけど、とても恐縮されたのだ。一緒に座るのでさえためらうのだ。説得するまでに時間がかかった。やめてほしいと頼むまで一悶着あったのは大変だった。


「税金がきついのです。ヒト以外の種族には厳しい税金がかかっているのです。ギリギリ死なない程度しか残らないようにしているのです」


 殺さず生かさずというわけである。徳川幕府も真っ青である。異種族が働いても働いても生活は良くなならない。


「その点奴隷になると、違ってきます」

「どういうこと?」

「奴隷には税金を払う義務はないのです」


 あの奴隷商人に教えてもらったのだが、奴隷には二種類あって借金奴隷と犯罪奴隷である。

 借金奴隷はそのまま、お金が必要になって身売りした奴隷である。基本、本人の合意が必要であり、その分、この世界に概念があるのかわからないが、人権が保証される。衣食住がを整えられなければならないし、虐待されたりすると告発も可能である。性行為も合意が必要になる。

 逆に犯罪奴隷には人権がない。元犯罪者だからだ。

 この国の税金のお陰で異種族の奴隷が増加傾向なのだ。

 帝都から脱出するには、城壁を突破しなければならない。入るのは楽だが出るのは厳しい。賄賂を渡せばよいのだが、そのお金もない。悪循環だ。

 戦争に勝ったからってこんな辛い生活を帝国は敷いているのだ。

 そして、スローウナは借金奴隷だ。僕は責任をもって彼女の生活を守らなければならない。

 

「それは……」

「はい、私も身売りしました。私事ですが私の一家のためですが、それは建前です。商売に失敗した家族を見限ったのです。もともと私はギルドで稼いだのですが私の家族は借金を背負ってしまったのです。しかし、弟達はまだ小さいかったですし、家計は火の車でしたから再生するのはできませんでした。私はそれらから逃げ出したのです」

「うん……」

「奴隷になるのは不安でしたが、スイン様に出会えてよかったと思います。こんなに優しくしていただいて」

 

 本来、奴隷は食事を共にすることもないし、装備も充実することはない。優しく話しかけてもらえることもないし、無視されることのほうが多いらしい。

 

「そ、そんなことないよ。僕ができることをしてるだけだよ。スローウナは可愛いしね」

「そ、そんなことこそないです。私、エルフですし……」

「エルフは関係ないよ。種族に囚われたりするのはダメだと思う」

「ですが、それがこの世界ですよスイン様」

「そうだね……」


 スローウナが泣きだしてしまった。食堂の視線が痛い。なに可愛い子を泣かしてんだよ、と責められている。奴隷の印は見えるところにはないので、対等の関係に見えるのだ。そうすることを目指してはいるんだけどね。


「部屋に行こっか」

「はい、スイン様」


 僕たちは部屋に行って荷物を整理する。魔法具としてとても一般的なバッグがあるのは便利だよ。このバッグは四次元ポケットになっているのだ。中に入れても腐ることはないし、入りきらなくなるということはない。

 

「じゃあ、スローウナはベット使っていいよ」

「スイン様はどうするのですか?」

「うん……毛布もらって床で寝るよ。女の子を床で寝かすわけには行かないからね」

「そんな、それなら私が床で寝ます。スイン様はベットをお使いください」


 なんで宿屋の主人さんはツインベットにしなかったんだろうね。部屋一つ、と言ったらすぐに鍵を渡してくれたのだ。普通ベットの数とか確認するべきでしょう。……お互いに。もしかして恋人同士かと邪推したんだろうか。ありがた迷惑である。僕がスローウナと釣り合うわけないじゃないか。

 もう時間も遅いので文句をいうのは明日にしよう。

 まずはこの解決方法を模索することだね。

 お互いに一歩も引かず結果。


「そう、スイン様。一緒に寝ましょう。端と端に別れたら大丈夫です」

「いいのそれで?」

「もちろんです」

「襲っちゃうかもよ?」

「そういう人は大丈夫です。あと同じ部屋ならどこで寝ようと危険は変わりません。それに私はスイン様を信用しているので」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど……」

「わ、私もう寝ますね。床で寝たりしたら奴隷やめますからね」


 という言葉を最後に寝入ってしまった。

 出会ってまだ一日も経っていないのに、スローウナにどこかに行かれてしまったら困る。とっても困る。だから一緒に寝ないと。

 というか僕に対する信頼度が高すぎる。まだ一日も経っていないんだよ。

 

「おやすみ。スローウナ」


 僕も初めての異世界で疲れていたのだろう、すぐに夢のなかに引きこまれた。



 暖かい日差しが僕の顔を照りつける。もう朝のようだ。

 電気もないこの世界、朝の日差しで一日が始まるのだろう。

 と、隣にはスローウナの姿が。何にも修飾しないで端的に表すのなら、この状態は、僕は抱きつかれていた。足まで絡められて、彼女の形のよく柔らかい胸が押し付けられている。

 役得だが、昨日の僕の信用が……。気付かれる前に早く脱出しなければ。

 ゆっくり身体を抜こうとするけれど、スローウナががっしり掴んでいて離れない。どうしろと。足が絡んじゃってるんだよ。

 

「ん……」


 あ、スローウナが起きてしまいそう。


「んん……お、はようご、ざいますっ。あわわ、すみません。私、抱きつき癖があるようで。失礼しました」

  

 あわわって、どれだけ慌ててるのだ。キャラ崩壊もいいところだよ。


「うん、おはよう。あんまり気にしないでいいよ」

「あ、ありがとうございます」

「こっちがお礼を言いたいところだよ」

「なにか言いました?」

「ううん。なんにもないよ。ご飯食べてギルドにいこう」

「はい」


 朝ごはんも美味しいな。親父さんいい仕事している。


「ねえ、このスキルってどうなっているの?」

「どうとは?」

「んと、どうやって取れるのかとかかな?」


 あんまりいい言葉が見つからない。


「スキルを取るのは大体三つに分けられます。一つはジョブを得た時ですね。これは神殿の方でジョブを決めれるのですがその時に各ジョブに合うスキルが習得できます。二つ目はその技術をマスターした時です。《索敵》や《気配探知》などがそうですね。数多く訓練する必要があります。三つ目はある条件をクリアした時です。これは血族が条件になっていることが多いです」

「上達したりするの?」

「はい、しますね。《索敵》は範囲が大きくなったりします」

「上達しているようだけど、それって客観的に見えないよね」

「自分でしかわかりませんね。ステータスバーを見ても熟練度はわかりませんし、一定の技術を習得した所で現れますし」

「じゃあさ、あんまり意味なかったりするよね?」

「はい、参考にするぐらいですが、上級者から初心者までいることがありますか」

「そっか」


 

 ギルドに来た。

 僕らは依頼書の貼りだされている掲示板を眺めている。どれがいいんだろうね、と悩んだので先達に聞くに限る。

 昨日の話ではスローウナは先輩冒険者のようだもんね。

 

「なにかいいのあった?」

「スイン様は初めての依頼ですし、ゴブリン討伐はどうでしょう?」

「まあいいかもしれないけど、こういう時って採取依頼からしていくものじゃないの?」


 ゴブリン討伐はEランクの依頼である。討伐系の依頼がFランクにあるのはカリーラピットやスモールボアなど単独でうろついている魔物ぐらいらしい。


「採取依頼は……」

「なんかあるの?」

「え、ええ……」

「それはねスローウナがエルフに原因があるだからよ」

 

 ギルド職員のハルシュが割り込んできた。話を聞いていたらしい。ウサギ耳だから音が拾いやすいのかな。

 スローウナが俯いてしまった。エルフに原因?

 

「エルフ……?」

「そうよ。エルフはね、木の声が聞こえちゃうのよ」

「それは……もしかして?」

「そう、樹の枝を折るときに『いやー助けて』って断末魔が聞こえるそうよ」

「ご、ごめん。知らなかった。うん討伐にしよう」

「す、すみません、でも正確には森や林など森の中なら草の声も聞こえてしまいます」

「うんそれがいいわ」


 かわいそう。ほんとそんな声は聞きたくないよ。人間の首根っこ引っこ抜くようなものじゃないのか。それは悲鳴あげるよ。聞きたくないよ。本能的に。

 

「でもいきなりEランクはやめとこうよ。とりあえずお互いの実力試しでカレーラピットにしません?」

「それにしますか。他のを討伐しても後から依頼することもできるからね」


 ハルシュもオススメしてくれる。

 ということで僕たちはウサギ討伐に出かけることになった。

 門番の人に挨拶してスルクの森に分け入った。スルクの森は帝都近くにある大きな森林である。数多くの生物が生息しており、奥にはAランクの魔物がいるらしい。それはあくまでも最深部なのでめったに会うこともないが。手前の方はランクの低い魔物ばかりだから安全ではある。

 すぐにウサギは買ってしまい、肉と討伐確認部位を剥ぎ取り、四次元カバンに入れる。依頼の五匹以上も僕の出る幕もなくスローウナが狩ってしまった。


「大丈夫ですかスイン様?」

「う、ん。ちょっと息が整ってないだけで」


 ニホンにいるときから運動していないこの身体はすぐに音を上げてしまう。歩き慣れていない木々の間だからというのもあるだろう。

 今までも歩幅など僕に合わせてくれているのがわかってしまうのが辛い。

 なんとか付いて行くぐらいはちゃんとしたいものである。


「ちょっと休憩にしましょうか」


 バックの中から水筒を出して水を入れてくれる。


「そういえばスローウナは魔法は使えないの?」


 わざわざ水筒を用意しなくても水系の魔法があれば便利だと思ったのだ。エルフって魔法ができるってイメージがあったから。


「すみません。私の一族は魔法を使えないのです。もともとエルフは水の神と親交が深いのですが、なぜか私の一族だけ何の魔法も使えないのです。だから先ほどご覧になったように近接戦闘の訓練に明け暮れていまして、この強かなのです」

「そうなんだ。大変だね」

「いえ……」


 スローウナたち魔法の使えない者は魔力を手足に込めることで瞬発力や筋力を高めることを目指しているんだって。スローウナはまだまだ使いこなせていないようだが、僕から見たら十分な動きだった。目で捉えるのが少し難しくなるぐらいの速さだった。

 あと、豆知識として教えてくれたのだが、スローウナのエルフとしての肌が白いのは水の神の加護なんだそうだ。だから水以外の魔法を使うエルフを迫害するし、その肌の白くないエルフをダークエルフとも言うらしい。

 ダークエルフもいるのね。一度会ってみたいとも思う。急ぐわけでもないけど。

 

「そろそろ行きましょうか。どうやらゴブリンの集団がこの先にいるようです。スイン様の力も見せてくださいね」

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