魔王になりました。
俺達のいるこの国はアリーナル国だ。
魔族の住む国であり、帝国の属国でもある。属国の中でも一番ひどい扱いを受けていた。年に一回大軍を連れて徴税に来ており生活は困窮。魔族だからと奴隷に売られることも多々ある。
ここに住む魔族の種族はダークエルフ、獣族、ドラゴノイド、ドワーフ、魔人、鬼族、マーメイド、翼人、リザードマン、バンパイアなど多岐にわたる。純粋なエルフは少ない。
それというのもエルフは集落から出ることは少ないのだ。集落といっても帝国からはひとつの国と扱われる程に大きいのだが。エルフの集落を出ることになる大半の理由がダークエルフになってしまったからだそうだ。エルフは水の神を祀っていて水属性の魔法しか使わないが、ダークエルフはそれをやめた者は属性に縛られることはなくなるのだ。それは水の神を信仰していないという証であり、身体が黒くなってしまうらしい。
だからダークエルフは悪い人ではないのである。他の魔族も同様である。人と同じで悪い人もいるけれど少数である。善人のほうが多いのだ。
「俺達が魔王になったのはなんでだ?」
「この国に伝わる伝承に古代語にかかれてありました。えっと『これより……』」
「絶対長くなりますよね。まとめると?」
「そのうちこの剣抜く人が現れるからその人が魔王だよ。上手くやってくれるから付いて行くように、と」
「軽っ、で、俺達にどうしろと?」
「うむ、魔王として国政に参加してもらいたい。大臣以下忠誠を誓う心づもりはあります」
「ちょっと相談させてください」
「それぐらいな。ちょっと席を外そう」
俺達は相談パートツー。
どう思う?
わたしはいいと思う。
サチカさんなんで?
ここに来るまでに見ている限り、酷かった。助けたいと思った。
俺も賛成だ。できることまでしたい。
じゃあ、あたしもしようかな。
相談終了。賛成多数で魔王になることになりました。俺が。
「お、俺が魔王になった。国民の生活のために国を変えていこうと思うしょ、所存である」
いきない舞台の上に引っ張りあげられて魔王としての所信表明をさせられている。国民である多くの種族が舞台下に集まっているのだ。緊張するなって方が無理だ。いきなり魔王として立つことになっちゃったんだから。
びっくりだよもう。なんにも言葉がうまく思いつかないのだ。
「お。おおおお」
ほら皆さんの反応も微妙じゃないですか。
「そのためにはみなの手助けが必要だ。手伝ってくれ」
初めてだからなんて言っていいのかわからない。何を言ったら盛り上がるのだろう。
横手から師匠が躍り出た。
「わたしは魔王カイトに従う者、聖騎士サチカだ。皆の窮乏を救うために我らは立ち上がった。みなの力を貸してくれ」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
あれ? 俺ん時より盛り上がってねえ?
ま、まあ……師匠のほうがカリスマ持ってるからな。うなずける。美人だし。綺麗だし。この前まで村人だった俺よりもさ、付いて行こうと思うよ。聖騎士様だし。
……いいもん。俺。落ち込んでないもん。
「あたしは魔王お兄ちゃんについていく妹、ミーナ。みんな応援してね」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
あれ? 俺より師匠より歓声が大きくない?
時折「俺に妹くれ」とか「リア充爆発しろ」とか怒号が聞こえてくるんですけど。
しかし、我が妹ながらアホだった。アイドルと間違えてるんじゃないのか。魔王お兄ちゃんってなんだよ。
でも、これでみんなが付いてきてくれるのならそれでもいいか。
ともあれ俺こと魔王の初お披露目は終わった。
さて、今日から魔王。問題です。魔王って何するの? 政治? 戦争?
答えは勉強でした。
だってね俺、元村人だよ。先日まで普通の村人だったんだよ。つまり学なんかないわけで、文字も書くことができなかったのだ。だからねミーナと兄妹ともども勉強中。
師匠はさすが読み書きができる。
俺はまず朝のうちに会議に参加。この会議は国を動かす大事な会議。
昼から城内と城下町の視察。これは楽でよかった。
夜はお勉強。文字や礼儀作法が今のところメイン。あと重要書類にサインも。一番に自分の名前の書き方を覚えさせられて書かされているのだ。夜中じゅうずっと。夜に寝ていない。
寝るのは会議場である。秘書に優秀なお姉さん、ダークエルフのナクミさんがついてくれている。寝ていい議題を前半に持ってきてもらいその間寝る。後半に俺が知っておかなければならないものを話し合ってもらっている。前半のことも要約して教えてもらうんだけどね。
こんな感じで数日過ごしていた。
わかったことは、いろいろピンチということだ。
まず食料がない。そして金もない。資産というのがほとんどないのだ。
それに俺の村を襲った理由も知った。
あれは食糧危機を切り抜ける策だったらしい。いまこの国は食糧難である。来年には餓死するレベルで。その原因は畑の使いすぎだった。厳しい税のため畑を休ませることができなかったらしい。四年前の戦争で負け税を課せれてからは一度も畑を休ませていない。というか彼らはそういうことを知らなかった。畑仕事も初めてだったらしい。それまでは人間の作る食物と採取、狩りで生活していた種族が大半だったのだ。
農家である俺はすぐさま畑を休ませるように提案。実行されたのだが、休ませる期間が問題だ。それまで国民を養う食料も畑もないのだ。
「山を焼くしかないな」
師匠がそう言った。
師匠が言うには山を焼いて畑を作るのだと。今俺のいる城は、まあ……廃城間近だった宮殿をなんとか修復しながら過ごしている。
地理的に三方を山に囲まれており一面は海に面している。その海は湾になっており、小さくクワガタのハサミのように閉じているのだ。軍人から言わせると天然の要塞だって。知らんけど。軍事系も勉強中です。
その山を焼いてしまうんだって、海、城、山と一直線に並んでいる辺りを焼き払うことでを移送を容易にし、畑を作る。
師匠は森の腐葉土を休ませる畑に撒かせ、森を焼いてできる灰が肥料の役割をしてくれると言っていた。肥料は初めて聞いたけど、師匠が言うんだからいいことなのだろう。
食糧かくほーとか言って出かけたミーナは森にいる魔物狩りをしに行っていた。勉強しなくていいからって……俺と変われ。レベルが上がらないんだよ。ミーナはどんどん上がっていっているのに。
ミーナに付き合ってくれた魔物を狩り慣れている軍の人たちはビックボアやキングベアなど美味しい肉になる魔物を中心に持って帰ってきてくれ、安く売りさばいてくれた。
そして軍事面である。
まず言ったのは
「犯罪はするな。誇りをもて」
だった。基本専守防衛。略奪などは絶対にさせないという現れだ。
軍は種族別に分けた。
ダークエルフやドラゴノイドはオールマイティ。個々で得意分野はあるけれど、全体的には突出したものがない。
ダークエルフ本当に平均でドラゴノイドはドラゴンの血が混じっているらしく全体的に強力。どちらも魔法も武術もできる。
反面、リザードマンは魔力を持たない種族だ。その分身体能力はかなり高い。
ドワーフは土系の魔法に長けているが、それでも白兵戦向き。少し身体が小さいのが難点だが、それを有り余る力強さを持つ。ドワーフは兵士になるより鍛冶屋系の方が多かったりする。
リザードマンとドワーフに重装歩兵を担当してもらうことになった。盾役である。軍人になる人は多くないんだけどね。
ここらが白兵戦側。
魔術部隊は主に魔人と鬼族が担当する。
魔人は人の中で生まれ、何もかもヒトなのだが魔力が尋常ではないぐらい多い人のことを言う。赤ん坊の頃から無意識に魔法を使うことが多く、それゆえに災害級の魔法になることも多い。そしてヒトの中にはいられなくなる。大概がイジメ・迫害されこの地に来るのだ。
鬼族とはヒトに角が生えた人間である。魔力は魔人に劣るものの他の種族より格段に多い。身体もヒトよりは強いし。
他の種族も魔力を持つものもいるから得意な者はこっちに所属させた。逆もある。
異色の所属も作ったりしてみた。
監査部。情報部も兼任。これはバンパイア一族に一任。理由は影に隠れれるから。本人にも気付かれない。俺も隠れられていたりするかも。バンパイア一族は夜の貴族。貴族の中の貴族でプライドが高い。帝都のクズ貴族とは違う。裏切ることもないだろうし、不正もしない。他の種族たちからも一目置かれている。デメリットは太陽に弱いということ。人間の血が必要らしいが周期が長くそこまで急ぐこともないようである。いざとなったら俺が出せばいいか。
反対に獣人はいろいろだ。獣人といってもウサギ系や犬、狼、猫系などがいるので特徴も違う。ウサギ系の人たちは聴覚探知に優れているので隊に一人は欲しい。猫は移動速度や森に強みを持つので遊撃隊になる。狼は獣化という特性を持つのでそれを活かせる遊撃兼突撃隊。結構様々になっているが。犬系は町の治安維持活動に従事してもらっている。鼻がよく利いて性質が穏やかだし。師匠は「犬のおまわりさんね」と言って苦笑していたがなにかあるのだろうか。
そして航空兵力はもちろん、翼人が中心だ。あと、ドラゴノイドに教わってワイバーンを育成して後々には騎龍部隊を作りたい。ドラゴノイドはドラゴンの眷属であるワイバーンのことに一日の長がある。なんか秘伝でもあるのかな。
海上兵力はマーメイド。つまり海竜人に任せている。特に襲ってくる集団もいないので大体は漁に出ている。銛で行なっていたのだが師匠の提案でアミというものを使っている。このおかげで一気に効率が上がったらしい。
たまにヒト族の海賊船が出ているようだが船も作っていないし奪われるものもないしなあ。
これでかれこれ八千の軍勢ができた。義勇兵となりうる人員も含めると一万人というところだろうか。でも今は色々と再建しなければならないことも多く兵力は最低限で、他のことに回ってもらっている。城や畑作りとか。
廃城がまだ改築されていないのだ。すきま風が寒い。
「あ、カイト。一緒にやってくか?」
昼間ちょっと休憩と城内をだらだら歩いていると、師匠が声をかけてきてくれた。
「今から決闘をするんだが、見ていくか?」
「決闘?」
「ああ、わたしが負けたら小隊長に昇進」
百人長は部隊の最小単位から二つ目に偉い隊長格。チームが五人、小隊が百人、中隊が五百人、大隊が千人である。
つまり二階級特進ってやつ。
ある程度上にいる隊長格たちは師匠のレベルを知っているので戦うことが少ないらしい。
新兵だからやってみようと思うわけで、まだ師匠は勝たせていないという噂。
「勝ったら?」
「わたしが好きなところを触らせてもらう」
「それってなにかいいんですか?」
「何を言ってるっ。いいに決まってるだろう。もふもふできるのだぞ」
「は?」
「もふもふできるんだ」
「それの……?」
「?」
そんな変なひとを見る顔されても。話を聞くと、獣人を、特に猫系の人やウサギ系の人の耳や尻尾を触れたいんだって。確かに触ってみたい魔族はいるけどさ。ドラゴノイドの鱗とか、翼人の羽とか、エルフの耳とか。触ってみたい。
私的に忙しいので投稿期間があいてしまっています。
ごめんなさい。
次回は10日後になりそうです。