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子持ちになりました

「だからのう。コルを連れてっていってくれんか?」

「どこがだからなんだよ」

「言っていなかったかのう?」


 ボケドラゴンめ。ちゃんと概要を説明しろよ。よくわからないに決まっているだろう。


「だからな。この子が迷子になったようでのう。迷い込んで来たのじゃ。わしはこんな体だからのうここから出ら出れないのじゃ。ほれ、入り口が小さいじゃろう。だからの。本当のお母さんに会わせて欲しいのじゃがのう」

「ちちー。ははにあえるのー?」


 九尾の子供、コルの仕草が可愛い。子猫のようである。


「あいつらに付いて行ったらな」

「いくーおそといくー」

「は、そこに入っちゃダメー」


 コルがこちらに来ると、師匠の肩に登り、頭の上に到達する。そこに気に入ったのかな。しばらくすると、胸と革鎧の間にスッポリと嵌る。くそう、俺もそこに入りたい。

 

「いこーおそといこー」

「うむ、頼むぞ」

「俺達なんにも言ってないぞ」

「そうよそうよ。お兄ちゃんがオジちゃんに物申すぞ。お兄ちゃんが」

「そうだそうだ。俺らはそんなめんど……俺はそんな事言いません。食われたくないから」


 あぶねーもうちょっとで反感を買うところだった。こんなところで死にたくねえ。

 

「もうわたしはいいですよ。かわいいですから」

「うん俺もいいと思う」

「お兄ちゃんがすぐ手のひら返した」

「まあまあ、妹よ。この可愛さだよ」

「う、こ、これは仕方がないです……探しましょう」


 コルの可愛さに俺らは陥落した。この可愛さは反則だ。どんな奴でも愛情を持っていたら耐えることができないだろう。


「うむ、よろしくな。お礼に何かあったらわしが力を貸してやろうかの。連絡してくるんじゃよ」

「はいはい。ところでコルちゃんは変身できる?」

「うんできるー」

「やってみて」

「うんー」


 現れたのは小さなドラゴン。赤いドラゴン。


「れっどどらごん。うまいー?」

「うまいぞ。コルよ」


 褒めてるのはおまえだけだよ。師匠なんか苦笑いだよ。いやだからドラゴン連れて街の中歩けないだろう。これじゃあ、何のための変身……変化かわからない。


「ものとか人はできないかな?」

「うむ練習は必要ぞ」

「やってみるー」

「……なにこれ?」

「なにこれお兄ちゃん?」

「これはお守りかな」

「おまもり?」


 俺も妹もドラゴン爺さんも知らないものだった。サチカの首に巻き付いてネックレスみたいになったのだが、それを師匠は知っていたようだった。何するものなんだろうね。


「うん。お守りと言って、神様にお祈りするものだな」

「そうなのーははーがいっつもつけてたー」


 九尾一族は神を信仰しているのだろうか。どんな神様なんだろうね。火の神かな。エルフは水の神だとよく聞く話だけど。


「じゃあなーよろしく頼むぞ―」

 

 ドラゴン爺さんのところを御暇して帝都に帰る。もちろん依頼の薬草ももらってきた。そこら辺たくさん生えていたので有り余るぐらい取っていいと言われたが、全て取るのはもったいなく、残してきた。

 爺さんいわく、話し相手が欲しかった、とのことで結構時間をくった。

 コルを紹介された後、世間について話させられたのだ。師匠はそういうことに疎いし、妹は興味が無いのでもっぱら俺が相手をしていた。疎いと興味が無いのは雲泥の差がある。師匠は爺さんと一緒に聞いていたが、妹はコルと遊んでいた。遊び疲れて昼寝もしていた。

 まだ俺の背中で眠っている。どれだけ眠るよ。そろそろ起きろ。

 帝都に戻ると門兵が騒然としていた。門兵といっても街に入るまでの関所の方。城の中に俺達が入れるわけないじゃないか。

 

「あの……どうしたんですか?」

「なにって魔物に村が襲われたんだよ」

 

 俺の村が襲われたらしい。な、なにしてるんだ。早く助けに行かないと。


「カイト早く行こう」

「お兄ちゃん早く帰ろう」

「おう。帰ろう」


 満場一致。消費アイテムをちゃんと消費していないのでこのまま行っても大丈夫だ。

 なんか忘れているような気がするけど、そんなことはどうでもいい。忘れられているようなことだから急ぐことでもないだろうし、ほっとこう。


「命令が出しだい。我々も向かうからな」

「おう。早く来てくれよ」

「ああ」


 俺達は早く帰ることになった。急げ急げ急げ。



 村に戻ると、何やら村人たちが集まっていた。

 思っているほど被害がないような……?

 壊されている家も倉庫もないし。畑の柵が壊されているけれど肝心の作物には手を付けていないようである。何がしたかった魔物だろうか。

 近くにいた村のおっちゃんに話を聞く。


「や、戻ってきてくれたのか」

「ええ、大丈夫だったのか?」

「ご覧のとおりだ。人的被害はゼロ。今年の収穫物を取られてしまったよ、ははは」


 そう言う割には表情は柔らかい。

 そのわけは既に今年の税を払っていることでもあるし、もう少しで収穫時期なのである。貧困に困ることもないのだ。

 村長にあって詳しく話をしてくれた。

 襲ったのはダークエルフたち。冷酷で残虐と噂のダークエルフ。この地域にはいないはずなのだがどこからか突然現れたのだ。練度も高く組織だっていたので村の戦力だけでは抵抗不可能。普通の村に騎士団なんているわけじゃないからな。それは当然。

 ダークエルフたちは村人たちを捕まえ縛ると、食料庫倉庫の食べ物を根こそぎ奪っていって東の森の方に消えたらしい。最後に縛られた人たちを開放して謝罪しながら帰っていったのだと。

 村人たちはその謝罪にあっけにとられて簡単に逃がしてしまう。その話を聞くと、イメージとぜんぜん違うダークエルフだった。


「ダークエルフのイメージって悪いのか?」

「そうです師匠。ダークエルフはエルフが犯罪を犯してなるらしいと聞きます」

「でも良い人がいるんだな」

「改心でもしたんですかね」

「そうだといいな」


 それはともかくとして、また同じことが起こるかもしれないからと、東の森を調べて欲しいと言われた。報酬も少ないが出してくれる。

 冒険者ギルドには行ったが登録していない。なんか重要な依頼を受けたような気がするけれど、関係ないか。やっぱり身内のことが大事だよ。

 というわけで村についた足でそのまま東の森を探検することになった。

 この森は高レベルの魔物が出るわけでもなく、初心者向けの狩場だったりする。名前もついていたようだけど、どんなんだったっけ。確か数年前にギルドが幾つかの名前で呼ばれていたこの森を一つにしたとか聞いたけど、結局どうなったんだろうね。わかんないや。


「ねえーもとにもどっていいー?」

「うん。いいよ。この辺人もいないようだし」

 

 俺の《索敵》スキルでも反応はない。しょっちゅう使っているおかげで索敵範囲も少しずつ広まっているのだ。もう半径十メートルはいける。

 隠していたコルもキツネ状態に戻り、師匠の頭の上へ。時より火魔法で攻撃してくれる。

 ドラゴンに会っちゃった俺達にかなう魔物もおらず、数で群れるような魔物は師匠中心に戦ったが、個人戦になるようだと、俺達兄妹も頑張った。おかげでレベルも少し上がった。


「怪しい洞窟だな……」

「そうですねサチカさん」

「でも、入ってみるよなやっぱり」

「もちろんだ」


 一見、変哲のない洞窟なのだが、小麦粉が少し落ちてる。

 露骨に怪しいのだ。


「順番はカイト、ミーナちゃん、わたしの順だ」

「サチカさん怖いんじゃないですか。代わってあげますよ……」


 妹は怪談に弱かったりする。スケルトンなんかなら裸足で逃げ出すだろう妹が。


「いや、わたしは大丈夫だ。それに後ろから襲い掛かってくるかもしれんぞ」

「……このままでいいです」


 シーフ系ジョブの本領発揮。《探索》やら《索敵》をしながら進む。思ってないほど簡単にある物体の前についた。

 物体と言うより文様だが。

 大きい文様で、三人が調べだす。


「これは……魔法陣だ」

「師匠何か知ってるんですか?」

「ああ。魔法陣はな、魔力を流すことである巨大魔法を使うことができるのだ」

「へー。魔力ってこんな感じですか?」

「おい、なにしてんだよ。なんか光ってるぞ」


 ミーナが魔力を流してみたらしく魔法陣が光り出した。


「これは……転移魔法か」

「転移?」

「どこかに飛ばされるぞ早く出ろ」


 その時入っていたのは俺と師匠。この魔方陣デカすぎで中心付近にいた俺達は外に出ようと動き出す。


「光が強くなってる。間に合わない」

「いや、あたしだけ置いてくなんか許さないんだからね」

「おい、外にいろよ」

「だめ、あたしだけおい――」

 

 その時光が俺の目の前であふれた。


 

 俺の目の前に現れた光景は、神殿らしきところに出たのだ。なんか、寂れた神殿かな。

 なんかモロ引っこ抜いてください、と言うようなところに石に刺さった剣があるんですけど。

 

「お兄ちゃん、これ抜いてみない?」

「お、おおう。抜いてみたいよね。聖剣だったら嬉しいけどな」

 

 う、おおう、おおうううおおいう。抜けねえ。なんの力がここにかかてるんだよ。魔法なんかがあったら無理だよ。

 もしかしたら俺に力がないだけで単に刺さっているのだけかもしれないので、師匠にも挑戦してもらう。

 スポッ。


「簡単に抜けたんだけど……」


 俺の立場が……。

 なに、ジョブ補正とか、レベル条件があったりするのか。

 それにしてもそんな軽々と抜かないでほしい。頑張ったすえ抜けたのならまだいいのけれど。


「まあ、なんかいい剣みたいだから師匠がもらっていいんじゃない」

「そうね。魔法陣も消えてしまったようだから出口を探そう」

「お兄ちゃん……」


 おおい、なんかダークエルフの大群に囲まれていた。

 なに、なんか悪いことしたか。俺達のことを睨みつけているのだ。ホント困るよな。どうやってここから脱出しようか。見たところダークエルフの後方に出口があるようなのだが、当然、そこまでにダークエルフたちを蹴散らしていかないといけない。だめだな。そんなものできるわけない。


「っ……お兄ちゃん。どうしよ」

「わたしが先頭にいくので付いてきて」

「はい師匠」

「いくよ」


 俺も抜剣。忍術を使う用意。忍術は敵を混乱に貶めることが容易なのだ。MPと威力が低いだけなのだ。撹乱用には有用なのである。


「ちょ、っちょっと待ってくれまいか。ほれ、敵対の意思はこっちにないのだ。お前ら、武器を捨てろ」

「は?」


 一応俺達も構えを解く。武器は戻さないが。まだまだ圧倒的に負けているのだ。気は抜けない。

 ダークエルフの隊長格の人が話をしてくれる。


「話を聞いてくれないでしょうか」

「はあ」

「私たちは見ての通り……」

「ダークエルフですよね」

「そうだ。だがな、われわれダークエルフはそんなに悪いやつじゃないのだぞ」

「それはいいけれど……話っているのは」

「師匠、いいってことはないですよ。俺の村が襲われたんですよ」

「すまん。それには事情があっての。話は長くなるから家にでも来んか?」

「ええいいですよ」

「ところでその剣は?」


 師匠の抜いた剣を差しているダークエルフ代表さん。


「ちょっとタイム相談タイム」

「は?」

「いいからちょっと待って」

「お、おう」


 三人で相談タイムです。集合。

 この剣なんかあると思う?

 わたしの住んでいるところでは勇者伝説が多かったよ。

 じゃあサチカさんは勇者だね。

 いや、勇者は遠慮したい。

 俺やっていい?

 カイトは勇者したいのか?

 それはもちろん、男は勇者に憧れるものだ。

 じゃあそういうことで。お兄ちゃん頑張ってね。


 という会話が俺達の間で行われた。勇者か……よしやってろううじゃないか。勇者になろうと思います。頑張ろう、頑張ろう。

 

「いいか?」

「ああなんだ?」

「その剣抜いたのは誰だ?」

「俺です。俺が抜きました」

「そうか。ここに魔王様が降臨しなさったぞ」

「「「「「おおおおおお」」」」」


 あれ?


「なんか違わない……?」

「うんそうだね」

「ちょ、ちょっと待ってもらえません? その魔王様って?」

「ああ、この国の伝承にあってな。その魔剣【セイギ】を抜いた者が我らをを救ってくれると言われていたのだ」


 それって、師匠が魔王様ってことだよな。していることは勇者だけど。


「それって勇者とは言わないんですか?」

「勇者は人の国のものでしょう。ここでは魔族の国ですから魔王ですよ」


 そんな区分けをしているんだ。魔王イコール勇者みたいな。


「私に家に来てください。今までのこととこれからのことを話しましょう」


 歓迎されながらも厄介なことになったようだった。

やっとチュートリアル的冒険が終わりました。

これから国造りを頑張るみたいです。

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