★冒険者になろう1
★のついた小題は外伝です、世界観や仕様の説明が多くなると思います。
読まなくても全く困ることはありませんので飛ばしてもらって構いません。
そのうち、本編に関わってくるかもしれませんが、作者にもそれはわかりません。
いやーなんかファンタジー世界に来てしまったようだ。
なんでわかったって? 右手を振ったら表示枠が出てきたからだ。現実世界にそんなことが起こるはずがないだろう。だから異世界かゲームの中か、そんなところだろう。
出現した表示を眺めていると、結構わかることがあるのな。
僕はスイン、本名、朝倉磨躯。あるゲームのキャラクターの名前である。ジョブは精霊使い。持ち物はないが、装備品はセーブ時のままである。つながりの腕輪と賢者のローブを装備しているな。装備扱いなのは能力上昇するもののようである。靴とか下着とかはちゃんと着ているよ。安心して。
「ま、のんびり街まで行くか……」
できたら誰かと会っておきたい。どんな世界なのか教えて欲しいし。
魔物が出てきたらどうしよう。一応ゲームでは高位精霊使いだったのだけどな。精霊さんとか呼べるのかな。
「精霊さーん?」
「はいー」
わらわらでてきた。五人が僕の周りを飛び回る。小さな女の子かな?
「なんの精霊さんですか?」
「ちー」
「かぜー」
僕がマスターしているままだし、表示にも《風精霊使い》《地精霊使い》だったので予想通りである。
「えっと、魔物が出てきたらやっつけてくれます?」
「たぶんー」
「わかんないー」
「たたかいかたー」
「おしえてー」
「くれたらー」
「うーん、イメージしたらいいのかな?」
「そんなかんじー」
そこは本番一発勝負になってしまうかも。それよりも違うこと聞いてみよ。一気にしゃべってくれたら速いのにね。
「ここはどこ?」
「もりー」
「地域の名前は?」
「わかんないー」
まあ、わかっていたけどね。そんなに知能が高いわけではないのだろう。
適当に歩き回ったいたら、おそらく街道かなにかなのだろうか大きな開けた道にでた。
どちらかに進んだら街につくだろう。なんにも持ってないから早いところ町に行きたいね。
……お金はたくさんあるのだけど。表示枠の中に書かれており、ゲーム時に貯めた分そのまま残っている。
ふんっ。……取り出せない。たくさんの金貨とか銀貨とかが出てきても困る。外国貨幣は大変だよね。アメリカでもよくわからない。セントってどのぐらいの価値があるのだ。
街よりも人に会いたいな。無人島とかじゃなければいいな。道があるからそれはないか。もしかしたら急に人類が全滅したりしたのかも……。
それはないか。
「そこにいるのは誰だ?」
「え? あ、人だー」
「なんでございましょう?」
いきなり口調が変わった。
たくさんの馬車と人たちだ。商隊だろう。これでいろいろわかる。
「冒険者ですか?」
「え、ええと、そうです。冒険者してますスインと言います」
「これはこれは、奴隷商人のスルガといいます」
「ど、奴隷商人ですか……」
「見たところお客様はお一人で冒険しているようですね」
「ええまあ、遠いところから来たのでこの辺のことはよくわからないのです。そちらは商人ですよね? お一人で?」
一人しかいないのに大きな馬車や荷台がたくさん連なっている。サーカスで出てきそうな檻がちらほら。
「ええ、戦闘用奴隷なのでいざとなれば盗賊なんかは返り討ちです。私が奴隷たちの仮主人ということなので逆らうこともありませんし」
「戦闘用奴隷ですか……」
よくわからない話の流れになっているような。
というかもう僕のことお客と思っているんだ。お金持ってな……あ、装備がいいからだろうか。
「そうでございますか。それではご存じないかもしれませんが、パーティに奴隷を使うことがよくあるのでございます」
「……それのどんなメリットが?」
さすが商人。こうやって商売につなげるのか。
「それはパーティには諍いが付き物で御座いましょう。レアアイテムがドロップした時などとかです。そのため主人一人と奴隷で構成されているとすべてご主人様のものになるのです」
「そうなんですか」
「そうなんです。というわけで奴隷はどうでしょう?」
「やっぱりそうなりますか」
「そうなりますな商人なので。どれ、見るでもどうでしょうか」
奴隷にはやっぱり良い印象はない。日本の習慣である。民主主義の中にいた僕は抵抗しかない。
「性奴隷もありますよ?」
「せ、性奴隷……」
「それだけではなく。この辺のことをお知りにならないのなら教養のある奴隷もございますが、どうでしょう?」
「ま、まあ見てみるだけなら……」
決して性奴隷に釣られたわけではない。まだ高校生だよ僕。恋愛はお互いの気持が大事だと思っていたいんです。それぐらい、いいでしょう。
やっぱり異世界は価値観が違うのかな。
檻でできた馬車を見て回る。なかなかいい人はいないものである。男が多いのは目的からして当然だろうが、目つきが怖すぎるよ。買われたいのだろうか。そうでもないのだろうか。
男ゾーンを過ぎ女性ゾーンに。
こっちはやる気ある人とない人がはっきりと分かれている。
その中でも。
「あなた様は精霊と仲の良いのですね」
と話しかけてきた人がいた。
「彼女は?」
「はい。女性エルフで剣を使わせれば随一の強者でございます。エルフであり教養も持ちあわれておりますのでお客様にはよいものだと」
エルフもいるんだ。さすが異世界。
……エルフも奴隷になってしまうんだ。僕の知っているイメージでは、人嫌いとか孤高の種族のような感じだったのだけど。
「うん。エルフってことは高くなるの?」
「そうでもございません。昔は奴隷に身を落とすのも少なかったらしいのですが、戦争に負け最近では、一般的な女性人種と同じ値段です。まあ、能力値が全体的に高くなるのでその分は少しだけ高くなりますが」
「では、いくらに?」
「そうですね……初めてご利用になったお客様ですから、サービスして……五十万Gでどうでしょう?」
あれ? そんなに高くない。今の手持ち五百万Gなんですけど。
助けて欲しいという目が網膜から剥がれない。知識が欲しいし精霊使いの僕は後衛だから、頼りになる前衛タイプが早急に必要だから。
あと、かわいいし。エルフサイコー。
「じゃあそれで払います」
「よろしいので?」
「ええ、次もよろしくおねがいしますよ?」
「もちろんでございます。こちらに手を」
何やら怪しい呪文をかけられた。
「これは?」
「はい。奴隷の忠誠の魔法でございます。お客様に逆らえなくなります」
魔法便利。
言っておくけど、奴隷に引かれたわけでいるわけではないよ。綺麗だったから。この人が美人過ぎたからなんです。助けてあげたいじゃないですか。
勇者を目指していた僕としては。
ゲームの中ぐらい活躍したかったんだ。もともと精霊使いになるつもりはなかったのだけど、仕様でジョブはあまり選べないのだ。一次転職時に分かれるのは戦士か魔法使いなのだ。適正値が魔法使いよりだったので、そちらの道しかなかった。
本当は聖騎士、パラディンになりたかったのだけど、戦士職になれなかったからどうしようもない。
二次、三次に上がるに連れてやっぱり適正のある精霊使いになったのだ。攻撃力もゲームでは申し分なかった。
「ご主人様。よろしくお願いします。スローウナといいます」
「僕はスイン。えっと、ご主人様というのは……やめてほしいな」
「ダメでございます。わたしとご主人様の立場が揺らいでしまいます」
揺らいでもらって構わないのだけど。
「それはそのうちだとして……表示出してもらえる?」
「ひょうじ……? ステータスバーですね」
ステータスバーと言うのですね。
「あの、お客様、わたくしどもは急いでいますので先に行かせてもらいます」
「ああ、そっちに大きな街が?」
「はい。この国最大も街、帝都があります。もし奴隷を買いたいのであれば、わたくしどものところへいらっしゃってください」
「ええ」
「では……」
奴隷商人は先に行ってしまった。いろいろこのスローウナに聞けばいいし。戦闘についても色々頼むことになるだろう。主に前衛として。
「ご主人様。ステータスバーはこちらです」
見ると、レベルは12。低いような?
「僕はこっち」
いろいろ戦闘時の作戦として必要になるであろう情報を提示。それ以外にも知る必要なことがあるだろうけれど。
ジョブ戦士。
スローウナのスキルは《片手剣術》《軽業》《格闘術》。
うーん。探知系のスキルがない。不意打ちに弱くなったしまう。
「ご主人様はやっぱり精霊使いなのですね。地属性と風属性を呼べるのですね。二つもなんてすごいです」
「あーまあ、精霊と会うのが難しいだけで精霊使いになるのは難しくないぞ」
「そんなはずありません。私なんか出来なかったのに……」
「そうなんだ……」
「エルフは魔法使いか精霊使いになるのが普通ですから。私はなれませんでしたけど」
「MPはあるよね? なんか制限があるのかな……」
「わかりません。それよりご主人様パーティを結成しましょう。そうすればすぐにお互いの状態がわかるようになります」
「そうなんだ。ここかな?」
ステータスバーを触っていくとパーティ結成申請ボタンがあった。押してしばらくすると認証が返ってきた。すると、スローウナの頭上にHPバーとMPバーが見えるようになった。おお、これはわかりやすい。僕の頭上にも見えているのだろう。
自分のHP、MPは視界の隅に表示されている。それがあるからここが異世界、ゲームの世界だと思ってしまうのだ。死んだらどうなるかはわからないけれど。
それはそれ死んだ時にでも考えよう。
死にたくはないけれど。痛そうだし。




