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本戦一回戦

 合図によってスタートした僕らは、トラックを走り抜ける。

 さすがに序盤からつらいわけでもなく、対戦している魔剣士さんを窺うように競争する。お互いにスピードを出さないね。

 

「はっはっはっはっは」


 もう呼吸が乱れてきてしまった。日本でも異世界でもこんなに激しい運動はしたことなかったからなあ。それを見た魔剣士さんはすぐに先行してしまった。体力がないことを見抜かれている。

 今のところ日本人と精霊魔法にしかアイデンティティを確保できていないのだけど、精霊魔法が使えない。走りながら話すことができないのでね。息が続かないからね。

 しかし心配することはなかった。魔剣士さんは第一の障害に直面していた。各担当の一周には障害が一つしかないんだけどね。

 魔剣士さんは机に向かってなにか書き込んでいる。

 ようやく僕もたどり着いた。

 おいてあるのは紙。よく見ると計算式が書かれてある。これ解くだけ? 簡単だよ? 足し算ばっかりだよ。桁が大きいわけでもないんですけど。

 つまり三+三+三+三+三+……みたいな感じだ。

 掛け算の概念がないのかもしれない。

 僕にかかればそれぐらい簡単である。というか小学校高学年ならだれでも解けるんですけれど。

 そんな数式が十問ほど並んでいる。

 一応高校生レベルの学力を保持する僕がすぐ回答し先に進む。

 魔剣士さんはまだまだかかりそうだ。両手の指を使って数えだしているもん。こっちの世界では教育があまり発達していないようである。大体は家族から教えてもらうのが一般的だ。だから基本的な数字や文字は理解する人が多くなっており、通じるわけだ。桁が多くなりすぎたら手が出なくなる人も多いようだけど。


「おおっと、スイン選手素早く障害を突破し仲間のもとに向かいます」


 再び走り出してすぐ。


「スイン殿うしろでござる」

「スイン様危ない」


 マサムネとスローウナの声が聞こえた。

 その時には僕は横っ飛びをしていた。途端に火の玉が元いた地点を駆けて行った。ファイヤーボールの魔法だろう。僕を妨害するために放ったのだ。避けれたけれど。魔剣士さんも解き終えて走り出している。鎧をつけているのにもかかわらずかなりのスピードだ。前半の比ではない。

 ようやくマサムネのもとにたどり着いた。

 一周四百メートル……いや僕は大きなトラックを見たこともないのだけど、イメージとしてそのぐらいだと思ってくれればいい、しかしまた長いね。僕がたどりついたときには魔剣士さんは百メートルほど後方だった。半周の地点に障害物が置かれていた。あれがなければ僕は勝てるわけがなかった。


「スイン殿。あとは拙者に任せてくだされでござる」

「ああ……がんばってくれ」


 マサムネは侍走りとでもいう走法でかけていった。少し遅れて相手の魔剣士さんが二番目の走者に代わる。全然違いが判らないんですけど。装備も同じだし背丈体格も変わらないし。

 そんなことよりも二走目である。

 トラック上の障害物のもとへたどり着く二人。それまでにも獲物で切りあっていたが、決着がつくまでではなかった。

 今回の障害物はなにだろう。まさか同じものを使うわけがないよね。

 というか今思ったんだけど、答え合わせせていないよ。僕の解答間違ったかどうかなんて聞かされていないぞ。もしかして適当に数字を埋めておけばよかったのではなかろうか。

 解答によって時間差が作られていたらいいなと思ったのだけど、その様子はないね。

 おい、スタッフ。ちゃんとしろ。

 あ、なんか出てきたぞ。盾と鎧でガチガチに固めた騎士が出てきたぞ。

 

「二走目の障害は王国騎士との模擬戦だあああああああああ」


 だそうです。

 二人ともトラックのコース外になる中央に移動する。コースアウトはないんだけどね、たぶん。詳しいルールなんて知らない。

 刃をつぶしたりして一応安全になっているような各種武器を手にする二人。今までは刃物で切り合っていたのだけどね。今更感が強いのですが。

 正式な王国の騎士を殺めてもらったら困るのだろう。マサムネは両刃で細めの模擬剣を選んでいた。本来の武器である刀型のはなかったみたいだ。

 そして戦い始めたんですけど。えっと……マサムネが瞬殺してしまった。

 いや、殺していないよ。相手の得物を叩き落としたのである。戦闘不能にすれば決着らしかった。丁寧に模擬剣をお返しし、コースに戻って走り出した。

 魔剣士さんのほうはちょっと時間かかってしまったかな。騎士さんが手加減したようで、大きくない差で再スタートした。

 そう考えるとマサムネは強いのだろう。今までその強さを誇示する場面がなかったんだよね。魔物に出会っても僕が遠距離で仕留めたりするし、接近戦に至ってはスローウナが切り捨ててしまう。

 同じ強さの騎士さんを用意しているはずだから比べるにはもってこいだった。もうすでに僕らのパーティは一般を飛び越えているね。知らないうちに。

 騎士さんも大変ですね。空気読まなければならないみたいし、痛い思いしてやられないといけない。

 心中お察しします。

 それはそうと走者バトンタッチである。

 魔剣士さんが魔法を飛ばすけれど正宗は切り払いながら走っていた。かなりの余裕を持っての交代である。

 マサムネの作った差を詰められないように頑張って。ホラリュール。

 なんていうか予想通りだったけれど、あれだね。走り方が四つん這いなのである。オオカミとしてはあってますけれど、人間としては間違っているよね。あと、現状ホラリュールの形態は人間形態だよ。

 うん、会場中がざわめき立っているよ。

 司会者さんもテンションが上がって何言っているかさえわからない。

 走り方についてしゃべっているような気がする。

 で、結果なのだけど。ここ重要だよね。

 走るのはやいね。人間形態なのに四つ足のほうが速く走れるようになるとかどうよ。差がぐんぐん開いているじゃないですか。

 ほら、もう障害物にあたったじゃない。

 えっと、今回の障害物は……?


「別エリア障害まみれだあああああああああああああああ」


 は?

 なにそれ?

 解説の人が教えてくれるようだ。実況の人に埋もれて存在を知らなかったよ。


「今回の障害物は別エリアに用意してあります。転移魔法によってここから移動してもらい、そちらをクリアしてから戻ってきてもらいます」

「この戦いは派手になるぞおーああああああああああ」

 

 この実況『あ』が多すぎじゃないですか。


「ですからここにいる皆さんは画面をご覧ください」


 透けるテレビみたいな……魔法でいいのかな? まあそんな感じで三百六十度全方位から見ることができる画面が競技場中央に現れた。

 転移もテレビ的なアレも便利な魔法だなあ。習得できるのならしてみたいと思う。

 

「おっと、ホラリュール選手いきなりすなに顔を突っ込みました」


 なんか僕が日本にいたころから一昔前のバラエティのようだった。

 彼女が今していることは小麦粉の中から飴玉を見つけ出すというやつだ。もちろん手を使ってはいけない。顔を粉の中につけながら探すアレである。


「おや、もう見つけ出したようです。ホラリュール選手次のステージに向かいます」


 もしかしたら鼻がよいのかもしれない。あと思い切りの良さが。芸人さんでもない人からするとためらいがどうしても生まれてしまうよね。

 魔剣士さん側も追い付いてきたようだ。小麦粉の前でためらっているね。そう、あれが普通の反応ですよ。こっちはケモノで子供だからなあ。

 その後、熱湯に入るとか、スタッフとのローション相撲とかやっていた。

 ホラリュールの独壇場でしたよ。

 なんというか全体的に肌色が多い障害物だったね。今回は。

 ホラリュールが子供だったおかげで気付かなかったかもしれないけれど、普通の思春期を通った女性にはつらい仕様になっていた。

 おい、スタッフ。ちゃんと仕事しているんだろうな。サービスシーンなんていらないんだからな。わかっているのかそのへん。

 子供の体なんて見たって面白くとも何ともないだろう。

 というような僕の心の声は置いておいて。

 ようやく本戦一回戦は折り返し地点を過ぎていた。

遅くなりました。すみません。

時間がなかなかできなくて、あと、ストックも出しつくしたので、投稿できませんでした。

書きだめを徳郎と思うので、おそらく月一ぐらいになってしまうと思います。出来次第、いつもの間隔に戻そうと思いますが、ご了承ください。

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