★行商中
「待ってください。僕食べても美味しくないですよ。お願いしますって」
「ふむ。後ろの肉をくれるのなら待ってやってもいいぞ」
「もちろん出します。出しますから待ってくださいよ」
「はよう出せ」
「はいはい、今出しますから」
僕らは今窮地に陥っていた。
魔狼という大きな狼に対面しちゃっているのだった。
僕達三人は魔狼に睨まれてしまっているのだ。
「ふむ……ムシャムシャ…………美味しいものだな。むくっ、ふむ、お主らは結構いいやつじゃな」
肉くれただけでいいやつにランクアップとは。
よかった。当分は安全らしいね。
「お主らは行商人かえ?」
「ええまあ、あなたのせいで商品が一つなくなったようですけど」
アリーナルを出発するときに荷物をもらい、形だけ行商をするつもりなのだ。食料なんかを詰め込んでいるな。サチカさん作の日本商品も少なからずある。アンパンとかの菓子パンが主。今までパンはあったが菓子パンはなかったのだ。
それはそうと、ちゃんとした公にできる身分をもらったのだ。冒険者というのもあるがそれはそれで物騒だし、有名になっても困る。情報集めには高ランクになればいいのだろうけど、それほど有名なのはなんというか動きにくそう。
アリーナルに来た時と同じ荷馬車を使っている。あの姉妹がいなくなった分、スペースが開いているので、もう何人か増えても大丈夫。
「わしが悪いのかえ?」
「そ、そんなことはありません。でもまあ何でもお金はかかりますよね」
「ふむ、それはそうじゃのう……それは悪いことをしたかものう。後払いになるがなにか、考えることにするかの」
ふーむ……なにしようか、と唸って考える。僕らはただ待つ。下手に助言して怒らせても困るので。なんか完全に僕ら弱者なんだよね。人間の中なら結構強者らしいけど、世界は広いってことだね。上には上がいるし下もいるのだ。
しばらくして、魔狼さんは付いてきてくれと言うので、揃って頷く。
歩くこと五分ぐらい?
魔狼さんが言う。
「荷物はここに置いておけ。乗せて行くからのう」
「に、荷物はどうするんですか。まさか捨てろって言うんですか」
「まさか。商人にとって品物は命の次に大切なモノだろう。もちろんここに置いていくが結界を張っておくから大事はないのう」
「魔法も使えるんですか……」
「正確には魔狼のみに伝わる能力とでもいうのかのう。魔狼は群れない種族での、子供たちを外敵から守るために必要なのだ」
「へー」
「ちょっと遠いところに渡したいのがいてな。人の足ではちょっと遠いので、乗せてやろうかと」
そういうことなら乗せて行ってもらおう。
魔狼に屈んでもらって僕もスローウナもまたがる。結構視点が高い。
「む、影に何かいるぞ?」
「え、あ、連れにバンパイアがいるので。日中はまだ寝ているのでは」
「奴隷のエルフに加えてそんなヤツも連れているのか……まあ、行くぞ、しっかり掴まっておけ」
そんなヤツといわれるクミンさん。不幸だね。寝ているうちに話が進んでゆくので夜に色々教えてあげないといけないね。まだ言ってないことのほうが少ないんだけど。
バンパイアのクミンさんは日中の移動中は寝ている。道中は暇でそれに、バンパイアは基本夜行性だからね。
いきなり走りだしてしまった魔狼の背中。かなりのスピードで走っている。自動車よりも早いんじゃないかあ。待って待って。
もうちょっとスピードを落として欲しいです……。
「わ、かきゃああああ。ジェットコースターだだだああああ」
「なななななんですかああああそそそそれえええええ」
「なんじゃその面白そうなのは?」
「うっわわわああああああああああああ」
全身で掴まっているのだが、縦に揺れる。揺れる揺れる。ほんとジェットコースターみたいなのだ。
ようやくなんとか目的地についたのだ。
いやー途中で飛竜に追いかけられたのだが、魔狼さんの一咬みで追い払っていた。その時、大きくジャンプした。もうね、飛んでた。飛行だったよ。浮遊感が半端無かった。
彼らにジェットコースターの説明いるかなあ。めんどいので割愛したいのだが。
「ここじゃ、ほれ、降りろ。帰ったぞ―」
「ガウガウ」
「おうおう、寂しかったか。ほれ肉じゃ」
「がう~」
しなくてよさそうだった。綺麗に忘れてくれているようだ。
魔狼の子供たちがいるようだ。狼の子供が出てくるかと思ったら、一匹は普通の魔狼だったのだが、もう一匹は女の子だった。人間の女の子だったのだ。身なりはちょっと薄汚いけれど、それは着ている服がボロっちかったからかもしれない。
「なんで人の子がいるんですかっ?」
「ふむ……拾ってな」
親魔狼が自分の子を育てていた時に人間の一組の親子を見つけた。そのときには母親は死にかけており、娘をカルニカ助けてくれと、懇願して死んだらしい。その後、二人の娘を育てているんだって。
服は盗賊やら商隊からくすねていたそうな。
だが、ここに問題が現れた。ヒトであるカルニカが魔狼と同じ習性を持つようになってしまったのだ。つまり、言葉が喋れなくなっていたのだった。親魔狼が気づいてからは度々教えるようにしていた結果、ほとんどが鳴き声で、簡単な単語は聞き取れるようになったと言うのだけど、話せていない。人里には戻れないぐらいにはダメだった。
そこで、渡りに船と来たのが僕らだったらしい。エルフを奴隷にしながらも対等に扱っているようだし、肉を恵んでくれるようなお人好し。そして、それなりの強さを持つらしいことを見抜いた。
僕の回りにいる見えない精霊も感知していたようだった。
で。
「うむ、我が娘たちを旅に連れて行ってくれんかのう?」
「あれ、お礼の話をしに来なんじゃないの?」
「十分にお礼になるじゃろ。可愛い娘をやるのだから」
「いやいや、苦労が増えるだけでは?」
「嫌なのかえ?」
「いえいえ滅相もない……はあ」
「その溜息はなんじゃ……仕方がないのう。なにか困ったことがあれば助けてやるから、それで手打ちとせい」
「はいはい。それでいいです」
「もうちょっと敬ったらどうなのじゃ。これでもわしは千年も生きておるのじゃぞ」
「へー」
それはどうでもいいです。
というかリアルもののけ姫が商隊に加わった。
「へーって……傷つくのう。ところでお主、学はあるのじゃろ?」
「ええまあ、商人やっているぐらいには」
ニホンでそれなりに勉強したからなあ。通信教育で高校卒業まではいった。
「教えてやってはくれんじゃろうか」
「文字とか数でいいんですよね。スローウナにも教えているのでいいですけど」
エルフというだけあって(?)文字については十分な教養はあったので今は、数学を教えている。日本て培った学ではあるが、ここでは専門家ぐらいしか知らないことらしい。
古臭い本にも一部乗っていたけれど。
「まずはしゃべるところからになりますよ」
「一人は大丈夫じゃ。代わってみ」
魔狼のほうの子が進み出てガウと一鳴き。それで光りに包まれて女の子になった。なっちゃった。
狼の尻尾と耳付きの人の娘になった。小学生高学年ぐらいだろうか。
全裸で。
「魔狼の娘ホラリュールなのです」
「うわ、リアル狼と香辛料になった……」
「なんじゃそれは?」
「なんでもないです」
こっちももののけ娘と同じぐらいの外見年齢だ。
うん。早く服を着ようね。
ないの?? じゃあ元に戻っといて。
「魔狼はヒトに変身すると言葉を喋れるような血が流れておるのじゃ」
便利ですね。
服を着る能力も欲しかったけれど。
「可愛い子には旅させれ、と言うからの。調度良いから二人とも行きなさい。わしはこの辺にいるからの。いつでも帰ってきなさい」
「がうう」
「がう」
僕の行商の道連れが増えた。
人がどんどん増えていきます。
人物紹介追加しようかなあ。
二話ずつ投稿していたのですが、時間軸の関係で外伝が続くと思います。