ニンジャになりました
というわけで。
母に話を付け依頼をこなす許可をもらった。うちの母はおおらか過ぎる。
「あらあら、行ってらっしゃい、帰ってこなくていいからね。ミーナの面倒ちゃんと見てあげてね」
とすぐに言われた。もう。
言い訳が必要かと思うじゃないですか。
昔から、二児の母親だというのに村人全員から人気だった。俺たちがいなくても村のみんながお世話してくれるだろう。
俺は村の鍛冶屋さんに作ってもらった普通の剣を持って師匠と旅に出る。そんなに長い事にはならないだろうけどね。目標も見えてるし。
「お兄ちゃん、あたしも行く」
「あらあらミーナちゃんも行くの。頑張ってね」
「おいおいおい……」
妹もついてくることになった。母よ。もうちょっと息子娘の心配するとかしたほうがいいんじゃないのか。父が死ぬまでは心配係はお父さんだったから今はいないんだよな。
ええ。弱いですよ。魔法なんかですぐにふっとばされるんですから。ミーナのお兄ちゃんは。
帝都まではちゃんと辿りつけた。村から帝都の外壁が見えているし、迷うことはない。
途中ゴブリンやらオークやらが登場したけれど、こちらには師匠がいるんだぜ。一振りでなぎ倒しちゃうんだから。
「ごめん。倒しちゃった……」
と言われちゃったんだぞ俺達兄妹は。レベル上げのために残しておいてくれるつもりだったらしいです。
そんなことは最初だけ。二回目からはちゃんと武器を使わずにパンチやキックで敵のHPを減らしてくれ、僕らのレベルアッブを手伝ってくれた。あと聖騎士というだけあって回復もしてくれた。
順調に俺達のレベルは上がり帝都につく頃にはレベル10までになった。
レベルはお使いとかでも上がったりするけれど、やっぱりモンスターを倒すと上がるのが早いなあ。
初の帝都入り。おおーおっきい街だ。
どことを見渡してもたくさんの人。人がゴミのようだとはよく言ったものだ。……誰が言ったのだろうね。
準備が必要だな。特にポーション系。HPやMP回復するポーションが必要だよね。前金で十万Gをもらったから気兼ねなく買える。
解毒薬類も買っておく。武器よりも回復を重視する。ダメージ源にサチカがいるから俺達はサポートに徹することにすると決めているのだ。そりゃそのうち独り立ちできるぐらいには強くなりたいと思うけれど、今はまだちょっと無理。もう少しレベル上がってからだろう。それまではサチカのサポートに甘んじることにしよう。
買うものは買った。ちょっと多すぎるような気がするけれど、なくて死ぬよりはマシである。
それから、俺達はジョブを得るために神殿に向かう。
「おらおらねーちゃん。いい身体してんじゃねーかよ。オレたちといいこ――がはっ」
ヤンキーたちが集団で絡んできたのだけど。サチカはソッコーで剣を抜いた。もちろん斬り殺すのは目立ちすぎるのでやめたらしい。そのかわり鞘付きの剣で殴ったのだ。
「あははは、かかってきなさい。ニホンじゃ逃げるしかなかったけれど、ここではそうは行かないわよ」
ニホンってどこなんだろう。
ヤンキーは相手の力量を見抜けなかったからかばう必要もないか。
「お兄ちゃん。手で見えないー」
「まだ見なくてよろしい」
「えーーー」
ズゴ、ガゴ、ドゴ。
「この、この。女だからって弱いわけじゃないんだからね」
…………うん。女って怖いよね。人様にお見せできないような顔なんですけど。聖騎士様が何やってんの。全員がもう戦闘不能なのにまだまだ殴りまくっているのだ。
なにか、彼女の琴線に触れてしまったのだろうね。それには絶対に触れないようにしよう。
「ふう……まだ、足りないがこのぐらいにしてやろう。反省することだな。ではカイト、ミーナよ行こう」
まだ足りないんですか。どれだけ傷めつけるのかと。自業自得だけれどさ、そろそろ止めに行こうかと思ったぐらいだよ。
そんなどうでもいいヤンキーは置いておくとしても、なにやら貧困層が目立つ。ドワーフやエルフでさえも職につけていないようだった。
エルフは魔法に長けているし、ドワーフはモノ作りに一日の長がある。だから、なにかと就職に有利のはずなんだが、現在そうでもないらしい。
昔の戦争の結果、どちらの種族の国も帝国の属国となってしまっている。
酒場や冒険者ギルドで昼間から酒を振る舞い、情報を得てゆく。妹をこういうのはどうかと思うのだが、二人の美少女にお酒を注がれてゆくおじさんたちの口は軽い。ほとんどなんでも教えてくれたという。
俺は何もしていないけど。
手にした情報は、帝国直属の軍隊は大陸の端に位置する反乱民を粛清に行くらしい。俺達を雇った貴族さんの兵たちもそちらに招集されたと。だから冒険者や旅人に依頼しなければならなくなった。
そんなとこ。目的地の洞窟の話は聞けなかった。誰も足を踏み入れたことのないんだって。
「さて、ジョブを貰いに行きますか」
そんな軽く聖堂へ。決まりきった文句を神様に捧げニンジャになることができました。
初期装備は支給されるということで身に着けてみたのだが。
「あはははは、なにそれお兄ちゃん。へんー」
「わかってるわ。似合ってないことぐらいは」
「ま、そのうちいい装備がみつかるから」
「ううー」
ニンジャの初期装備は黒装束。頭部や顔の周りはつけていないのだけど、うん、変。これで町中に出たら目立つことこの上なし。俺の心のHPを切り刻んで楽しいですか。
「じゃーん。どう? お兄ちゃんかわいい?」
「うーん。普通だな」
「もうお兄ちゃん。こういう時はかわいいって言うんだよ」
「へー」
「ちゃんと聞いてお兄ちゃん」
「ミーナちゃんかわいいよ」
「ありがとうございますサチカさん」
妹の格好はローブという普通の魔法使い衣装。かわいいもへったくれもないと思うんだが。
俺はニンジャ、妹はウイザード。
俺のスキルは《忍者》《忍術》《忍者刀》《隠密》《索敵》《尾行》《隠蔽》《投擲》《探索》
「全部熟練度1というのは仕方がないとしても、スキル多いですね。この《忍者》ていうスキルは何でしょうかね?」
転職したらどれだけ上げたスキルでも1から再開するようだ。
「それはニンジャ一般的な行動を図るものだろ。例えば格闘中のキックとかで上がると思うぞ」
師匠が教えてくれた。
妹のスキルは《魔力》《白魔法》《黒魔法》《召喚魔法》《詠唱短縮》《魔力増量》
《魔法》が白と黒にわかれてる。まだ妹は召喚魔法を覚えていないけど。いろいろ便利な魔法覚えてくれないかな。移動が早くなるとか、空を飛べるとか。ドラゴンとか呼び出して乗せてもらうとか。
魔法やスキルの試し打ちしたりしながら洞窟に着いた。
「お兄ちゃんの忍術しょぼかったね。焚き木用の火が付ける火遁の術って便利だね」
「う……」
自分でもそう思ってたんだよ。だってね。手のひらからちょろっと出てきただけだよ。サチカは「マジックショーみたいだね」って言ってくれたけど、攻撃に使えるほどではなかった。魔法のショーってどこかでやっているんだろうか。
でもそれはスキルが育っていなかったから。スキルが上がって来ると火も大きくなりました!
よかった……。
火遁だけでなくて雷遁も水遁も土遁も全て一括しての《忍術》なので上がるのが早い。もう十まで上がったのだ。あと、イメージすると出現方法が変わることもわかった。
魔法も別に変わったこともなく、スキルを上げながらの行軍だった。レベルも上がったし。
「やっと着いた―」
「ここからが本番だよミーナちゃん」
「わかってるって。ねーお兄ちゃん」
「うん……俺が先頭だもんね」
レンジャー系の見せ所だけれど、あいにくまだまだスキルが上がっていない。《罠解除》スキルがニンジャにはないのがネックだけど。
慎重に進む俺達一行。
「師匠、そこ罠っぽいから踏んだらだめですよ」
「そこね。よっ……と……」
ポチ。俺が言ったところを避けて踏み越えたんだけど。
「ねえ、わたし言われたとおりにしたよね」
「ええ……」
「でも、明らかにスイッチあったよね?」
「はい……」
「………………」
後ろから大きな赤い岩が。
「にげろぉおおおおおおおおおおお」
「なんでこんな大玉転がしみたいなんに追いかけられないといけないのよー」
「なんですかオオダマコロガシって?」
「な、なんでもない。そこ左に行こ」
「なんで左なんですか、サチカさん?」
「カン!」
それはまあいいか。このピンチから逃げられるのだったらなんでもいいや。
逃走中にも罠を踏んだようでモンスターがたくさんいる部屋の扉が開いたり弓矢が降ってきたり毒の霧が吹き出したり、したけれどそんなことは関係なく赤い岩が当面の危機だから。多少ダメージになっても無視して逃げまくる。
ようやく脇道を発見したところで、赤い危機は通りすぎていった。
「グゴゴ……ココヲトオリタクバタオシテイケ」
巨大ゴーレムがいた。
いわゆるストーンゴーレムというやつだ。
「ちょ、師匠お願いします」
「うーん、AGIも低いし大丈夫だと思うけれど。適正レベルは二十ぐらいだったかな」
「俺達よりも高いですから」
「そ、そうだね。死んじゃったら、蘇生できないしね」
できるような口ぶりなのですけど。無理に決まってるじゃないですか。
「じゃあ、後方支援よろしく」
俺は後方支援と言っても特にすることはない。お金の関係上、手裏剣やクナイを買うことを今回は見送ったのだ。
「グゴゴゴゴ」
避ける避ける避ける。ゴーレム全般に言えることだけど、動きが遅い。サチカのスキルなのか元々の能力なのかはわからないが、かすりもしない。これはスキルだろうな。たぶんそう。スキルの熟練度が高いから見切れる。
回避しながらサチカの剣で攻撃をしているのだが、硬すぎて弾かれてしまっている。少しずつ削っているけれど、有効打にはならない。
――――回避の過程で後ろの守るべき扉らしきところにゴーレムの攻撃があたった。
「ねえ、お兄ちゃん、先に言っちゃおうよ」
「う、うん……」
正直に正面から倒さなくても通れれば良いのだ。
「師匠、先に行きます」
「うむ、すぐ追いつくぞ」
割れた扉をくぐると。
これまた薄暗い広間に出た。
「あ、あれが頼まれた薬草じゃない?」
「おお、これだろうな。さっさと取って帰ろうぜ」
「あら、あったか。帰りましょうよ」
「師匠、来ましたか」
「うん、逃げてきた」
入口付近から、グゴゴゴゴォと聞こえてくるのだ。大きすぎて扉が通り抜けられていない。当分こっちには来れないだろ。
「ぬううむ。騒がしいぞ。おぬしら」
暗闇の中に何かいる。まさかのドラゴンですか。
明かりがどこからか辺りを照らして、全貌が見えてきた。赤い竜。レットドラゴン。人間が戦って勝てるようには一切見えない。鱗が朱々しく光っている。
寸分狂いなくドラゴンでした。
誰がこんな化け物倒した神話なんか描いたんだよ。ドラゴンスレイヤーなんて嘘に決まっている。
どうするよこれ。前門のドラゴン、後門のゴーレム。
「ど、どうするのお兄ちゃん?」
「ど、どうしよう師匠?」
「ど、どうしようかミーナちゃん?」
「ど、どうしよお兄ちゃん?」
「ど、どうするかな師匠?」
「ど、どうすればいいかなミーナちゃん?」
お、落ち着け俺達。会話がループしているぞ。
「と、とりあえず逃げましょう。ゴーレムのほうが戦いやすいから」
「そうですね師匠。出口もそちらにしかないですし」
考えるまでもなくそうするべきだったんだけど。
「おい待ておぬしら」
「何でしょうかドラゴンさん」
「わしには名前がちゃんとある。バニアというな」
「へー」
「それでのう。ちょっとわしに付き合ってくれんか?」
「「「お断りしますバニアさん」」」
「むーちょっとぐらい話を聞いてくれないかのう?」
「食べません?」
「食べないぞ」
「火を吹かない?」
「吹かないぞ」
「攻撃しないか?」
「しないぞ」
俺達は聞いていく。順に俺、妹、サチカである。
サチカはともかく俺や妹が攻撃を受けると、ほぼ一撃で死んでしまうぐらいの能力差があるのだ。
「そんなに疑わんでくれい。ニンジャに魔女に騎士よ」
「はあ……。俺、カイトと言います」
「魔女じゃないもんウイザードになったんだもん。ほんとはミーナだけどさ」
「聖騎士ですけど、サチカといいます」
「なんとウイザードに聖騎士か。珍しいもんに会ったのう」
「珍しいんですか?」
意外と博識らしいドラゴンさん。
「まあな。ウイザードをわしはまだ五人しか見ておらんぞ。聖騎士はおぬしを含めて二人じゃな」
「そんなに少ないんだな」
「うむ、聖騎士は信仰が深いからな」
「そうなんですか師匠?」
「そんなことは…………あるよ」
「へー」
「うむ、聖騎士は誠実で嘘がつけないのでな」
そうなんだ。いいこと聞いた。サチカは嘘がつけない。
「それでのう。話はな、ここから出られないんじゃ」
「は? 出られないって?」
「まあ、ご覧のとおりここは魔法で作られた壁で作られておってのう。わしでも壊せんのじゃ」
「バニアさんは馬鹿なのー?」
「おいこらミーナ。そんな事言うなよ。殺されるぞ」
「ハッハッハッ。そうじゃのう。わしは馬鹿じゃ。昔、戦争があったんじゃが、それに巻き込もれるのが嫌だったじゃから引きこもったのじゃ。優秀なウイザードに作ってもらってのう」
引きこもっちゃったんだこのドラゴン。世界の平和のためにはいいことだと思うけど、バニアさんの精神弱い。
「それで?」
「うむ、最近困ったことができたのじゃ。ほれ出てこいコル」
「ちちー、なにー?」
出てきたのは小さな生き物。
「キツネ?」
「似ているが違うな。九尾の妖獣だ」