★アリーナルへ
サチカさんがいるという魔族の国に行こうと思う。
信用も置けるし歓迎してくれるそうなので。魔族でない元奴隷さんも一緒に連れて行ってくれたからね。ヒト族を排斥しているわけではないようだもんね。
四人で歩くのもいいが、色々と不便なので馬車を用意した。食料とかね、魔法のかかっている道具袋を持っているが限度ってものがあるし、アレは重いものを重点的に詰め込んでいる。容量に制限があるものの重量は変わらないので軽量化に役に立つのだ。
そんでもって街道を進んでいると盗賊と魔物がエンカウントしてきた。盗賊のほうがエンカウント率少なくていいよね。出できた人たちは死なない程度にボコボコにしてアジトを吐かせて、そのアジトもボコボコにした。
ほとんどはスローウナに任せていたんだけどね。僕は精霊に彼女の援護を頼んだだけだ。
もちろん誰も殺していないし、こちらも傷ついていない。僕はついに人を攻撃するのにも慣れた。慣れてしまった。
魔物のほうはあとでスタッフがおいしくいただきました。
肉食っぽい魔物さんもたくさん出てきたけれど、美味しいのね。美味しい食材が向こうからやってくるのだ。街道だけあってそんなに強い奴が出てくるものでもなかった。
料理の方はちゃんとスローウナが上達していった。日ごとにアーラルが作ったものとの違いがわからなくなってきている。
うんうん料理が美味しいのはいいことだよね。
そんなこんなで、急ぐ旅でもなかったのでゆっくりと進んで一週間。
ようやくアリーナルの国境に来た。
国境といってももうアリーナルの領地内である。国境に配置する兵士で争いになっても困るので本来の国境線からうちに入ったところから見張っているんだよな。よくわからないけど、見張り小屋が設置されている。
アメリカとか外国に行ったことのない僕だけど、入国審査があることは知っている。どんなふうにするのかは知らないけれどね。
ここでもそれがあるのかと思ったのだけど、ないものですね。
首都となっているお城の城壁の中に入るときに検問されたが、サチカさんのことを言うと城まで案内までされた。
サチカさんがすごい権力を持っているのは本当のようだ。
大広間に到着して。
「僕はスインです。帝都でサチカさんと知り合って旅の途中に寄った次第です」
と開いた玉座のある部屋で国の幹部さんたちに会った。
宰相さんと並んでサチカさんがいる。
「えっと、失礼ですが魔王さまは?」
「楽にしていいぞ。わたしとあなたの仲ではないか」
サチカさんがそう言ってくれても雰囲気が許さないんですよ。
「魔王さまはちょっと子供たちの勉強を見に行っております」
宰相さんが僕の疑問に答えてくれた。
「それは……?」
抜き打ちで調査でもしているのかもしれない。イジメとかないかとかを。
それでも、国とトップが勉強の……がっこうだよな?……そこに行くのか?
「魔王さまは先生をしています」
「「「え、ええええっ」」」
「ん?」
僕とスローウナとアーラルは驚いて、ソーシラは完全に理解していなかった。
なんとフットワークの軽い魔王さまだよ。
「それはそうとスイン君はわたしの陣営に入らないかい?」
サチカさんに魔王さまの話はすぐに流された。
なんか不憫。魔王さまの扱いが不遇だ。
「それはどういうことですか?」
「君も日本人なら猫耳・獣っ娘・エルフを悪く思っていないだろう? そう物ではないのかな。他の国ではよく思われていないから、わたしはここだけでも守ろうと思うのだ。その手伝いをしてほしい」
「エルフや獣っ娘は正直いってストライクゾーンど真ん中ですけど。その申し出はありがたいですが、僕にも目的がありますから」
「聞いても?」
「はい。ある薬を探しています。どんな病気でも治すという伝説の薬です」
「それが急ぎで必要なのかい? 誰か困っているとかか? 治療師を派遣できるが」
「困っているといったらそうなんですけど、急ぎではないんですよね。あの僕喘息とか持っているんでそれを治したいなーと」
「喘息か……よくは知らんが呼吸系の病気だったか」
「そうです。それを治せる薬を探そうと思っています」
まだ精霊さんに頼んで綺麗な空気を常時集めてもらっている。誰にも気付かれないレベルで少しずつ周りからかき集めて鼻や口に漂わせてもらっているのだ。おかげで今のところ喘息で困ることはなかった。しかしいつまでもそれで良いとは思っていない。
あと言っていないがアトピーの方もある。薬草をすりつぶして日本で使っていた薬代わりに塗っているが根本的には解決していない。この薬草はポーションの材料になる草である。
ポーションが直せるのは怪我のみ。しかも軽度の。自然治癒力が上がるレベルなのだ。切断されたりしたら無理。
「そうか……では探しに行くのだな?」
「ええ。アーラルとソーシラはこちらで住まわせてもらっても?」
「いいぞ。当分は面倒を見よう。こちらで職を探すと良い」
「ありがとうございます」
「で、君たちは仲間にはなりたいが、異なる目的があるので国にはいない、ということだな?」
「そうです」
「では君たちにはスパイ活動をして貰いたい」
「「「「は?」」」」
僕らだけでなく向こうの宰相さんもその他の人たちもびっくり。
「サチカ殿、彼らをそんなに信用してもよろしいので?」
「ふむ。一人連れて行ってもらうつもりだから問題ないと思うが」
「ちょっと待ってください。スパイ活動って?」
「他の国に紛れ込んで様々な情報を集めることだな」
「スパイ活動の意味を聞いているんじゃありませんって」
「では何を聞きたい?」
あれ? 特に思いつかない。あっれ?
スパイ活動ということは情報を集めることだろ。伝説の良薬の情報も集める予定だから……一つも二つもあんまり変わらない上に、後ろ盾が着いたということになる。別にデメリットが見当たらない。
じゃあやってもあげてもいいじゃね?
「いえ……特には」
「スイン様?」
「ということは?」
サチカさんが尋ねる。
「まあ、やってもいいですけど」
「ありがとうございます。ではこちらから一人付けますね。彼女を呼んでください」
なんかもう決定事項のように進んでいく。僕が了承することがわかっていたようだった。
むう……。
「参りました。クミンです。眠いんですけど…………あわ、なななななんで、あなたがここにっ」
僕なにか悪いことしただろうか。彼女は眠そうに自己紹介したかと思うと、目を見開いて僕を指さして叫んだのだ。
「まあまあ落ち着いて、クミン。あなたが言っていたでしょう?」
「なななななんのことですかっ?」
『な』の多い女性である。
「本当にわからないの? じゃあ言うけど、スイン君のこと……」
「いやーーーーーあああああああああああ」
うるさい女性である。僕のことを何と言っていたのだろうか。悪口だと落ち込むけどねえ。
「僕がどうしたの?」
「なななななんでもないです」
「ほんとにそうなの?」
「サチカさんっ。早く本題に入りましょう」
「それもそうだ」
うんうん。僕に教えてくれるつもりがないのなら早く本題に入ってほしい。
「クミンにはスイン君に付いて行ってほしい」
「え、ええええー?」
本当に騒がしい。なんでこんなにテンション上がっているのだろうね。
「どどどどどうして私が? スインさんには強い奴隷さんがいるじゃないですか。私なんていらない子になってしまいますよ」
このクミンさん、なんで僕のことそんなに知っているのだろうか。
「あなたの本領は単純な強さじゃありませんよ。スイン君もよく聞いておいてくれ。彼女はバンパイアだ」
マジで。ぜんぜんそうは見えないんですけど。特に太陽の光が入るこの場ところで姦しくしているところが。
「あ、すすすスインさん。私のことバンパイアだと思っていないでしょ」
「え、あ、まあ……ごめん」
「ふーんだ。許してあげないんだからね」
初対面なのに第一印象が最悪に。そんなに顔に出ていたのか。気を付けないと。
「でだ、バンパイアの能力を最大限使って、スイン君のお手伝いをしてほしいのだ。具体的には夜中の見張りや潜入、本部への連絡などな」
「それなら……」
うん、それは有用だ。バンパイアは昼に寝て夜に行動するとも聞くし夜中の見張りは任せられるだろう。
「ということでついていけ。命令な」
「は、はい。拝領いたします」
旅の友が変わった。
「し、失礼して、ねねね眠いですし、影の中に入らしてもらいますね」
僕の影に入ろうとする。この時間に起きているのがバンパイアとしては異常なのだろう。了解の意を伝える前に、
「だめです。スイン様の影はだめです。入るならわたしの中にしてください」
スローウナが拒否した。
どうしてだろう。
「どうしてですか?」
「まだ会って間もないわたし達は信用できません」
「むむむ……」
いや、僕とスローウナのどっちに入ってもいいじゃん。寝首を掻かれるとしてもどうせどちらもやられるよ。僕たちが大きく離れることなんてそんなにないんだし。
言い合いがなかなか終わらないところを見たサチカさんはため息をつき、
「今はスローウナさんのほうに入っておけ、信用されるようになったらそのうち変わってもらえるだろう」
上司(?)に言われればそれまでで、仕方なしに影に入っていった。
それからほかに必要なものはないかと言われたのでいくつか挙げると、その通り用意すると言ってくれたので甘えることにする。
少し早いが明日には立とうと思う。
魔王様にまだ会っていないけど。
魔王様はまだまだ学校長として忙しいそうなので、ご対面は残念ではあるが見送った。