★特別な依頼3
アーラルのいる場所を襲撃して救出する事になった。
朝、情報屋のお婆さんのところに行き、報酬を払って頼んだものを受け取った。お金はサチカさんが払ってくれた。お礼なんだそうだ。ありがたく受け取っておく。
すぐに救出するつもりだったのだが、生憎と帝都の都合があるのだった。
お祭りだって。
帝都の属国になっている魔族・亜属の国から帰還する遠征軍の凱旋祭らしい。
つまり、夜に貴族は城の中でパーティーがある。屋敷から出て行く。チャンスというやつだ。
サチカさんも救出作戦なのだから一緒に行うことになった。
お互いがお互いに陽動作戦なのだ。成功後、門の外で合流。今後のことはまた考えるとして成功の度合いによって対処の仕方が違うからね。例えば、誰にもに見つからずに成功と見つかって成功では僕の犯罪歴が更新されてしまう。
それは今後の居場所がね、変わってしまうじゃないですか。
ということで作戦を決めて、準備をしての夜である。
向かうは主のいないはずの貴族屋敷。この貴族。評判が悪いなんとか子爵であり、おもいっきりやってもよさそうである。
この子爵、権力に任せて傍若無人に振舞っているのだ。今回のことからでわかる通り潰しちゃってよさそうである。
うん。
やっちゃうつもりだ。
「敵に出会ってしまったらどうするのですか?」
「うん? 無理に殺すことはないけれど眠ってもらえたいね」
「出来る限りやらせて頂きます」
「僕もいるから信用してよね」
「はい」
今から貴族屋敷に侵入するところである。門前に来ている。
そろそろサチカさんがお城の方で奪還作戦を敢行しているのではないだろうか。
こっちもやるかな。
「おじゃましまーす」
さあ、侵入開始。
わざわざ真正面から潜りこむことはないのだ。地下から侵入。地精霊のアーちゃんに頼むと簡単に侵入できてしまう。
チート技のような感じ。
地下室に到着。奴隷を置いておくなんてね、地下に決まってるじゃないですか。どの作品を見てもそれは当然なのですよ。
今回もそう。捕まっている人がいっぱい。亜人種、魔族の女子供がたくさん。
「助けに来ましたよー」
「ほんとか?」
うん、疑うのも当然ですよね。
それ程に虐げられてきたのだから。
「アーラルさんはいますかー?」
「わ、私です」
呼びかけると返事をしてくれて前に出てきた。
「ソーシラちゃんに頼まれましたので、助けに来ましたよ」
「あ、あの子がっ。あ、ありがとうございます」
「わ、わたし達も助けてくれるの?」
アーラルさんが泣き崩れてしまった。他の奴隷・非奴隷の人も喜んでくれている。
「もちろん皆さん助けるつもりですよ」
歓声が上がってしまった。気持ちはわかるんだけどね。監視の人が来てしまうじゃないですか。
「なにしているっ」
ほら来ちゃったじゃないですか。私兵かな。それなりに練度は高いのかな。既に抜剣しており、仲間を呼んでいる。
「僕の来た穴から逃げてください。出た所で待っていただけると。僕は倒してから合流しますから」
「わ、わかった。悪いのだが、奴隷の鍵を撮ってきてくれないだろうか」
「なにそれ、スローウナ?」
「あとで説明しますっ」
戦闘中には話せないことなのだろう。精霊使いで後衛の僕はともかく、前衛で敵と切り結んでいるスローウナの邪魔をしてはマズイ。
「スイン様はみなさんが逃げた後、穴を塞いでください」
「うん……早く行って」
逃がしてそれを埋めてしまう。あとでまた掘ればいいだけだからね。
そしてそれをスローウナに報告。最後の一人を切り倒した後だった。床が血で赤黒く染まっている。
もうそれで僕は吐くことはなかったけれど、気分が多少は悪くなった。少しずつだけれど、この世界に慣れてきたということなのだろうか。
まあ、毎日兎でも狩っていたら慣れるというものである。
「終わりました」
「そうだね、ところで奴隷の鍵ってなに?」
ここで聞かなければもう聞く機会がなくなるだろう。
「奴隷の鍵というのはそのままの意味です。奴隷を開放するための鍵です」
「うん……うん? スローウナに鍵穴が付いているものないよね。魔法で契約したと思うし。っていうか僕鍵もらっていないんだけど?」
「それはスイン様には後ろ盾がないからです。冒険者には後ろ盾のある方が少ないのですが。後ろ盾を持つためにはランクA以上か、貴族や王家と個人的にコネを作ることぐらいでしょうか。それを持たない人物には奴隷の鍵を渡さないのです。必要になるまでは奴隷商人が預かってもらっていますので、もし主が死んでしまったのなら所有権は奴隷商人に戻るのです。それに奴隷の鍵は魔法具なので実用品ではないですよ」
奴隷は主に逆らうことはできないけれど、不意な事故も起こりうるだろう。その時の奴隷の未来を保証するということなのだろう。
奴隷には奴隷印がついているので、普通の職につくことはできなくなる。
「わ、私はスイン様よりを先に死ぬことはありませんので……?」
「うん、わかってるよ。でも、そんな悲しいことを言わないでほしい。ずっと一緒にいようよ」
「はい。よろしくお願いします」
うん、僕らの絆再確認。奴隷から始まった絆だけど、今では違う……と思いたい。
「と、ところでその鍵を探さないといけないのかな?」
「そうですね。このままでは逃亡奴隷のままで不便です」
不便って言い表せないぐらいな大変だと思う。命令違反ができないので主の元へと戻ってしまうのではないだろうか。
「さがすか」
「はい」
見つかるものなの。そんなに大きくないだろうし、人に尋ねるしかないかも、と二人の意見が合致した。
屋敷を歩き回っているといいところにメイドさんが。
「すみません。奴隷の鍵の在り処知りましせんか?」
「あ、それは旦那様の部屋に……ってああああああああああ」
「はいありがとう。おやすみなさい」
スローウナの峰打ち……両刃の片手剣なので慎重に昏倒させていく。罪のない一般人に危害を加えるのは心が痛むが勘弁して貰いたい。
というか、このメイド、ドジっ子だった。ドジっ子メイドを雇っているなんて羨ましい。
現実に自分が雇うとするかとはまた別の話です。
普通にイライラしそうじゃないですか。いきなりお茶をぶっかけれられるんだよ。大事な書類を汚したり失くしたり。可愛いのはいいですよ。でも、たまに見るのが一番のような気がするのは僕だけだろうか。
閑話休題。
出会う人もいないまま到着。騒ぎを聞いて召し使いの人たちは逃げてしまったのだろう。面倒事が少ないのはいいことだよね。
露骨に怪しい書類が乱雑に置かれている机のある部屋だ。趣味の悪い調度品もあったりして嫌だね。裸婦画だったりして見られているようなんだもん。ここの主は変態……だったのだろうね。いい表現が見つからないよねうん。
ちょっと漁ってみたけれど、見つかるわけがない。僕もスローウナも探知系の技能を習得しているわけでもないし、時間も足りないしね。すぐに逃げなければならないのだ。
「スイン様。精霊魔法で粉々にしてみてはどうでしょう?」
「あ、壊しちゃっていいんだ?」
「はい。問題ありません」
「じゃあやってみようかな。スローウナ部屋の外に出て」
僕も部屋の外に出て、風の精霊に頼む。エーちゃんに【カマイタチ】を乱射してもらおう。
風の刃ですべての物体を切り裂いてしまうイメージを魔力の供給と共に送る。NARUTOの螺旋丸的な感じで。
これなら部屋にあるもの全て砕き切り裂く事ができると思う。そんなに強度のあるものもないだろうしね。
「よっと……こんなもんかな」
一掃した。
ないね。塵しかないよ。鍵も塵になっちゃったかな。
「スイン様。こんなところにこんなものが」
「あー……隠し金庫ね。作ってあるのが定番ものだよね」
こっちを見つめていた裸婦画の背後に金庫が設置されていた。そこは探していなかった。
「……すみません、開けることができません」
できたら金庫の意味がなくなるのでしかたがないと思う。
防御力もかなりあったようで、書類やら机やら絵画やらは粉々になったのだが、金庫の方は残っていたのだった。これも当然だよな。すぐ破られたら不良品だよ。
「うーん……思いっきり精霊魔法使うから下がって」
「はい」
さっきと違い、数より質だ。一撃に魔力を込め、強く鋭い薄い刃のように。匠の作った刀のような。
名付けるとすると。
「【エアブレイド】」
なんてありきたり、中二病にもいたらないレベルのネーミングセンスだった。精霊魔法には定番的魔法はないのだ。なに叫んでもいいに決まってるじゃん。
そんなことは役割を全うできたらいいんですよ。
ちゃんと開きました。
中には金銀財宝と重要らしき書類、それから鈍色に輝く鍵だった。
「これが奴隷の鍵?」
「そうです。ここに名前があります。早く折ってしまいましょう」
ポキっとな。
何ら変わることないけど大丈夫かな。
「これで奴隷印は消えていると思います。さあ、戻りましょう」
「うん」
来た道を戻るだけなのだが、こんな大きな屋敷では迷ってしまうね。しかたがないことだと思いたい。それより大きい城の中なら確実に迷うだろうね。
だってね、僕、日本でも外の世界を歩いたことなんてほとんどないんだよ。道を覚えることに慣れていないんだから。
でも階段を見つけて下っていけばいいだけなんだけどね。
地下から脱出すればいいのだ。正門から出ると絶対に捕まるじゃん。だから掘って逃げる。この土地を回ったら進入時の埋めていない穴が見つかることだろう。
そういえばサチカさんたちは上手く行っているのかな。
こっちに衛兵や警備隊が来る気配もないから、お城の方でドンパチやっちゃっているのかもしれない。
ドンパチって鉄砲のことだよね……こういう場合、なんていうのかキンカンとかかな。剣で斬り合っている音をイメージしたけど、イマイチな表現だ。
サチカさん、無事に逃げられるといいな……。
僕らは貴族の屋敷から脱出した。