★特別な依頼2
僕らの泊まっている宿屋でソーシラを泊めた。部屋の交換で少しお金を払ったけど、別に高かったわけでもない。女将さんに不審がられただけで。
適当に説明しておいた。
そして今日。朝ごはんを食べて、情報屋の紹介状をもらいにギルドに寄ったのだけど。
なんか町が活気づいていた。お祭りの前日みたいな。広場に屋台の骨組みらしきものがあったりした。
そんな深く考えることでもないしあとで聞けばいいかな。
「なあ、わたしに情報屋を紹介してくれないか?」
「ダメです。ギルドに登録していない人にはお教えできません」
「登録するから、頼むよ」
「できません。規則でランクC以上でなければお教えできません。規則なので」
「そこをなんとか」
ギルドカウンターを騒がしている人がいた。ハルシュと交渉(?)している。
長い黒髪の女の人だ。その後ろには獣人が控えている。二人とも強そうな雰囲気だ。
あの装備は上位系の剣だったような気がする。ニホンでやっていたゲームとはちょっと違うからなんとも言えないのだけど。
ところでハルシュはいつ寝ているのだろうか。休んでいるところを見たことない。いや、休んでいたら見ることがないんだろうけどさ。ずっとギルドのカウンターにいるのだ。
「紹介状も持っている。教えて欲しいのは『聖獣』のことなのだが……」
「わ、わかりました……ギルドマスターに一度聞いてみます」
『聖獣』のところで声が小さくなったが、エーちゃんのおかげで聞き取れた。なにげに風の精霊は使い勝手がいい。
ハルシュは奥の部屋に引っ込んでしまい、黒髪の女性は机で待つことになった。
ギルドには居酒屋も兼業しておりテーブルやイスもあるのだ。待ち合わせする人も純粋に食事を取る人もいる。ずっといる人もいるけれどね。
「おい姉ちゃん。ちょっくら調子乗ってるんじゃねえか。こんな綺麗だからってなんでも許されるわけじゃないぜ」
「もしかして喧嘩を売っているのか?」
「はっきり言わないとわからねえようだな」
「ふむ……」
両方共得物に手をかける。黒髪の女性は剣に、男は斧みたいだ。
黒髪の彼女は喧嘩を売られていた。ずっとギルドに居着いている男だ。なんか二の腕が僕の二倍ほど太いんだけど。
……ファンタジー小説の王道ストーリーでは見た目に反しての思いっきり噛ませ犬ではあるが、これは現実。絶対に噛ませ犬とは限らない、と思う。あと、黒髪の女性が強いわからない。
なので僕は仲裁に入る。
「ここで物騒なことはやめましょうよ」
「お、姉ちゃんの代わりにお前が相手になるか? お前は『お手伝いの精霊使い』だろ」
そんな名前だっけ?
違ってような気がするけれど、僕の覚え間違いだろうか……。
「そうですけど……?」
「精霊使いですか……珍しいな。すごい」
「そ、そうですか……えへへ」
「お前が冒険者の評判を貶めているんだよ。男ならガッツンとドラゴンなんぞを倒してみろ」
「ドラゴンですか……」
「そんなこともできないのか。冒険者やめてしまえ。馬鹿野郎。表出ろ」
この人話がつながらない。支離滅裂だ。
しかし、なんかキレている。僕悪いことしたかな。
はいはい。いきますよ。
「行かなくて結構ですよ。スインさん」
「は?」
ハルシュが戻ってきたようだ。
しかし、どういうことだ?
「なぜだ。ギルドは私闘にはかかわらないんだろ?」
「いえ、この場合はかかわります。私どもの仕事が滞りますから。早くどこか行ってください」
「はあ? 何故俺が。こいつらにはなんにも言わないんだよ」
いや、オジサンあなたが突っかかってきたんだよ。
「それはあなたに関係のない話だからです。加えて言うと、あなたよりスイン様のほうがギルドに貢献されているのですよ」
「なにっ?」
「ここでだべっているだけのあなたと比べて、スイン様は溜まっている依頼をこなしていただいているのです。『お手伝い依頼』と言われる依頼の期日が迫っているものの多くはギルド職員がこなしているのです。まあ、子守などはその限りではありませんが。と言ったところでわかりますね? どちらがギルドにとって保護するかは」
「く、くそっ」
おお、なんかハルシュさん強いー。悪態をつきながら、オジサンはどっかに行ってしまったのだ。
それはそうと、ギルドが僕をそんなに高く買ってくれているんだ。
ちょっとぐらい調子乗ってもいいんじゃね、っていうぐらいのことだと思うのは僕だけかな?
「スイン様よろしいですか?」
「え、あ、はい」
「ギルドマスターと相談いたしまして、紹介状も有りましたが、ギルドにも登録していない人物には教えることはできません」
「そうか……無理を言ってすまんな」
「待ってください。話はまだあります」
女性がギルドから去って行こうとするのを止める。
黒髪の女性はせっかちなんだなあ。落ち込んだのはわかるけどね。
「ぬ、なんだ?」
「ギルドとして教えることはできませんが、それ以外ならアリです」
「む?」
どういうことだろうね。僕にもよくわからないよ。
ハルシュが俺たちに向かって目をパチパチ。
えっと……?
どうしたんだろ。両目で瞬きしているんだけど、回数が多い。ホントに相手の顔が見えているのかな。
「スイン様」
「ん、なに?」
「あの……わたしたちに教えてもらいたいのではないでしょうか」
「あ、ああ。そういうことね」
そうなんだ。それならギルドとしても面目が立つということなんだろうね。
ちょうどいいところに僕らがいたのね。
ということは僕が連れて行けと。
僕は彼女らが押し問答をしているところに割り込んでいく。
「紹介状はできているかな?」
「む?」
「はい、情報屋のです。地図も一緒に渡しますので、迷うならばもう一度来てください」
「わかった」
「むむむ。情報屋か。こいつらには教えていいのか?」
「ええ、特例ですね。まだランクが届いていませんが、彼らの功績を鑑みると許可が降りました」
「それでも、わたしはだめなのか」
「ええ。ギルドはダメですが、これは個人からのヒントですよ。『なぜこの場で渡したのか』」
「っ」
ようやくわかったらしい。
「僕は行きますね。行こうスローウナ」
「はい」
僕たちはギルドを出た所で少し待つ。
「チョット待ってくれ」
ホラ来た。
「わたしの聞いてはくれまいか。情報屋に連れて行って欲しいのだ」
「ええ、いいですよ」
「も、もちろん報酬は払う」
「だからいいって言っているのに」
「そこをなんとかっ」
「人の話を聞いてください」
「……む。いいのか? ほんとに連れて行ってくれるのか?」
「いいって言っているでしょう。でも少しぐらい事情を聞いておきたいかな。そんなに大切なことなんですか?」
「うむ」
いろいろ聞いた。
彼女はサチカというらしい。お供の人狼さんはコタス。
ある使命のために帝都に来ているんだって。『神獣』についてらしい。
神獣というのは亜人種や魔族の信仰する神なんだって。いわゆるキリストとかマリアとかムハンマドとかそういうことだろうね。信仰の対象になっているようなのだ。
どんなやつかは知らないけれど、触手がムズムズしているような感じなら嫌だ。そんなことはなくさぞや神々しいのだろう。
「ということなのだ」
「へー」
あんまり詳しいことを聞いていないような気がするけれど、適当に頷いておく。
あとでスローウナにでも神獣のことを聞いておこう。
「だから情報屋に連れて行ってくれまいか?」
「いいですよ。サチカさんは所属とかあるんですか? コタスさんが軍人っぽいので」
ずっと直立不動なのだ。いや歩いて入るけれど。真面目堅物無口な人のようである。戦闘能力はどうなのか。そういう人はどうしても強そうには見えるよね。
「それは今は話せないかな。別れるときには話せると思う」
「そこまで聞きたいことでもないですからいいですよ」
僕らはこんな話や自己紹介をしながら情報屋の隠れる住処まで歩いて行った。
地図通りに歩いて到着したのはスラム街の寂れた小屋。しかも返事がなかったので不法侵入……もとい無断侵入した。隠し怪談があるそうで、探すこと数刻。そんなに時間はかからなかったが。タンスの下に秘密の入り口があるってどうなのよ。
見つからないのが大切なのかもしれないが……。
やっときました。情報屋。
座っていたのはお婆さん。かなり歳をとった女性だった。年季の入っていそうだ。
「なんじゃい。今回は若い奴らだの」
「は、はあ……」
「まあそこに座れ。聞きたいことがあるんじゃろ」
「あ、はい。えっと僕は……貴族に連れて行かれたアーラルっていう女性を探しています」
「ふむ。他に情報はないかの?」
「一昨日から昨日の間に連れて行かれたそうです」
「それだけかの。料金は高くなるぞ?」
「仕方ありません」
だってどうしようもないもの。貴族とコネもつながりもないのだから。どうしろというのだ。
「そうかい。そっちは?」
「えっと。聖獣の居場所と警備体制を」
「ふむ。高くなるな……」
「国家の極秘情報ですから」
「ふむ。いつまでにするかの。期限は?」
「「できるだけ早く」」
「そうかい。じゃ、明日朝一に来なさい。それまでに必要な物を集めといてやる。今日は帰った帰った」
「「ありがとうございます」」
「頼みます」
「お願いします」
「今日は帰りんさい」
ということで今日のところは帰った。ちょっと焦りそうだが、時間がかかるのはしかたがないと割り切るしかないのかもしれない。
居場所が割れたら速攻で叩き潰すと思うけどね。日本的倫理観に反した人にはお説教が必要だろう。異世界とか関係ないもんね。
思いっきり反省してもらうしかないね。うん。そう。そうしよう。
そして朝、情報屋のお婆さんのところにより、夕方から僕らは貴族の屋敷を襲撃した。
サチカ師匠とスイン君が出会いました。
この事件が終わっても、おそらくちょくちょく関わりますね。