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第6夜

「美月! おはよー!」


 次の日の朝、陽ちゃんは約束通り7時半きっちりに私のことを迎えにきた。昨日私と同じで夜遅かったはずなのに、何でそんなに余裕があるんだ? そんな私も今日はきっちりお母さんに早めに起こしてもらったから余裕。……起こすときにまた軽く茶化されたのは秘密だ。


「おはよ、陽ちゃん。昨日遅かったのに早いね」

「うーん、俺、朝早いのには慣れてるから。もともと中学ではバスケやってて、朝練とかあったし」

「え、陽ちゃんってバスケやってたの?」

「……何だよ、そのめっちゃ驚いた顔は。ちっちゃい奴がバスケやってちゃ悪いかよ」

「いや、そういう意味じゃなくて。……そう、初耳だったから! 陽ちゃんのことまだ何にも知らないな、って思って」


 また陽ちゃんのどうせ俺なんて、が始まる前に私はフォローを入れた。フォローになってるか? これ。でも効果はあったらしく、陽ちゃんがそれもそうだな、といって機嫌が直った。


「そういやまだ会って3日目だしな。お互いのこと知らなくて当たり前か。俺、知ってると思うけど北中出身で、引退するまでバスケやってたんだ。美月は?」

「私は美術部だった。とはいってもいつも月の絵ばっかり書いてたから変な人扱いされてたけどね」

「らしいや」


 ちょっとひどいことを言って陽ちゃんはハハハ、と笑った。私も悪い気はしなかったので、一緒に笑う。こんな朝も悪くないかもしれない。


 陽ちゃんと笑いながら歩いていると、あっという間に駅に着く。駅のホームに入ると電車はすぐに来た。


「すごっ。タイミングぴったり」

「ぴったりって……。電車の時間に合わせてきたに決まってんだろ」

「え、そうなの? 私何も考えずに家出てたから20分待つとか普通だったなぁ」

「お前なぁ……」


 陽ちゃんが何か言いたそうな顔をしていたが、諦めたのかため息をひとつついただけで何も言わなかった。変なの。


「ほら、陽ちゃん。早く乗らないと電車行っちゃうよ」


 私は動かない陽ちゃんを押して電車に乗り込んだ。いつもよりもずっと早い電車は結構空いていて、2人並んで座ることができた。


「すごーい。ちょっと頑張って早く来るだけでこんなに違うんだ」

「すごいって、お前いつも何時に来てるんだよ」

「うんと、8時くらい?」

「うわ、ギリギリ。もっと早く来いよ」

「だって、起きられないんだもん。月とか見てると夜遅くなっちゃうから」

「それもそうか」


 お。陽ちゃんは早く寝ろとは言わない人らしい。

 私が早く起きられない理由を人に話すと、だいたいの人は月なんか見てないで早く寝ろという。陽ちゃんのように何も言わないのは少数派だ。


「お前、月見るのホントに好きだもんな」


 ドキッ。心臓が跳ねた。何も言わなかった人はだいたい呆れて何も言えなかった人だ。私の好きなことを理解したうえでこう言ってくれる人は初めてだった。


「どうした? 顔ちょっと赤いぞ」

「何でもないっ」


 ふいっと陽ちゃんから顔を背ける。


「何だよ、急に。変な奴」


 そう言って、顔を見ていなくても陽ちゃんが小さく笑うのが分かった。私の心臓はまだドキドキしていた。


「ほら、もう降りるぞ。それとも乗り過ごしたいのか」

「降りるもん!」


 陽ちゃんがからかってきているのは分かっているけど、ついついかみついてしまう。反射でかみついてしまうのは、陽ちゃんがこのぐらいでは嫌わないと信じられるからか。

 って、私朝から何考えてんだ!? これじゃまるで……


「おはよ~! 美月ちゃんどしたの? 顔真っ赤。恋する乙女みた……」

「それ以上言わないで!!」


 気がつくと駅を出たところでタイミング良く鉢合わせたゆかりちゃんが私の顔を見てニヤニヤ笑っている。さっきまで同じことを考えていただけに、恥ずかしさ倍増だ。


「もう、美月ちゃんったら朝からカワイイ♪」

「~~~~ッ」


 今日は朝からからかわれまくりだ。私の心臓もドキドキしっぱなしだし、何だかもう疲れた。


「おはよー! 美月ちゃんに陽平」

「おはよ」


 ゆかりちゃんの後ろから大ちゃんと凜君もやってきた。3人は家も近いらしい。


「いいな~、陽平。朝から美月ちゃんと一緒かよ。俺なんか……」

「俺なんか、何? 大ちゃんはあたしじゃ不満?」

「何でもないです!!」


 朝からコント状態の2人の会話に、私と陽ちゃんは顔を見合わせて笑う。


「ほら、せっかく美月と陽平に合流したんだから早く学校行こう」


 やれやれ、といった感じで凜君が間にはいる。大ちゃんはほっとしたように、ゆかりちゃんはちょっと残念そうにいがみ合いをやめる。


「中学の時もこんな感じだったの?」


 陽ちゃんにこそっと尋ねる。そしたら陽ちゃんもこそっと返してきた。


「そ。朝こんな感じで言い合って、途中でしびれ切らした凜が仲裁するまで続けんの。俺は面白かったからそのまんまにしてたしな」


 中学生のころの登下校の様子が容易に想像できて、思わずくすりと笑いをこぼす。


「ねぇ、美月ちゃん」

「ん、何?」


 大ちゃんと言い合ってたゆかりちゃんが私に近寄ってきて、耳元に口を寄せながら言った。


「美月ちゃんは、陽ちゃんのこと、好き?」

「!? そんなことないよ!」


 急に大声を出した私に不審げな目を向ける男子3人。慌てて声のトーンを落とす。


「なんで、どうして、急に何?」

「だって、美月ちゃんやけに赤い顔してたから。ふふ、楽しみだわ♪」


 何が楽しみなのか分からないけど、また真っ赤になってしまった私を不思議そうに見る男子3人の視線から逃げながら学校へと早足で向かった。

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