第5夜
甘い、甘いです。ここ大事です。2回言いました。
今回はホントに甘いです。書いてる作者本人が悶えるほどです。
なら書くな? そんなの聞こえません。
「あれ、美月んちってここなの?」
「うん。そうだけど」
陽ちゃんがやけに驚いた顔をして言った。次に、3軒先の角にある家を指差すと、
「俺んち、あそこ」
「ウソ!?」
めちゃくちゃご近所でした☆
「そっか~、こんなに近いのかぁ。じゃ、俺、明日から毎朝美月のこと迎えに行くよ」
「え、そんなのいいよ。私朝遅いよ?」
「俺が早く行って起こしてやる。んじゃ、明日7時半にな」
「え、ちょっと待って、私無理だってば!」
私の叫びには軽く手を振っただけで答えて、陽ちゃんは自分の家に入って行った。
ちなみに私が朝遅いのは本当で、今日も遅刻ギリギリの電車に乗っていた。その電車すら捕まるか怪しかったんだけどね。
「そんな、朝7時半、って私何時に起きればいいのよ……」
そんな私が普段起きているのは7時。確実に間に合わない。女の子は支度に時間がかかるものです。なら早く起きろって? 無理だから困ってる。
「お母さんに頼んでみよう……」
お母さんに事情を話すのはちょっと気が引けるけど、この際慣れるまではお母さんに頼むしか他にあるまい。お母さんはたぶん理由聞いたら大はしゃぎして茶化すんだろうな……。
今から考えるだけで気が滅入る。
あ、でも起きれたとしても、朝陽ちゃんが来た時点で早起きする理由がバレるのか。どっちにしろ母、大はしゃぎ決定。
「もういいや。諦めよう」
いくら4月とはいえ、日が落ちるとだいぶ冷えてくる。風邪をひく前に家の中に入ることにした。
「ハァァ。やっぱり茶化された……」
その日の夜、私はまた町はずれのビルの屋上に来ていた。
膝を抱えて三角座り。拗ねるポーズの完成。
案の定、母親に明日早く起こしてほしいこととその理由を伝えると、
「きゃー、何、美月にもとうとう春到来!? お母さん嬉しいわぁ!」
と、このテンションである。若々しいのはいいんだけど、もう少し大人になってほしい。
ハァァ、ともう何度目になるのか分からないため息をついていると、背後のドアからギイっとドアが開く音がした。
「やっぱりここにいたか。女の子が夜に一人で歩くのは危ない、って言っただろう」
昨日と同じくそこには陽ちゃんがいた。
「って、どうしたんだよ。拗ねてんのか?」
私のポーズを見て陽ちゃんが聞いてきた。原因は貴方だよ!! とか言えるわけもなく、私はまた一つため息をついた。
「何だよ、俺なんかしたか?」
「したといえばした。してないといえばしてない」
「何だよ、それ」
陽ちゃんが苦笑しながら私に近づくと、隣に腰を下ろした。と同時に、自分が着ていた上着を私に差し出した。
「着てろよ。寒いだろ。女の子が体冷やしちゃいけないもんな」
「いいよ。それじゃあ陽ちゃんが風邪ひいちゃう」
「だったら今度からはちゃんと着てくること。今はとりあえず着とけ」
と半ば強引に私に上着をかけた。まだ陽ちゃんの体温が残ってて温かかった。
「……ありがと」
「おう。俺は丈夫だからそうそう風邪なんか引かねえよ」
「そんなにちっちゃいのに?」
私が悪戯っぽく聞くと、陽ちゃんはにやりと笑って私にかけた上着に手を伸ばした。
「そんなこと言うなら俺も一緒に入るぞ」
「え、ちょっと待って。近い、近いって!」
私が一人あわあわしているのを見て気がすんだのか、陽ちゃんは上着から手をパッと離して笑った。
陽ちゃんの笑いが収まると、私たちはそのまま二人で並んで月を見上げた。やっぱり昨日が満月だったらしく、今日の月は少しだけ欠けている。
そんな月をしばらく眺めていると、陽ちゃんが唐突に話しかけてきた。
「そういえばさ、美月って毎日ここから月眺めてるのか?」
「うん。もう6年になるかな。私、月を眺めるのが好きなの。観察ってほどじゃなくて、ただ単にぼーっと眺めるのが好き。もう日課みたいなもんだよ」
「そっか」
それからは特に会話らしい会話もなく、二人でただぼーっと月を眺めていた。
しばらくして、隣の陽ちゃんが小さく震えているのに気がついた。
「あ、ごめん、上着借りっぱなしだったから寒いよね。これ返すから早く帰ろう」
「いや、寒さは別に平気だけど、そろそろ美月の親御さんが心配するよな。うん、帰ろう」
私が差し出した上着を着たとき、陽ちゃんが小さく、温かい、と呟いて微笑んだのは見なかったことにした。
「どうした、美月? 顔真っ赤だぞ」
「別に!?」
ちょっと声が裏返ったのはご愛嬌だ。
陽ちゃんが変な奴、と小さく笑いながら私の手を握った。寒いから、と言い訳して陽ちゃんはそのまま歩き出す。
一歩ごとに私の心拍数も上がっていった。
体調不良と課題が重なって更新遅くなりました。
はい、もう元気です。大丈夫です。こんな甘いもの書いてても平気です。
なんかもう、いろいろフラグが立ってます。察しのいい方はもう気がついてるとは思いますが、美月はああでこうなります。
え、分からない? 作者はネタばれしない主義です。