第3夜
ストックここでつきましたorz
受験中だったから仕方ないよね……。
「じゃあ俺、1組だから」
そう言って1番最初に抜けたのは陽ちゃん。軽く手を振って教室に入って行く。
「じゃあ、あたしたちもこれで。またあとでね♪」
そう言ってゆかりちゃん、大知君、凜太郎君の3人が抜けていく。
私はちょっとウキウキしながら3組の教室に戻った。とたんに感じる鋭い視線。ウキウキしていた気持ちが一気に消し飛ぶ。
その視線をたどると、1人の女の子と目があった。知り合いではない、はずなんだけど……。
何か気に障ることでもしちゃったのかな。
とりあえず話しかけてみることにした。
「えと、遠藤遥さんだよね。私に何か用かな」
「別に。何もないわ」
自己紹介のときに聞いた名前を必死に思い出して話しかけてみたけど、返事はとても素気ないものだった。
これは本格的にやばいぞ。私、何しちゃったんだろう。
「私、如月美月っていうの。よろしくね」
「………………」
空気が怖い。ひとまず愛想笑いを浮かべながら退散した。
自分の席に着いたところで担任の遠峰先生が教室に入ってきた。
「昼の前に言うの忘れてたけど、これから校舎の見学すっから、全員迷子にならないようについてこいよ。迷子になったら……知らん。自分で何とかしろ」
……なんていい加減な。
ん、待てよ。遠峰先生って、ゆかりちゃんと苗字が一緒だし、目元もなんか似てるような……。
「ほら、ついてこいよ」
1人でさっさと教室を出ていく遠峰先生。よく教師になれたな。
苗字のことは後でゆかりちゃんに聞いてみることにして、ひとまず遠峰先生の後についていくことに集中した。
「あ、美月ちゃん」
1人で廊下をうろうろしていると、ちょうどゆかりちゃんたち、2組メンバーに会った。
「どうしたの? 迷子?」
「あ、う、はい……」
「この学校、無駄に造りが複雑だからね」
絶対に迷子になるまいと頑張ってみんなについていっていたのだが、気がつくと周りに誰もいない。
どうやら迷子になったらしい、というところでちょうどゆかりちゃんたちに会えた。
「んじゃ、あたしたちも行こうか。こっちだよ」
「ゆかりちゃん、分かるの?」
「うん。小学生のころからここに入り浸ってたから」
「え、何で?」
「こいつの兄貴、ここの先生なんだよ。大地先生って言って、すっげえカッコいいんだぜ!」
「確か、如月さんのクラスの担任じゃない?」
さっきまでずっと黙っていた凜太郎君が急に口を挟んできた。何だ、普段も喋るんだ。
「凜ちゃん、何で知ってるの? というか、大兄って美月ちゃんのクラスの担任だったんだ」
「じゃあ、やっぱり遠峰先生ってゆかりちゃんのお兄さんだったんだ」
「まあね。ごめんね、大兄って適当だから大変でしょ。現に美月ちゃん迷子になってるし」
私は曖昧に笑ってごまかすことにした。身内の人に悪口なんて言えるわけがない。
「お、何だ。お前らもう一緒にいたのか」
「おお、陽平じゃないか。お前も迷子?」
「んな訳ねーだろ。俺たちのクラスは自由行動なんだよ。ったく、入ったばっかりなのに自由行動って、迷子にさせる気満々だろ。まったく」
「んじゃ、全員揃ったところで行きましょっか」
というわけで、私たちは5人全員で校舎を見学することにした。
それにしてもこの学校の先生って、みんなの適当なの? いいのかな、これで。
「大兄、美月ちゃん連れてきたよ」
「あ、ゆかり。お前ら友達だったのか。ご苦労さん。それから学校では遠峰先生と呼ぶこと」
「生徒を迷子にさせる教師のくせに何言ってんの。……じゃあ美月ちゃん、またね!」
「うん、ありがとう」
ゆかりちゃんは、最後に遠峰先生に向って悪戯っ子のように笑いかけると、男の子3人を引き連れて立ち去って行った。
……ゆかりちゃんには絶対に敵わなそう。
「すまなかったな、如月。ゆかりは……、まぁ、いい奴だと思うからよろしくな」
「遠峰先生って、妹思いなんですね。私、一人っ子なので羨ましいです」
「そうか? そうでもないと思うけど……」
そう言うと、遠峰先生は恥ずかしそうに下を向いた。先生の新しい一面、発見か?
「おーい、全員いるか? だれか確認しろ~。んでもって、俺に報告しろ」
前言撤回。遠峰先生は遠峰先生でした。
こんな大男が恥ずかしがるなんて、ありえない。さっきのはたぶん、私の見間違いだ。
「よし、たぶん全員居るな。それとさっき思い出したんだが、来週の月曜、新入生歓迎テストだから」
「「えー!?」」
たちまち上がる不満の声。特に多いのが、
「そんな歓迎いらねー!!」
という男子の声。
「じゃあ、やめるか? あんなに苦労して入ったのにな。残念だけど、本人の意思なら仕方ないよな……」
「「やらせていただきます!!」」
初めてこのクラスがまとまった瞬間だった。やればできるじゃん、このクラス。
「範囲は入試のときと同じく中学までで習うところ全てだ。じゃ、帰る準備できた奴から帰っていいぞ」
なんて適当な! でも早く帰れるなら文句言いません。
私はそそくさと帰る準備をすると、教室を出た。
「おー、やっと終わったか。早く帰ろうぜ。てか、美月ってどこに住んでんの?」
「やっと終わったか、って何でもう終わってんるの? 私のクラスも早いほうだと思ったのに」
「まあ、あたしたちのクラスも、というよりもこの学校の先生たちって良くも悪くも適当な人たちばっかだからね。大兄見てれば分かるでしょ」
「まあ、ね」
「とりあえず帰ろうぜ。俺、腹減ったから何か食ってから帰りたい」
大知君がお腹を押さえながら言った。
「お前、財布忘れてただろ」
「凜におごってもらう」
「……3倍返し」
「凜……、ヒドイっ」
悪いのは大知君です。ホントに懲りないな、この人。
「ま、でもどっかに寄ってくのも悪くないかもね。どうせ行くなら僕、駅のそばがいい」
「そうね、駅のそばだったら何かと便利だし」
というわけで、私たちは学校を出て駅のほうへと向かった。
次回から、もしかしたら話の雰囲気とか少し変わるかもしれません。
ご了承ください。