第22夜
フラグ♪ フラグ♪
「お前ら、次の授業HRだから体操着に着替えてこい」
「え、何でですか? HRって教室でやるんじゃ……」
「俺が教室なんて狭いところでHRが出来るか」
教室は狭いんすか。そーですか。先生は一体どんな基準を持ってるんでしょうか。
「先生、体操服持ってない人はー?」
「んー、まあ、どうにかなんだろ。制服も可!」
んな適当な! とは心の中だけで突っ込んでおいた。全部に突っ込んでたらきりがないしね。私は体操服を持っていない組みなので、制服のまま体育館に向かう。
「っしゃ! バスケやるぞ!!」
「……はぁ?」
体育館に集めていきなり何を言い出すのかと思ったら、バスケだと? しかもなんかいきなり元気になってません?
「やったー! 先生ありがと!」
「バスケ経験者いるか? そいつら中心にチーム適当に分けろ。さっさとゲーム始めるぞ!」
「おー!」
……男子は元気だね。あ、女子も一部元気なのいるね。あれは運動部の子かな? 基本私は運動はしないので壁際で見学態勢にはいる。
「あれは、遠藤さん?」
意外なことに、遠藤さんが女子チームに交じってバスケをしている。しかもそれなりにうまい。あれは初心者じゃないぞ。結構おとなしい人だと思ってたのに意外ー。
「何?」
「あ、いや、別に……」
私がじっと眺めていたせいか、休憩に入った遠藤さんが私に不審げな目を向けてきた。ここで言い返せない私のヘタレ具合が恨めしい。
「如月さん、バスケやらないの?」
「私? 私はバスケできないし、体操服持ってないからいいよ。それにしても遠藤さんはバスケうまいんだね」
「私は別に。知り合いがバスケやってただけだから」
知り合いがやってたから、ってそんな理由でバスケが出来るようになった人なんて聞いたことないよ! 一体どんな運動神経してるんだ……。
運動が全くと言っていいほど出来ない私は密かに遠藤さんに尊敬の目を向ける。……あれ、遠藤さんが怪訝そうな顔してる。バレた?
「貴女ってホントわけわからない。……何でこんな奴がいいんだか」
「え?」
「何でもないわ。私、次だから」
「あ、うん」
何となくはぐらかされたような気がするけど、まあいっか。私はまた試合観戦に戻った。
それにしても上手いなー。すごいなー。どうしたらあんな動きできるんだろー。きっと私とは違うからだ持ってるんだろうなー。
なんて思いながらぼーっと見ていると、私はふと異変に気がついた。あいつ、危なくね?
私がじっと観察し始めたのは、一人の男子。名前は忘れた。その男子が順番待ちの時間が暇になったのか、空いてるゴールでシュート練を始めた。そこまでは別にいい。問題はその腕前だ。
さっきから外しまくってる。今のところ大きくは跳ね返ってないから平気だけど、そのうち試合中のコートにも出ちゃうんじゃ……ってやっぱり!
「危ない!!」
「え?」
私は叫ぶことしかできなかった。男の子の手から離れたボールは、ゴールに大きくはじかれ、そのまま試合中の遠藤さんに向かって一直線に飛んで行った。そしてそのまま……遠峰先生の手の中に収まった。って、え!?
「ったく。ちょっとは気をつけろよ。俺が見てたからよかったものの」
「すんません」
「遠藤、大丈夫か?」
「あ、はい。ありがとうございました……」
あれ? なんか、遠藤さんの頬、ちょっと赤くなってない? 今までにないほどの乙女オーラが出てるよ。もしかして……、
「遠藤さん、もしかして遠峰先生のこと、好きになった?」
「……!?」
ものすごい勢いで睨まれた。チームの入れ替えで戻ってきた遠藤さんに本気で、ガチで睨まれた。怖いです。めっさ怖いです!!
「ホントあんたってムカつく!!」
んなこと急に言われてもな。私はポカーンとして肩を怒らせて体育館から出ていく遠藤さんを見送った。
「如月、口」
「へ?」
どうやら口を開けた間抜け顔でぼーっとしていたらしい。周りを見ると何人かがクスクスと笑っている。指摘した本人も笑いをこらえているのが分かる。
「な、そんな笑わなくても!」
しかし私の抗議の声なんか通るわけもなく、逆に外から戻ってきた遠藤さんに不審な目で見られた後めっちゃ睨まれて、私のハートはボロボロになった。誰か慰めてくれてもいいんじゃない、これ……?
そんな私にはお構いなく、試合は再開された。ねえ、ちょっと。あまりにもひどすぎるんじゃない?
私は一人、体育館の端っこで拗ねていた。