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第18夜

「いらっしゃい。よく来てくれたわね……」

「ゆ、ゆかりちゃん?」


 玄関で私たちを迎え入れてくれたのは、かなりげっそりとしたゆかりちゃんだった。昨日の今日でいったい何があった!?


「とりあえずあたしちょっと寝てくる……。今日1時間しか寝てないの。とりあえずケーキとか料理とかの下準備は全部したから後任せる……」


 ゆかりちゃんはそう言い置いて、ふらふらと二階の自分の部屋へ向かった。大丈夫かな。


「やっぱり今年もこうなったか」

「今年も?」

「そ。ああ見えても料理が得意なゆかりは毎年誰かの誕生日のときには張り切っていろんな物作るからああなる。あんなんになっても料理の腕は確かだから楽しみにしてろ」


 そう言って陽ちゃんはずかずかとキッチンのほうへと向かう。ホントにこの家のこと良く知ってんだな。


 キッチンに入ると、そこには色とりどりの食べ物が所狭しと並んでいた。しかもそのどれもがつまみやすい大きさで統一されている。これじゃ確かにああなるわ。


「うん。今年もうまそう。去年よりも若干量が多いのは美月が増えたからか」

「う~、何か申し訳ないです」

「いいんだよ。ゆかりは好きでこういうことしているんだから。さ、他の奴らが来る前に盛り付けとかさっさとやっちまおうぜ」


 そう言うと、陽ちゃんは食器棚を勝手に開けて中から大きめのお皿や、小さい取り分け用のお皿を取りだした。……ホントに何でも知ってるな。


 私は陽ちゃんが出してくれたお皿に、なるべく見栄えがよくなるように食べ物を並べる。だってこんなにおいしそうなんだもん。きちんと考えて並べないと料理が可哀想だ!!


「お、美月上手いじゃん。これ俺が触らないほうがいいな」

「一応美術部だったから配色とかそんへんやってたし……、ってそんなにうまくないから!!」


 そんなこんなでぎゃいぎゃい言いあいながらも盛りつけたり飾りつけたりしていると、玄関のチャイムが鳴った。


「俺が出てくるよ」

「うん。ありがと」


 陽ちゃんが出てくれると言うので、私はまだ少し残っている盛り付けを済ませていると玄関のほうが急に騒がしくなった。


「陽平じゃん! 今年は早いのな」

「毎年来るのギリギリなのに。……ああ、なるほど」

「うわ、なるほどってなんだよ凜!」

「あれ、僕が言ってもいいの?」

「何なに? 凜、俺にも教えて」

「あのな、……」

「うわあああああああああああああ!!」


 今日も男の子たちは元気に仲いいな。うん、いいことだ。私はゆかりちゃんが引っ込んじゃったから女の子仲間がいなくてちょっと寂しいよ。


「あんたたち煩い!! あたしは今貴重な仮眠をとってんの。邪魔すんな!!」

「「「ごめんなさい!」」」


 と思ったらゆかりちゃんも起きてきたようだ。今回は珍しく凜君も必死に謝ってる声が聞こえたな。


 声が収まると同時にトントンと小気味よい足音が聞こえてきてゆかりちゃんが階下に下りてくるのが聞こえた。そしてすぐにリビングのドアが開いて、キッチンにゆかりちゃんが顔を出した。


「うわあ! すごい!! これ、美月ちゃんが全部やったの?」

「うん。なんかごめんね。こんな素敵な料理なのに」

「そんなこと無いよ! あたしがやるよりも全然いいわ」


 すると、リビングのほうがどたどたと騒がしくなり、男の子3人組がキッチンに顔を出した。


「すげえ! めっちゃうまそう!!」

「色合いもきれいだね」

「だろ! 美月って才能あるよな」

「あんたたち、一応言っておくけど、あたしも作ったんだけど?」


 顔を輝かせていた3人だけど、ゆかりちゃんの一言がキッチンに響き渡ったとたん、さっと青ざめた。互いに顔を見合わせて、目だけで相談しているみたい。器用だなぁ。


「ま、美月ちゃんの腕がすごいのは確かだけど。今回は美月ちゃんに免じて許してあげる」

「お前ら、さっきから何騒いでんだよ。……お、旨そう。今年もありがとな、ゆかり」


 やっぱり、遠峰先生はシスコンだと思う。

お兄ちゃんはみんなシスコンorブラコンであるべきだと思う。

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