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第15夜

「ただボールを蹴って相手のゴールにいれるだけ。ただそれだけなのに、とても面白いと思わない?」


 梓紗さんが私の隣に座りながら言ってきた。確かに細かいルールはあるかもしれないが、ルールを知らない私から見ればただボールを蹴っているだけにしか見えない。


「それなのに、いくら見てても飽きないですね」

「でしょ。私がマネージャーやってるのも、サッカーに魅せられたからなのよね」


 そう言って笑った梓紗さんの顔はとてもきれいで、ホントにサッカーが好きなんだな、って思った。


「でもねー、見ての通り、こいつら馬鹿ばっかりだから……」


 肩をすくめて笑って見せる梓紗さん。口ではそう言いながらもその口調には愛が溢れていて、ちょっと羨ましくなった。


「まあ、私も夏の大会終わったら引退なんだけどね。それまではたっぷりしごいてあげることにするわ」

「マネージャーって、どんなことするんですか?」

「お、興味出てきた? そうね、基本的には部員のケアよ。例えば、タオル渡したり、水用意したり」

「へえ、なんか大変そうですね」

「そうでもないわよ。大好きなサッカーを間近で見れるし、あいつらは仲間だから、あいつらが頑張ってるところを応援できるのはすごく嬉しいの」


 仲間、か。梓紗さんは3年生だから、3年間付き合ってきた仲間ということになる。短いようで長い3年間を共に頑張ってきた仲間だから、その嬉しさも増しているのだろうか。


「一緒にプレー出来なくてもね、なんとなく繋がってる気がするのよ。特にゴールを決めた後こっちを見てガッツポーズしたときとか」

「おーいマネージャー! 1年生が怪我したからちょっと見てやってくれない?」

「はい! 今行きます! ごめんね、美月ちゃん。良かったらもう少し見学していって」


 そう言い置いて、梓紗さんは慌ただしくグラウンドのほうへと駆けていった。……うわぁ、美人な人って、走ってもきれいなんだな。

 背筋がすらりと伸びて綺麗に回転する足。風に揺れる髪。私もあんな風に走れたらいいな。私、運動音痴だから走れないのよね……。


 結局その日は見学できる時間ギリギリまで見学して、体験入部していた大ちゃん、陽ちゃん、ゆかりちゃんと一緒に帰った。3人ともそれぞれ今日の体験に満足したらしく、運動をしたせいもあって上気した頬で一気に語りだした。もちろん聞くのは私しかいないから喧しいことこの上ない。


「あー、もう! 何言ってんのかさっぱり分かんない!! 順番に話して」

「だってよ。誰から話す?」

「じゃ、あたしから」


 当然のようにゆかりちゃんが言って、話し始める。男2人は不満げに、しかしどこかもう諦めたようにゆかりちゃんを見ている。


「今日ね、女子バスケ部に参加してたら、去年大会で見かけたすごいプレーをする先輩がいたの! あたし、その人がここの高校に入ってるて知らなくて……」

「あー、その話はもういいな。次俺ー」


 大ちゃんに口を挟まれても止まらないゆかりちゃんの口。もはやもう誰も聞いていないのに一人で喋っています。これはもうあれだ。口に出したいだけなんだ。理解。


「今日サッカー見てどうだった? 面白いだろ! な! な!!」

「あー。うん。面白かったよ」

「だろだろ!! 俺サッカー大好きでさ。小学生のときからやってんだけど、その時から一緒にやってる奴が……」

「大知。美月が困ってるから」


 私のほうに身を乗り出して話し始めた大ちゃんを陽ちゃんが回収してくれた。感謝。


「じゃ、次、俺の話してもいい?」

「うん。今日どうだった?」

「知ってると思うけど、バスケ部の顧問って大地先生なんだよ。で、今日も先生に教わってたら褒められた! さすが陽平だ、って」


 よっぽど遠峰先生に褒められたのが嬉しかったのだろう、陽ちゃんの顔がキラキラと輝いている。私はそれを微笑ましく眺めていた。


「バスケ部も楽しそうだったなぁ。私には絶対無理だけど」

「そんなことないよ。バスケって、練習すれば俺みたいなチビでも出来るんだから。それに、どうしてもダメならマネージャーっていう手もあるし」


 陽ちゃんはどうしても私にバスケ部に入ってほしいのか、強烈に押してくる。それに反応して、それまで好き勝手に話していたゆかりちゃんと大ちゃんも話に割り込んできた。


「そうよ。バスケ、楽しいわよ。美月ちゃんも一緒にやりましょうよ」

「えー、美月ちゃんはサッカー部だよ。今日楽しそうだったもん」

「バスケ」

「サッカー」

「ストップ!!」


 少々不穏な空気が流れだしたので、私の判断でタオルを投げさせていただきました。


「分かった。じゃあ私……」

「「「私?」」」

「帰宅部にする!!」

「「「えー!!」」」


 喧嘩になるなら最初からどこにも入らない。これが一番穏当に解決すると思うのよ。私が下手にどちらかに決めてしまうと、さらにバトルが勃発しかねない。


 3人も不満気ではあるが、最終的には美月がそう言うなら、とか何とか言って言葉をおさめた。凜君がガンバって、って言ってたのって、これだったのかな。

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