第12夜
試験:学生の敵。主に作者を始めとする勉強苦手組に多大なダメージを与える。
説教:お叱りの言葉。主に作者を始めとする勉強苦手組が両親からいただくもの。
「始め!」
先生の合図で一斉に紙をめくる音が響く。私もその中の1人で、少々緊張しながらも紙をめくる。
今日は月曜日で、今は1時間め。新入生歓迎テスト第1弾、英語だ。
大丈夫。土曜日にあんなに教えてもらったんだから。自分にそう言い聞かせて紙にペンを走らせる。あ、意外にいけるかも。
回答欄を全て埋めて、顔を上げる。時計を確認すると、まだ10分も余っていた。これはすごいぞ。私、中学の時も時間なんて余ったこと無かったのに。なんか感動。
残りの10分間、私は初めての見直しというものをやってみた。今まで友人たちから話には聞いていたが、実際自分でやってみるのは初めてだ。
「止め」
先生の合図に私はまた顔を上げた。手ごたえはあった。なかなかの出来だろう。余は満足じゃ。
なんて自分の中で一人芝居をしていると、不意に後ろから声をかけられた。
「よお、美月! テストどうだった?」
「あ、4人とももう終わったの? テストは結構いい感じかも」
「そりゃ良かった。大地先生に教えてもらって結果がどうなるか……」
そう言って陽ちゃんが恐ろしげに身体を震わせた。そ、そんなに恐ろしいのか? 陽ちゃんの後ろの3人に視線をやると、全員頷き返した。マジか。
「あははー、頑張ってよかった……」
「あたしたちも仲間を失うことにならなくて良かったわ」
そこまでなのか。ホントに良かった、頑張って。よくやった、自分。
「次は国語だろ? これ落としたら大変なことになるからな。あらかじめ言っておくけど」
「いやいやいや、もう遅いから。とりあえず善処します……」
「健闘を祈る」
言いたいことだけ言って、4人はそれぞれの教室に帰っていった。脅すだけ脅して帰るなよ~。
「席につけー。テスト始めるぞー」
2時間目の試験官が教室に入ってきて、騒がしかった教室が一瞬さらに騒がしくなり、静まり返った。緊張してるのって、私だけじゃないんだろうな。そんなことを考えていたら、ちょっとだけ気持ちが軽くなった。
「失礼します。何か質問ある人いるかー?」
テスト開始から十数分後、遠峰先生が教室に入ってきた。やっぱり国語担当教師。ちゃんと各教室を回っているようです。ゆっくりと教室内を回り、私の横を通り過ぎるとき、一瞬立ち止まった。
「頑張れよ」
一瞬先生が開いて見せた手にはそう書いてあった。唖然として先生の後ろ姿を見つめる。いいのか? 教師がこんなことして。贔屓とかで訴えられるんじゃ……。ま、私から言うことはないけどね。
「ホント自由だなー、この学校」
テスト中だというのに思わずポロリとこぼしてしまう。試験官の先生に怪訝そうな目で見られる。おっと、いけないけない。先生に何もありません、とでも言うように首を振ってみせてから、またテスト用紙に視線を戻す。
国語も何とか見直しが出来る時間を残して解き終わり、なかなかの出来だった。……と思う。
「みーつきー!」
「毎回毎回、来んな!!」
テスト用紙が回収し終わり、試験官が出ていくとほぼ同時に陽ちゃんが教室に飛び込んできた。
「美月ー、俺、俺……!」
「あー、はいはい。何かしくじったのね。後で大兄にたっぷりしぼられなさい」
「ゆかり! お前はそう言うけどな、大地先生って怒るとめちゃくちゃ怖いんだぞ!!」
陽ちゃんは理系なのかな? 何でもできるように見えたけど、苦手教科もちゃんとあったんだな。よかった……のか? とりあえず陽ちゃんのお説教は決定したようです。私ひとりじゃなくてよかったぁ。
「……美月、お前なんでそんなに嬉しそうなんだよ」
無意識に頬が緩んでいたらしく、陽ちゃんに軽く睨まれる。
「いや、怒られるの私だけじゃなくなったかも、って思ったらちょっと嬉しくて♪」
「そこ喜ぶとこじゃねえだろ! 言っとくがな、大地先生は国語に関しては特に厳しいんだからな!!」
「そうそう。陽ちゃんは典型的な理系だからよく大兄にしぼられてたわね」
「いいよな、ゆかりは。文系だし」
「一応僕も理系なんだけど?」
「お前は次元が違うだろうが!!」
凜君の言葉に即座に突っ込みを入れる陽ちゃん。こりゃ相当荒れてるな。そんな陽ちゃんの肩を叩いて大ちゃんが(余計な)ことを言った。
「大丈夫! 俺も一緒に怒られるから!」
「何が大丈夫なんだよ!!」
はい。これにはさすがの私と凜君も大爆笑。ゆかりちゃんのなんか笑いすぎておなか抱えて逆に苦しそう。ここまで笑う人、初めてみたかも。
「ほらー。後ろにたまってる4人! 自分のクラスに戻れー」
次の数学の試験官として教室に入ってきたのは噂の遠峰先生だった。いかにもだるそーにテスト用紙を抱えている。
「じゃあね、美月ちゃん。残り数学もがんばりましょ」
「うん。ありがと」
ゆかりちゃんが男子3人を引き連れて教室を出て行った。
テスト用紙が配られて、ふと教室の前、遠峰先生を見た。あれ、手の文字、消えてる。いったいいつの間に消したんだ。
「んじゃ、始めるぞー。お前ら準備いいな? 始め」
いかにも俺面倒臭い、やる気無い、とでもいいたそうな声でテスト開始の合図をし、教卓の前の椅子に座りこんで何やらペンを動かしている。
「ああ、もうマルつけてるんだ」
というか、そこで丸つけしてていいのか? 見えるんじゃないか? と思ったが、そうだ、この学校は適当だったということを思い出して、一人納得。
目の前の解答用紙を埋めることに集中した。
季節性ないな……。未だに美月たちは春です。初々しいです。羨ましいです。
そんな事を思う今日この頃です。