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第10夜

 インターホンを鳴らすと、ゆかりちゃんはすぐにドアを開けた。


「いらっしゃい! 美月ちゃんたちで最後よ。早く上がって上がって!」

「「お邪魔します」」


 私と陽ちゃんは礼儀正しく頭を下げてから玄関に上がる。ゆかりちゃんの後について2階に上がり、右側の1番手前の部屋に入る。

 中にはすでに凜君と大ちゃんがすでに勉強を始めていて、丸めたノートで大ちゃんが凜君に頭をはたかれているところだった。


「痛ッ! ったく、凜は勉強のことになると容赦ないよな……」

「それはお前が出来なさすぎるからだ。大知以外なら僕ももうちょっと紳士的に教える。そもそもお前はこれくらいしないと勉強しないだろう」

「うぅ……その通りです」


 へぇ、意外。凜君もこんな風にじゃれあうこともあるんだ。いつもクールな凜君が子供みたいに言い合ってるのはかなりレアかもしれない。


 じっと見つめる私の視線に気がついたのか、凜君が顔を上げた。目が合うと、凜君はすくっと立ち上がり、私のそばまで来た。


「今日の僕、なんか変?」

「あ、いや、ちょっと珍しいな、と思って。凜君はいつも仲裁とか抑え役だからじゃれあってるとこ見たこと無かったし」

「ふーん。ま、僕も今日はoffモードだからね。僕って結構子供っぽいよ。がっかりした?」

「全然。逆に新しい一面発見して嬉しいかも」


 私の言葉に凜君は苦笑してそのまま離れていった。


「じゃ、全員揃ったことだし、先生呼んでくるから。それまでちょっと待ってて」


 ゆかりちゃんの言葉にそれぞれ持ってきたワークやらノートやらを出して広げた。私も数学と英語のノートを広げる。書いてあるのは超基本的なことなので若干恥ずかしいが、頭の出来の悪さはすでにカミングアウト済みなので今更だろう。


 大ちゃんが凜君に頭をはたかれつつ勉強しているのを眺めながら待っていると、ほどなくしてゆかりちゃんが大地先生を連れて部屋に戻ってきた。


「あ、如月も来てるのか。教え子が増えたな」

「すみません。お世話になります」

「いや、教えること自体は好きだから全然構わないぞ。むしろもっと連れてこい」


 休日だからか大地先生の雰囲気もいつもとちょっと違う。これがあの初日から担当の生徒をほったらかしにした人物と同じなのか!?


「ホント、大兄といい、凜ちゃんといい、勉強のできる人はonとoffの差が激しいのかしら」


 私の心の声を映したかのように、ゆかりちゃんがぼそりと呟いた。私も心の中で激しく同意する。


「んじゃ、早速始めるとするか。凜、お前先に大知の勉強見てやれ。俺は手始めに如月の勉強見るから。ゆかりと陽平は自分で勉強できるな」

「分かりました。ほら大知、さっきの続きから」

「分かってるって。あー、もうどうしてアルファベットって1文字につき1音じゃないんだよ!!」


 ゆかりちゃんと陽ちゃんは黙々とペンを動かし始め、大ちゃんはときどき凜君に「だから違うとさっきから言ってるだろ!」と怒られながらも自分の勉強をしている。ここまで凜君を怒らせることができるのは、もう一種の才能だと思う。うん。で、凜君はというと、大ちゃんの勉強を見ながらも自分の前に広げたノートに何か難しげな数式を書き連ねている。……恐るべし、凜君。


「で、如月は何やるんだ?」

「一応英語と数学を持ってきました」

「んー、じゃあ……先に英語からやるか。他のやつらはしばらく質問でなさそうだし」


 大地先生が一通りみんなのノートを覗き込んでから言った。大地先生はふと立ちあがって部屋から出ていくと、すぐに何やら分厚い本を持って戻ってきた。


「如月、基本的な構文は分かってるな? 最低限の英単語も」

「えと、受験勉強でやったくらいなら」

「じゃあ……このページの問題やってみろ」


 そう言って大地先生は手に持っていた本の最初のほうのページを開く。ざっと英文に目を通すと、なんとか書いてあることは分かりそうだ。


「これ、俺の大学のときの友人が書いたやつなんだけど、割と出来がいいんでこうして使ってるってわけ」

「先生のお友達ですか。すごく優秀な方なんでしょうね。私でも理解できそうです」

「まあな」


 大地先生が少し照れくさそうに笑った。

 それからしばらく大地先生に英語を教えてもらう。そこでふと疑問を持った。……先生の担当って、確か古典だったよな。

 そこで、問題が一区切りついたところで私は大地先生に聞いてみることにした。


「あの、先生。先生の担当教科って、古典ですよね? 他の教科も教えられるんですか?」

「あ、うん。まあな」

「そうなんだぜ、美月ちゃん! 大地さんってすっげえ頭いいんだ!!」


 急に興奮した大ちゃんが話に割り込んできた。それを今にも誰か(大ちゃん)を射殺しそうな目で見つめる凜君。しかし、興奮した大ちゃんはそれに気がつかない!


「俺、全教科ダメだから、全部大地さんに見てもらったんだ。しかも全部分かりやすいんだぜ……」

「大知、人が説明しているのに他人の会話に入りこむとは……随分な余裕だね。じゃ、僕の説明もいらないよね?」


 凜君、その黒いを通り越して闇のスマイルは超怖いです。大ちゃんなんか恐怖でガタガタ震え始めました。それを見たゆかりちゃんと陽ちゃんは爆笑しています。正直笑い事じゃないと思います。


「これ、ヒント無しで解いてごらんよ。僕の説明はいらないんでしょ?」


 そう言って凜君が指差したのは今凜君が解いているのと同じようなかなり複雑な数式。当然私の頭ではそれが何を表しているのかすら理解することはできません。


「すいませんごめんなさいゆるしてください神様仏様凜様」


 たぶん自分でも何言ってるのか分かってないんだろうな。そんな勢いで大ちゃんが土下座するから、元から爆笑していた2人に加え、大地先生もが大爆笑しだした。


「大知、Let's try.」


 …完璧な発音withブラックスマイル。かなり怖いです。

 完璧に撃沈した大ちゃんが復活したのは、私が英語の問題を一通り解き終えて、数学の勉強に移る頃だった。

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