はじめまして。
私はある日突然(しかも受験勉強中に)あることを思った。
“日常を小説にしたらどうなるんだろう?”
事件があるから物語になるのであって、日常は事件がないから物語にはならない。
……誰が決めた、そんなこと。
日常だって、事件であふれているではないか!
今にも日が沈みそうな夕暮れ。私は一人、町はずれを目指して歩いていた。
「う~ん、今日もいい天気。でも早くしないと日が暮れちゃうな」
そう言いながらもゆったりと歩く。
日の光が完全に消えたころ、私はゆっくりと歩みをとめた。目の前には古い雑居ビルがあった。
周りに人が居ないのを確認して、そっと中へと体を滑り込ませる。思ったよりも遅くなったから、近くにある階段を駆け足で上っていく。
「間に合ったかな」
階段の一番上にある屋上へと続く扉を開けると、目の前に柔らかい光がふわりと広がった。
「……うん、今日もきれいだな」
目の前に浮かぶ丸い月。明るくて大きな月。昨日とは違う、そして明日もきっと違う顔を見せるであろう月が視界いっぱいに広がっている。
屋上の真ん中に膝を抱えて座りながら、ぼーっと月を見上げた。
きっと明日にはまた違う顔が見られるんだろうな、なんて思いながら。
その時、後ろにある扉からギギッという微かな音が聞こえてきた。今まで6年間ずっとここで月を見上げてきたけど、私以外の人がここに来るなんて初めてだ。
ゆっくり振り返ると、そこには小柄な人影が見えた。
身長はたぶん私と同じか、少し低いくらい。
「あれ、先客がいたか」
そう言いながら小柄な人影は私のそばにゆっくりと歩み寄ってきた。やっぱり身長は私のほうが少し高いみたい。
「女の子がこんなに夜遅くに一人か。あんまり良くないんじゃないの?」
「そっちこそ、子供がこんな夜遅くに一人でいちゃいけないんじゃないの?」
「子供って、おい! 俺こう見えても明日から高校生だぞ!」
「えっ、嘘」
「……嘘じゃねえって。そんなにマジでびっくりしなくても……」
そういうと、一人でブツブツ、やっぱり俺って小さいか、とか、どうせ俺はチビですよ、とか言い出した。
どうやら身長が低いことはコンプレックスだったらしい。
「えっと、実はさ、私も明日から高校生なんだよね」
「嘘……。俺、同い年の女の子にも負けたのか……。コホン、すごい偶然だな」
あー、最後ちょっと棒読みになった。言わないほうが良かったかな。
「……まあ、しゃあないか。今に始まったことじゃないし……。俺、陽平っていうんだ。もしかしたら同じ学校かもしれないし、一応挨拶!」
「私は美月。美しい月、って書くの」
「へえ、美月か。まるで今日の月みたいだな」
「私あんなに綺麗じゃないよ」
見ず知らずの人に名前を教えるなんて、今日の私はどうしちゃったんだろう。私がおかしくなってしまったのは、陽平君が優しい雰囲気を出してくれていたからなのか、月のやわらかくて優しい光のおかげなのか、よく分からない。
でも、確かに覚えていること、それは……。
「美月ちゃんもかわいいと思うけどな」
初めて会った人に胸をときめかせてしまったこと。
実はこの作品、先日完結した『例え、君が幽霊でも』の元小説となっております。
順番逆だろ! と突っ込まれた方、ごもっともです。
これからもぜひ時間が空いているときには、この子たちの物語を読んであげてください。
貴方にとってこの物語が楽しいものでありますように。
以上、美織でした♪