教師と生徒の戯れ
ある研究者が婚約者に"ある種"を植え付けた。
それは、今の世で子を産めば必ず宿る"ある種"の始まりと言われている。
"ある種"の形はそれぞれで、会話で、運動で、研究で、いろいろな場面で現れた。
そのおかげで今の地球がある。
〜〜〜
「短い。短すぎる。やり直してきなさい」
提出した紙切れは、わたしの予想通り赤い字でやり直しの文字と一緒に返された。
「私が出した課題は、確かに"才能"の始まりだけれど、他の子なんて5枚以上超えて出してくれてるのに、あなたは何?たったの一枚?ふざけないでくれないかしら!?」
落ち着いた声は、だんだんとヒステリックになり、ああ女だなー、と思わせてくれる。ただ、わたしはこういう女が苦手で、怯えてしまう。
「すみません」
相手の顔を見ることもできず、謝ることが精一杯。教室にわたし以外の生徒が居たら、きっと顔が赤かったに違いない。
「分かったら、早く出て行って」
ぐしゃりと握りつぶされた課題は、曲線を描き教室の片隅のごみ箱へ見事収まった。
〜〜〜
わたしが教室から出たと同時に後ろの扉から誰かが教室に入ったのが分かる。
誰かの気配には心当たりがあり、微かな呆れが滲む。だが対した興味も湧かず、食堂に向かった。
「昼からお盛んなことで」
静かな廊下に自分の声は思いの外響き、心臓が一際脈打つ。立ち止まって、様子を窺うが微かな喘ぎ声しか聞こえない。
ほっとしてまた歩き出す。
いくら旧校舎で、今が昼時で人がいないからといって、少し無防備なのではないだろうか。
教師が生徒と真っ昼間でヤるなんて、さっさと学校辞めてしまえばいい。
〜〜〜
スプーンを差し込めば、とろっとした生焼けの卵がご飯の上に軽く乗った。
一口サイズの玉ねぎ、鶏肉、人参がころっとした食感があり、ケチャップが馴染んだご飯はほかほかで、美味しい。
「……知らなかったわ。アスカ先生がもうヒーローの毒牙にかかっていたなんて」
わたしの突き返された課題には一切触れず、ヒーローの手の早さにびっくりな話題となった。
「前は誰だっけ?サヨリちゃん、カナコちゃん、アメリアちゃんにミリィちゃん、いや、結構古い?」
「確かミチコちゃんよ。あの人、日系趣味って噂が出てたけど、本当かもね。……にしても、あんたが話題の最先端を行くなんて、ね」
米系な白肌に赤みを帯びた頬、これで髪が黒かったらスノウホワイト顔負けの白雪姫を演じるだろう。残念ながら、彼女の髪の色は艶のある金髪だ。美女なのは変わりはないが。
「スィリにも分からないことがあったもんだねー」
「当たり前でしょ」
まあ、人は完璧じゃないし。
それにしても、課題のやり直しに気分は微妙だ。