神さまの憂鬱
作者はギリシャ神話や日本などのありとあらゆる『神』への知識が豊富ではありません。なので作中の『神』は作者のオリジナルキャラクターとして捉えていただけると精神的に楽です。また、この小説はあくまで世間一般に言われている『神』に対して作者が思ったことを、『神さま』と天使を登場人物として定め綴ったものですので、他の作者様方の作品等に登場する神とは全く関係ありません。またまた、作中のある台詞に関して気分を害される可能性がありますので、「神様系やだなあ」と思われる方はユーターンをお勧めいたします。
以上です。問題のなさそうな方は、どうぞ。
「もう嫌だっ!!!」
天界。神聖なる神々と天使たちが暮らす、光に満ち満ちた世界。
その世界の最上界。豪奢な神殿の巨大な椅子に座る、輝く金の髪を持った少年が吼えた。
「もうやだもうやだもうやだ!! 何で某がこんな思いをしなくちゃなんねえの!?」
少年がもう四人ほどは座れそうな椅子に浅く腰掛けていた少年は、両手で頭を抱えギャンギャンとわめく。髪と同じ金色の瞳は、しっかりと潤んでいた。すると、少年の前に幾枚もの翼を携えた女性が現れる。女神かと見紛うその美しい天使は、真っ白な長い髪を揺らし、たおやかな腕を伸ばして、少年の頭へと芸術品のような手で、触れる。
「おいうっせえな。まぁた言葉遣い変になってんじゃねえか弁えろ!」
「いだだだだだ」
「ったく、もうちょい自覚持ってくんねえか? てめえがしっかりしてくんねえとこっちも困るんだよ」
ギリギリと音がなりそうなほど強く掴んでいた手を離し、少年が手で掴まれた頭を押さえるのを見届けると、イライラした様子で天使は髪をかき上げた。その桜色の唇から、ドスの利いた声が紡ぎだされる。
「んでぇ? まだ吹っ切ってねえの?」
「・・・・・・」
「・・・はあ、カミサマが聞いて呆れるぜ」
心底呆れた表情でそう吐き捨てた天使は、腕を組んで椅子に座る小さな少年を見下ろした。その言葉に、俯いていた少年がキッと顔を上げる。
「ぬしにはわかんねーよっ!! 某の・・・っ、某の苦しみなんかっ!!!」
「あぁそうさ、そんなもんなんかわかんねえよ。わかりたくもないね」
「だったら・・・!」
鬼気迫る表情で天使に言い詰める少年は、瞬きした一瞬で変わった天使の顔を見て、口を噤んだ。
「だったら? だったらなんだよ、口出しするなと? そういうわけにもいかねえんだよ、こっちはよ。・・・てめえは神だ。俺は神の補佐をしなくちゃならん。天使だからな」
再び俯きそうになった少年は、天使に乱暴に髪を掴まれて無理矢理顔を上げられる。その時、至近距離に近づいた天使の顔を見て、瞳に浮かんでいた反抗の色が消えた。天使は続ける。
「俺はあくまで神の補佐をするだけだ。神はてめえだ。最初に言ったはずだぞ、やめることは出来ないと。だがてめえは選んだ、決めたんだ。決めたんだろ? 決められてしまった世界を見届けると」
ドスの聞いた声で天使はそう言いながら、少年を見つめる。少年は見つめ返しながら、確かに見た。その天使の瞳に浮かぶ、慈愛と哀れみと申し訳なさと、・・・決意を。
「先代も、先代による責任も関係ない。てめえは、神なんだ。神に決められた法則によって流れる世界の、神なんだよ。神とは作り出され、縛るもの。全てはてめえに収束し、ろ過され、世界に浸透していく」
ゆっくりと手を離して膝をつき、椅子に腰掛けた少年を見上げた天使は、神によって与えられた色の瞳で少年を射抜く。唇を噛み締めて、少年は輝く色の瞳で天使を見つめた。地面に着かない、短い足が頼りなさげに揺れる。
「てめえは、神はその座に座り続けなければならない。そうすることで世界はやっと巡回するんだ」
それを聞いた少年は諦めたように頷こうとしたが、再び大量に送られてきた声に目を見開き頭を抱え、叫ぶように言った。
「・・・だが、・・・っでも、だけど! 耐えられない、耐えられねーんだ!!」
その際合わせられていた視線は少年が目をきつく瞑ったことで遮られ、それを期に天使は僅かに目を伏せた。
「某は何もしてねーのに!! みんなっ・・・!」
『神様は残酷だ!』『俺は神様に嫌われてるんだろうな』『神様は不公平だ、酷い!』『神様は私たちを見て楽しんでるんでしょーね』『勝手に運命を決めやがって・・・!』『神様、どうしてこんな酷いことをするのですか?』『あいつは願いなんて叶えちゃくれないさ』『見てろよこの野郎! お前の思い通りにはならない!』『神様なんていないよ、信じない。だって・・・』
「『神さま』は何時だって悪役だ!!! 何もしねえよ!? 願いを叶える力なんてものはない!! そして悪いことがあればそれを仕掛けたのは『神さま』なんだってさ!! はは、某の所為なのかよ!? そして! 何も出来ないとわかれば勝手に頼れない発言をするんだ、ああくそ、なんて身勝手な!! 勝手に怨まれて、勝手に憎まれて、某は、某は・・・!」
「・・・」
「ほんとはっ・・・!」
光の雫が、零れていく。
「しあわせに、したくてっ・・・!」
溢れた雫の泉は、ただひたすらに滾々と湧き続ける。
止まることは、無い。