第8話「リドラの言葉」
「……そんなに祖母が見つからないものか? 帰ってくるのが遅いな、ラビー君……」
リドラは町の外で、ラビーが帰ってくるのを待っていた。
そんなに広くない町の中で祖母を捜すだけだというのに、そこまで難しいことなのだろうか?
それとも、祖母が見つからず困っているのか。
「やれやれ~。ボクは指名手配されているから行きたくないんだけどなぁ」
本来ならラビーに任せるつもりだったのだが、戻ってこないのでは困る。
リドラはため息をつきながら、白衣の中を漁る。取り出した布を被って、しぶしぶ町の中へ入ることにした。
「意外かもしれないけどな、オラが集団のリーダーなんだ」
「うわああああっ!」
「待て待て、ラビーは走る過ぎると疲れちまうだろぉー?」
迫りくる男の手を回避しながら、俺は町の中を逃げ惑っていた。
俺の雑魚ステータスの中で、2番目に高い俊敏性。これがなかったらとっくに捕まっていた。
「リドラはっ……リドラは町の外に……」
「おいおい、誰だよそいつ? 仲間のウサギの名前か? ヘヘヘッ」
お前は黙ってろ!
俺は小さな手足で人の隙間をかいくぐりながら逃げた。やがて、町の出口付近で、人が混雑している場所を見つける。
「あそこがチャンスっ……!」
俺は人混みの中に飛び込んだ。
「うわっ! くそ……」
俺は体が小さいから、小さな隙間もすり抜けられる。
それに対し、男は人間だ。混雑をかき分けるのも困難で、悔しそうな顔をしているのが見えた。
へっ、ばーか! このままリドラのところまで逃げれば、とりあえず一人(一匹?)でいるよりは安全だろう。
――というかここ、なんでこんなに人が集まってるんだよ。
「あんた、指名手配されてた科学者じゃないのかい!?」
「この町に何をしに来た!」
「お、落ち着いてくれ。ボクは危害を加えに来たんじゃないから!」
ん? 今、聞いたことのある声が……
よく見ると、大勢の町の人に問い詰められているのは、俺が捜していたリドラだった。
はああああっ!? なんで指名手配されてるのにここに来た!?
俺はリドラの肩に飛び乗って、小声で怒鳴る。
「リドラ!? 何してるんだ!?」
「き、聞いてくれラビー君。キミの帰りが遅いから、捜しに行こうと思っていたんだが……ちょいと風が強く吹いて、被っていた布が飛んで行ってしまってね。こういう状況だよ、うん」
「うん、じゃねぇからな!? この後どうするんだよ!? というか待った、俺も大事なことを言わないと――」
そう説明している間もなく、誘拐犯の男が人混みを割り込んでくる。
「お前らどけ! オラの邪魔すんな!」
強引なやり方だ。
俺はとっさに言う。
「リドラ、あの男はヤバい奴だから! ぶっ飛ばして!」
「はい? 何を言ってるんだい?」
「だーかーら! あそこで人を無理やりどかしてる男を……」
次の瞬間、町の外から数名の男たちが武器を持って駆けてくる。
おっかねぇ! あれだ、誘拐犯の仲間たちだ!
「おっ、応援が来たぞ! 邪魔な住民たちを追っ払ってくれ!!」
「きゃあああああっ!!」
「なんなんだこいつらはっ!!」
突然武装した不審者が何人もやってきたので、住民たちはあっという間に逃げていく。
「……なんだ、この集団は。何もしていない住民を巻き込むなんて、感心できないね」
リドラが不満げにつぶやいた。彼女が少し苛立っているのは、今初めて見る気がする。
すると俺をラビーに変えた男が、リドラを見て馬鹿にした。
「はぁ? ラビーってば、いつの間にか指名手配犯の科学者なんかと仲良くしてたのかよ!?」
「ラビー君、彼らのことを知っているのかい」
「そ……それは……」
まずい。下手に言うと、俺が転生者ってことがバレてしまうかもしれない。
ここは言葉を慎重に選ばないと……!!
という俺の最後の努力は、次の男の言葉で粉砕された。
「聞けよ、科学者! そいつは俺が動物の姿に変えた、ステータスが全部SSランクの元転生者なんだぜ!」
「転生者……?」
あああああああああああああ!!
言いやがったこいつうううううう!!
俺がリドラに、絶対に黙っておきたかったことを!
「……そうなのかい? ラビー君」
「ち、違う! あいつらは嘘をついているんだ!!」
「嘘なんかついてないぜ。どうだい? 科学者。オラたちに寝返ったら、指名手配されていても安全な場所を用意する。それに、このウサギの研究もさせてやるぜっ」
最悪な交換条件を持ち出してきた男。
リドラがここで承諾してしまったら――俺の人生、前世より終わるんじゃないか?
しかし、リドラはこう言った。
「……ボクはもうすでに、ラビー君と従魔契約を結んでいるからね。キミたちにラビー君を渡すことはできないよ」
「はっ……」
「それにキミたちの援助などなくても、自分で研究所は再築して、自由に過ごすからさ。ラビー君が転生者っていうのは、証拠がないから自分で確かめないと信じられないよ」
そう言うと、リドラは周囲を見渡す。
怯えた住民たちは家にこもったり離れたりして、男たちの行動に警戒しているようだ。
「……あと、勝手に住民たちを巻き込むような集団に、ボクは加担したくないかな」
いや、リドラも実験するとき、俺や少女を巻き込もうとしてたけどな??
それでもリドラは、自分なりの価値観を押し通すつもりでいるようだ。
「悪いが、ボクはそういう話には乗らないよ」
「……あぁそう。だったら力づくでウサギを奪わせてもらうことになるけど?」
「従魔契約を結んでいる以上、ボクからラビー君を離れさせるのは物理的に無理だよ」
「だったらお前ごとかっさらえばいい話だ! 行けみんなぁ!!」
男が叫んだ途端、武装した仲間たちがリドラ目掛けて、一斉に襲い掛かってきた。




