第7話「懲りず現れる誘拐犯」
「キミ、どうしたんだい?」
「あのっ……迷子になっちゃって……」
リドラと俺が向かった先には、平原で泣き叫んでいる幼い少女がいた。
わかる通り、少女は迷ってしまったようだ。気づいたら、共に出かけていた祖母とはぐれてしまったようである。
「困ったおばあさんだね、孫を置いていくなんて。極度の認知症かな?」
「ぐすっ……おばあちゃん……」
「まぁ待て、泣くんじゃないさ。ボクが面白いものを見せてやるから」
「面白いもの……?」
少女がそっと顔を上げる。
おいおい、面白いものってなんだよ。俺は目を細めながら、自信ありげなリドラの顔を見つめていた。
「ボクの実験をご披露。魔力による爆h……」
「もういいから! その実験おもんない!!」
俺は思わず横から口を出してしまった。
ふざけんな。研究所を壊した経験を、一瞬で忘れたのか!
すると少女はリドラから視線を外し、真ん丸な瞳で俺を見下ろしてきた。
「ラビー! ラビーだ、かわいい!」
「うぉ……おう」
「しかも喋ってる!」
少女は飛び跳ねながら、俺の体を持ち上げた。ちょ、力入れて掴むな……
ともかく、少女は俺が声を出しただけで、すぐに笑顔になった。
その様子を見て嫉妬したのか、リドラは頬を膨らませる。
「なんだい! 確かにラビーが声を出すのは興味深いけど、キミばっかり好かれたらズルいぞ!」
「は……?」
「ふふん。ボクの実験を見たまえ」
リドラは胸を張りながらフラスコを取り出すが――すでに、彼女の周囲から、俺は少女を連れて離れている。
「……って、なんでキミたちは離れてるんだっ! もっと近くで! ……って、あ、叫んだ拍子にまた入れすぎた――」
草原で、爆発が起こる。
俺と少女は、呆然とした顔で、自爆した科学者を見つめていた。
「ゲホッ、ゲホッ……やっぱり、化学物質の量をちゃんと調整してから、魔力を入れるべきかなぁ?」
「おねぇさん、ボンってなった!」
少女は真っ黒のリドラを見てゲラゲラと笑う。
よかったな、リドラ。笑顔を見せてくれて。
「迷子か……。キミはおばあちゃんと、どこへ向かっていたんだ?」
「……ノースタウンへ」
「あぁ、知っている町の名前だ。場所はわかってる。ただ……ごめんよ、ボクは町に近づけないんだ。どうしようか……」
おいおい嘘だろリドラ? 声をかけたのに助けられないとかないよな?
するとリドラは俺を見つめてきた。
「……町まで来たら、残りはキミがおばあちゃん捜しを手伝ってやれないだろうか」
「えぇっ、俺!?」
「それくらいならできるだろ? 従魔契約で、ボクとキミが離れられる距離は100メートル程度。 ボクは町の外で待ってるからさ。頼む、ラビーが怪我しないようにだけしてくれ」
リドラが少女にお願いすると、少女は小さく頷く。
マジか……。俺がこの子のおばあちゃんを見つけなきゃいけないのかよ。
「ここがノースタウンだ。少し寒い場所だね」
俺たちは数時間かけて、ノースタウンまで歩いてきた。
北の方角にある町のせいか、気候が少し寒いらしい。でも俺はウサギの毛があるから、これくらい問題ないかな。
「じゃあ後はまかせたよ、ラビー君」
「はーいよ……」
俺は手足をよちよちと動かし、少女を連れて町の中に入っていった。
「ぎゃあああああああああっ!!」
町に入ったとたん、家の番犬に噛まれそうになった!
死ぬ! やめて! 俺はランクEの俊敏性で、何とか番犬から身を隠した。
でもさっき、丸い尻尾を爪でかすられた。それだけで痛い。このやわらかい体に刺激を与えすぎたら、絶対に即死する自信がある。
「大丈夫、ラビー?」
「ハァッ、ハァッ……」
「私が抱えてあげる」
少女は俺の小さな体を抱き上げた。はぁ、これで犬に襲われることはないだろう……。
やっぱりウサギの体は、こうやって町を歩くには不便だな。
そして、周囲を捜しまわること数十分後。
「おばあちゃーん!」
「メアリー!? どこにいたんだい!」
背筋が曲がったおばあさんに向かって、少女が抱き着いていった。
あの人がこの子の祖母か。まったく、孫を平原に放置しちゃだめだぜ。
「喋るラビー、ありがとう!」
「……え? あ、どういたしまして」
突然お礼を言われ、俺は驚いてしまった。
ともかくよかった。少女が祖母に会えて。ひとまずこれで一件落着だな。
……さて、俺は真面目に、自分のことを考えないと。
リドラに悪意があるようには見えないが、いずれ敵になったり、俺を無意識に殺す可能性がある。でも彼女からは逃げられない。外でも一人じゃ生きられない。……俺の人生、だいぶお先が真っ暗だな……
「ちなみに俺が仮に人間に戻ったら、従魔契約は解除されるのかなぁ」
俺が人間に戻れば、あの破壊的なステータスを取り戻せるだろう。
それに加えて従魔契約が解除されれば……ワンチャン俺は、力ずくでリドラから逃げられる可能性がある。
俺は転生者だとバレてしまっているから、人間に戻れば世界中から追われるだろうけど、魔法の使い方とかを知れば、そいつらも蹴散らせるんじゃないか?
人間に戻れた後、いっそ魔王みたいになって、最強ステータスを使いこなそうかとも考えたが……全世界を敵に回すのは、さすがに大学生の俺の勇気じゃ足りなさ過ぎた。
「困ったもんだな……」
俺がため息をつきながら、リドラがいる場所へ戻ろうとしたとき。
突然、頭上から声が響いた。
「おぉ、さっきこのウサギ、喋るラビーって言われてたよな~? オラは知ってるぞ~」
「……!?」
聞き覚えのある声。
俺が思わず顔を上げると――そこには、あの誘拐犯の一人が、ニヤニヤした笑みを浮かべて立っていた。
間違いない。俺をラビーの姿に、魔法で変えた男だ。
「よくその姿で生きてたよねー。オラたちの仲間、大慌てで捜していたぞっ。モンスターに変えられた転生者で逃げ出した奴なんて、お前が初めてだ」
「……」
「ちなみに、元の姿に戻りたいとか考えてる? この魔法、すごく高度でさ。オラは魔法をかけたはいいけど、元に戻す方法はわかんないんだよね」
大袈裟に笑う男。
やばい、俺のこと捜されていたのか。逃げないともう一度捕まる……!
「さーてラビー。お前はオラたちに売られる運命なのさ。抵抗はやめて……」
「やめろっ! こっち来るなっ!」
俺は急いで走り出した。
男が俺を追いかける。だが、住民は誰も俺を助けてくれなかった。
他人から見たら、ただの雑魚モンスターを男が追いかけているようにしか見えないのだ。
俊敏性は高いため、すぐに追いつかれはしないが、やがて弱い俺の体力は尽きるだろう。
やめてくれ……! リドラ、俺を助けてっ……!




