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第6話「ボクっ娘科学者は放置するとたぶん死ぬ」


「あちゃちゃ~。ついにこの研究所も見つかってしまったか~」


 リドラは首を傾げ、困ったように頭を抱える。

 ……あちゃちゃ~じゃねぇだろ。

 指名手配されてるんだろ!? この後どうするんだよ馬鹿っ!


「面倒くさいなぁ。ラビー君、キミが実験を見たいとか言ったせいで、こんなことになってしまったじゃないか」

「俺は絶対悪くない!」


 俺ははっきりと言い切った。爆発が派手だったのは、こいつの化学物質の分量ミスだったし。

 あーぁ、ただでさえ苦手な化学が、こいつのせいでトラウマになるかも。


 すると俺の声が聞こえてしまったのか、馬に乗っている騎士たちが首を傾げた。


「……なんだ、その喋るラビーは? 貴様の従魔か?」

「そうだね。魔法の類にかかって、人間が魔物になってしまってるらしいよ」

「まさか貴様がやったのか!? 人間を使った実験にまで手を出すなど、貴様の倫理観は外道以下なのか!」

「違うよ! もう、この人たちと話すのは面倒だなぁ!」


 リドラは大きく首を振り、ため息をつく。

 そして手に出したのは……小さな試験管だった。中には赤い液体のようなものがつまっている。


「なんだ、その試験管は……」

「逮捕はごめんだよっ! これでも喰らうんだ!」


 リドラが試験管を放り投げると、煙の爆発が起こった。


「ゲホッ、ゲホッ!」

「うげぇ、力が……」


 騎士たちの悲鳴と、せき込む音が聞こえる。

 その間に、リドラは俺の体を抱えて走り出した。森の中へと飛び込み、息を切らしながら走る。この女、体力は案外少ないのか。


「もうあの研究所、使えないじゃないか! 森の近くだったから、素材が豊富で好きだったのに……。ラビー君、次の研究所を建てる場所まで旅をしよう」

「えっ、唐突すぎないか!?」

「仕方ないだろう、ボクは追われてるんだし、街には入れないんだから……。でもキミの研究を忘れたりはしたくない。新しい研究所を、どこかへ建てに行くのさ」


 いやいやいや、この科学者、言っていることがぶっ飛んでいる!

 新しい研究所を建てるために旅をするだ? 切り替えが速すぎるんだよっ!!

 しかも旅って……俺、雑魚すぎて途中で死んだりしないかな!?


「ま、待てよ。マジで言ってるのか?」

「あぁ。キミは安心したまえ。ラビーの弱さはボクが理解しているよ。キミを危険にさらすことがないよう、細心の注意を払うつもりさ」


 さっき研究所を爆発させた人が何を言っているのですかね?


 そう思いながらも、俺は彼女の白衣の腕にうずくまっていた。




「ここまでくれば……追手は来ていないだろうね……」


 森の中を突っ切り、走り切ったリドラ。ここまでの淡々とした態度とは裏腹に、随分と疲れ切って汗を流している。

 俺は彼女の腕から降りて、リドラの顔を見上げた。


「それで、これからどうするんだよ。お前は何も持ってないだろ」

「……何言ってるんだい、ラビー君。さっき出した試験管は、白衣の内側から出てきただろう。ボクはいつだって研究所を出れるだけのアイテムは持ち歩いてるんだよ」

「そうなのか?」

「あと……さっきも言ったけど、ボクは修復の魔法を使えるのだよ。それを何とか駆使して、研究所を新しく建てる場所を探そうかな」


 へぇー。でも修復も何も、その材料がねぇだろ。どうするんだこいつ。


「まずはそうだね、食料を探しながら歩こうか。キミはラビーだろ? その辺の雑草でも食べるといいよ」

「は?」

「キミはウサギとして、生態に合った食事をとるべきだ。人間と同じ食事を取ったら、腹を壊す可能性があるよ」


 そうか……俺、人間じゃねぇのか。

 くそっ! 雑草なんておいしいわけねぇだろっ!




「うめえええええええ!!!」


 ――俺はその辺に生えていた草を食べて、歓喜の声を上げていた。

 どこの誰だろうか、雑草がまずいとかほざいた方は。シャキシャキとした食感が、この体ではおいしいと感じてしまう。

 いっそラビーの方が平和なのでは? と、少しだけ思ってしまったが、それは愚かな考えだ。俺のこの体では、誰が相手でも即ワンパンされるらしいからな。


「で、リドラは何を食べてるんだ……」


 雑草をたらふく食べた俺は、再び森の中へ戻ったリドラを捜しに行く。

 すると……


「見たまえ、ラビー君! ボクは毒キノコの味見をしていたところだ! 初めて見る種類だな」

「ぎゃああああああああ!!」


 見ると、木の根っこに生えた、腐ったような色をしているキノコを貪るリドラがいた。顔色が酷く悪いが、興奮した様子で採取しているみたいだ。


「これ、食べたら持っている魔力を急激に下げられるらしいぞ。ボクの魔力、Bランクだけど、う、ぐぅ……」

「ばかばかばか、それ以上食べてるんじゃねぇっ!」


 俺は頭の狂っているリドラを止めようとした。

 何がしたいんだこいつはっ! 国の研究所を追い出されて、指名手配されてるのも納得だわ!


「悪い悪い、ついよくない癖が」

「そのよくない癖で、いつか俺を殺さないでくれよ」

「それはないさ! さて……ボクはもう十分だよ。毒キノコ以外の木の実とかも食べたから。騎士たちが捜査に来る前に、どこ行こうかな……」


 彼女が立ち上がり、森から出た瞬間。



「誰か、いませんかー!」

「……?」

「誰かぁー!」


 子どもの叫び声のようなものが聞こえた。

 近くからだと思う。俺はリドラの顔を見た。


「今の、なんだ?」

「さぁ。でも、気になるから行ってみようよ」

「そんなうかつに動き回って、大丈夫なのか?」

「何かあったら、持ってる薬品とかいろいろ使って何とかするよ。たぶん大丈夫」


 不安しかねぇな……。この女、目を離したら死んでいそうだし。見たことないのには、毒だろうが何だろうが、後先考えずかじりつくタイプの科学者。

 俺はこの後の未来を案じながら、地面を歩いて彼女についていった。

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