第5話「ボクっ娘科学者は世間的に危険人物」
「待てっ! お前はなんなんだよっ!」
ラビーと化した俺は、悲鳴に近い声で叫んだ。
いや、本当にわけがわからない。白衣の女リドラは、鼻歌まじりにフラスコを掴んで笑っていた。
リドラは振り返り、腕を組んで語る。
「改めて紹介すると、ボクはリドラ。もともとは、国の研究員だったのさ」
「えっ?」
こんな女が、国の研究員?
――とてもじゃないが、そういう印象には見えない。どちらかというと、頭おかしいマッドサイエンティスト寄りな……
「でもちょいとばかし、張り切りすぎてねぇ。国の実験室を、ボクの魔法の実験で大爆発させちゃったことがあるのさ」
「馬鹿なの!?」
「そのせいで国から指名手配されてるんだけど……こうやってボク専用の研究所を造って、実験を続けていたわけさ。クフフッ」
まずい。本当に危険な女の可能性がある。
俺は今、攻撃されたら一瞬で死ぬようなウサギだ。この女の妙な実験に巻き込まれて、命を落としたりしなければよいのだが。
「俺は……お前と、従魔契約っていうのを結んじまったんだよな?」
「あぁそうだとも。もっともキミは、獣の姿の中に人の心があると頷いていた。従魔と呼ばれるのは不本意かな?」
「……」
「クフフッ。安心してくれ、ボクが無事に人間に戻してやろう。今からその研究を行えるのが、楽しみで仕方がない」
リドラは俺に背を向けて、何やら薬を作り出した。
……まずい。
確かに、俺は人間に戻りたい気持ちは爆発しそうなほどにある。
だが今の俺は人に戻ると、いろいろ問題があるのだ。
世間に転生者だと、自分からバラした大馬鹿の俺。今、元の姿に戻れば、転生者狩りみてーのがやってくるかもしれない。
嫌だ! 俺は国の研究員に飼い慣らされたくない!!
しかも転生者だと知られたら、リドラにも何をされるのかわかったもんじゃない。
「や、やっぱりいいよ。俺を人の姿に戻さなくて」
「なんだい? ボクはキミのあるべき姿が気になるから、従魔にしたのだけれど」
「だったら従魔契約解除しろ!!」
「一度やったらできないよ」
ふざけんな! そういうことは先に言えよ!
……と思ったが、俺はもう一度考え直す。
仮に従魔契約が解除できるものだとして、俺が一人で外に出て行ったところで……
前の誘拐犯にもう一度出くわしたり、魔物に食われたりするだけだよな。
仕方ない。今はリドラの従魔として、様子見をするしかないか。
なるべく、俺を人間に戻すという方向性からは、ずらしながら。
「リドラ、お前はどういう科学者なんだ?」
「主に魔法系のものが中心さ。たとえば、魔力に反応して爆発する薬を作ったりだとか……。あ、さっきキミに、魔力を回復する薬を飲ませておいたからね」
「あ……ありがとな」
へぇ、そんなのを作れるんだ。一応お礼は伝えておこう。
「じゃあまずは、キミをもとの姿に戻すために、キミの体の検査を――」
「あー!! ちょっと待てよ。それ後回しでいいから、お前のなんか、実験とかを見せてくれ」
俺はリドラの言葉を遮った。俺の正体を暴く研究は続けないでほしいんで……。
ちなみに俺が小さなころから苦手だった教科は理科、その中でも科学。化学式とか本当に覚えられなかった。興味がないからなんだろうな。
「ボクの実験が見たいだって?」
「あ……うん」
「そうだな……じゃあ、さっき言った魔力で爆発の魔法を見せてやろう」
「なんでだよ!?」
俺は思わず叫んでしまった。
は? 魔法で爆発する実験? 嫌だ、巻き添え喰らったら死ぬかもしれねぇだろ!
「やめろ、他のやつを見せてくれ。もうちょい安全なやつ」
「大丈夫さ。ちょっとだけボンって破裂する程度だから。えーと、この化学物質を――」
「話を聞け!!」
駄目だこいつ話が通じない。
俺は半ば泣きそうな表情になった。
「見ててくれよ。一発しかできないんだから」
「やめろっ! やめてくれ! 俺はラビーなんだっ!」
「あっ、化学物質入れすぎたかも――」
俺はリドラを置いて、ウサギの体で即座に逃げた。
次の瞬間、大爆発が起こり――
「……」
普通に研究所が半壊した。
黒い煙が立ち込めている。俺は呆然とした目で、その様子を眺めていた。
……嘘でしょ、こんなことある?
俺、あと1秒でも逃げるのが遅かったら、たぶん死んでいた。
「あいたたた……また研究所が壊れてしまった」
瓦礫の中からリドラが姿を現す。
今、「また」って言った? 研究所が大破するのは、彼女の中で当たり前のことなのか?
「まぁ、魔法で修復できるからいいんだけどさ」
「おい、だからやめろって言っただろ! 頭おかしいのかお前!!」
「ボク、スリリングな実験にちょっぴりハマってしまってるんだ。研究所がぶっ壊れることなんて、これで12回目だよ」
俺は周囲を見渡した。
研究所があるのは、誰も住んでいなさそうな森の近く。こんな実験を街中でやってたら、本気でこいつ終わるぞ……。
「一発目の実験、なかなか良かっただろう? さて、今から研究所を修復するから、そうしたらキミの体を検査しようか」
「嫌だああああ!! 従魔契約消してくれ」
「もう無理だって」
逃げようとした俺の白い体を、リドラの左手が持ち上げた。
やめろおお! こいつの場所で様子見とは言ったけれど、やっぱり危険すぎる!!
すると――
遠くから、大きな声が聞こえてくる。
「誰だ! 今、爆発するような音がしたぞ!」
リドラと俺は思わず振り返った。
そこには、馬の上に乗った騎士のような集団がいる。誰だ……?
「我々は国家の騎士だ!」
「……? どこかで見覚えのある女……さてはお前、指名手配中のリドラか!?」
「あ、見つかった」
何も驚いた様子のないリドラに、騎士たちはたじろぐ。
おいおい……この状況、どうするだよ!?




