第3話「ウサギ、力がないなら運で勝負だ!」
「ふざけるなああああ出しやがれここからああああああ」
「なんか取り乱した瞬間、口調が急変してやがるぞこのウサギ……」
「俺の無双確定演出だったステータスがっ……あぁっ……」
ラビーとかいう雑魚なウサギと化した俺を入れたケージは、暗い倉庫の棚に置かれた。
最悪だ。さっきまで女子を虜にしていたイケメンフェイスも、ウサギになってしまっては意味がない。あの知的かつ品位の高い顔面は、くりくり瞳の魔物に変化してしまったのだ。
そして問題のステータス!!
知力だけは高いけど、他が全部底辺。攻撃力や魔力がついさっきまで9999だったのに、30前後ってなんなんだよ? 300分の1以下じゃねぇか終わってなぁ!!
俺の異世界人生……無双テンプレ通りにはならなかった……
……いや、落ち着け。
あの誘拐犯たちはひとまず去った。倉庫に放置されているのは、飼育小屋みたいなケージに入れられた俺だけ。
よく学校の先生が言ってただろう。『テストは点がすべてじゃない。自分がその後、どう努力するのかが大事だ』……と。
今までの俺はそんな綺麗ごと、聞き流していたけど……今回に関しては、マジの教訓になるかもしれない。
ステータスはクソだけど、俺は限界まで足掻いて見せるぞ!
「どう、にか、ここからっ……」
とりあえず、檻の蓋をモフモフの身体で押してみる。ビクともしない。毛が散っただけだ。駄目だこりゃ。
次は鍵を壊すことを試みる。こんなウサギでも、前歯というものは存在していたので、それで噛もうとしてみた。でも、鍵は鉄だ。前歯がぶっ壊れるのが先になる気がして、俺はやめた。
ひぃ、脱出厳しすぎる……!
これが、嫌でも人間に飼われる小動物の心境か。脱出しようと思わなければ楽なのだろうけど、俺は研究者に売られるのが時間の問題だから、焦るしかない。
マジでさ……転生者を買い取って情報を聞き出してるとか、国の研究者の倫理観はどうなってるんだ??
困ったな……。笑えない状況に陥ってる。
さすがの俺も、『転生したら最強だったけど、すぐにウサギにされて、檻から脱出する意味不ゲーム』なんてものはプレイした記憶がない。
これは命がけの生き残りなのだ。最強から最弱に突き落とされた瞬間、俺の異世界生活はゲームからサバイバルへと感覚が変化していた。
「でも、ステータスとかある部分はちゃんとゲームみたいだしな。何か他に書いてあることねぇのかな……」
俺はもう一度、ステータスオンしてみる。
先ほど確認したクソみたいな数値以外に何かないのか、俺は必死に探してみた。ラビーって、本当に何の能力もない雑魚魔物なのか……?
すると、数値が書かれている欄の下に、小さな文字でこう書かれていた。
『固有スキル:念力 魔力を5消費するが、運が良ければ物を動かせるかもしれない』
おぉ、こんなものがあったのか! もっと早く知りたかったぜ。固有スキルって、個体ごとに持っている特別な能力みたいなやつか。そういえば、人の姿だったときはどんなスキルを持ってたんだろうな……
……って、待てよ? 運が良ければ?? 俺の「運」のステータス10だったけど? 底辺だったけど?
しかも、物が動くっていう曖昧な表記……。でも、これにかけてみるしかねぇよな。
「よーし。ステータスオンって言ったら出てきたんだ。……念力、起きろ!」
――何も起きることはない。
誰もいない空間で、俺は真っ白な頬を赤く染めた。
待て待て。やり方とか書いてないの?
ステータスを開いてみた俺。そして、素っ頓狂な声を出してしまった。
「ふぁわっ!?」
魔力:31/35
おい……
魔力が減ってるぞ!
つまり今のは、念力自体は発動できたけど……運がなさ過ぎて効果がなかったってことか!?
「嘘だろっ、あと6回しか使えねーじゃねぇか!」
その回数以内に何かしらの変化を起こせなければ、俺は本気で詰むのでは?
これ、ゲームの世界だったらクソゲーって酷評してるぞ! 実力が関係ない運ゲーが一番嫌いだよもう!
とにかく俺は集中して、念力を連発してみた。
何か起これと願いながらも、無情に魔力だけが消費されていく。
あと5回、4回、3回、2回……
唯一起こる変化といえば、段々と溜まりゆく疲労感への自覚だった。
「あと……1回……」
お願いします、神様。元ゲーマーウサギが神頼みします。
あと1回の念力。俺に何か、最後の希望をください。
「念力……起きろ!」
弱々しくも、最後の望みをかけて叫んだ瞬間――
カチッと、檻の蓋の鍵が外れる音がした。
「……」
……マジで?
俺は恐る恐る、短い前足を出してみた。蓋が開いてる。狭いケージから、俺は脱出できている。
来たああああああああああ!!
運ゲー大好き! 誰だ嫌いとか言った奴!
「運」のステータス10だったけど、その10が俺の悪あがきとマッチし、奇跡を起こしてくれた。もう起こらないだろうな、こんなミラクル。
よしっ、出れたならこっちのもんだ。
ここからは、小動物であるこの体の方が、思ったより有利なんじゃないか?
ステータスで、知力の次に高い俊敏性。Eランクだけど、思ったよりは早く動けた。ウサギらしい、すばしっこい動き方ができる。
知力だって人間並みではあるだろう。9999というアレが常人越えの異常値だっただけだ。ここまでの判断は正常にできているつもりである。
「どこか、逃げ出す場所を探すぞ……」
ラビー姿のまま、倫理ぶっ飛んだ研究者たちにモルモット扱いされるのは御免だ!
俺はなるべく音を立てないように注意しながら、小さな体でコソコソと床を歩き始めた。




