第10話「人生詰み……は回避したけれど、結局は逃げられない」
「ラビー君は、念力の固有スキルを持っていたのかい」
「あ……あぁ、こんな強い魔法だったイメージないけれどな……」
「運が関与する念力は、威力と発動確率がランダムだからね。やっぱりキミは面白いな!」
リーダーが倒された誘拐犯一味。僅かに残っていた仲間たちは、戦慄して逃げ出した。
町を荒らした罪で、リーダーと残党はみんな逮捕。リドラは指名手配犯であるにもかかわらず、町の人々に称賛の声を浴びさせられていた。
「すごい! あんな大勢の奴らを、どうやって蹴散らしたんだ!?」
「リドラさん、ばんざーい!!」
「いやぁ……そこまで言われるほどのことをしたつもりはないよ」
リドラの奴、正気か? 何が「いやぁ……」だ。
町の人々が逃げ出すような集団を、殆ど一人の力で壊滅させていたんだぞ?
俺はリドラの腕に乗る。
リドラは町の人々に、倉庫を譲ってくれないかと頼んでいた。
「壊してしまってすまないね。ただ、ボクらは今、研究所を失くして困っているんだ。ボクの修復の魔法で、あの倉庫を作り直し、研究所として使いたい。駄目かな?」
町の人々は顔を見合わせ、一斉に頷く。
「その程度でいいのか?」
「指名手配犯だろうが何だろうが、町の救世主だ。倉庫の1個くらい、くれてやるさ」
「感謝するよ」
おぉっ、これで研究所が再築できるのか!
俺が顔を見上げると、リドラは微笑んでいた。
「見てくれ、ラビー君!」
「おおおおおっ!!」
俺がリーダーを叩きつけたせいで、壁の一部がぶっ壊れていた倉庫。
リドラはある程度の素材を集めてくると、それらと倉庫を修復魔法で掛け合わせ、見事な研究所を再現していた。
「ラビー君、新たな拠点は町の中に作れたぞ! これで前よりは追手に見つからないと思う」
「でもいずれ、指名手配の件は何とかしたほうがいいと思うぜ」
「それもそうだね。まぁ、それはまたいつか」
能天気な奴だ。指名手配をされていることに、何の危機感も覚えていない。
俺はリドラの後ろについていき、研究所の中に入った。
「この後、実際にキミの研究を続けて、キミの人間としての姿に戻すつもりだが……」
研究所の中の机に座る俺。
リドラは実験器具などを用意しながら、俺に聞いてきた。
「単刀直入に聞こう。キミは転生者なのかい?」
「……」
今までの俺だったら、適当にはぐらかしていただろう。
だがリドラは、俺が転生者であっても、酷い扱いはしないと言っていた。
「……あぁ。俺はもともと凄く高いステータスを持った、転生者だよ」
「なるほど。だとすれば、その姿はさぞ不便だろうね。ステータスも低い」
「本当だぜ。でも人の姿に戻ったら、また誘拐犯みたいな奴らに狙われるんじゃないかって思ってる」
「そこのところは安心したまえ!」
突然、リドラは胸を張って言い出した。
「キミはボクの従魔。キミの安全の責任は、ボクにあるのさ。キミが人間に戻ったとしても、きっと従魔契約は残ったままだと思う」
「……マジで? それじゃ従魔じゃなくて、従人じゃないか」
「いや、違う。従魔という表記でも、人であるキミは対等に扱う。キミもボクも国に追われる存在さ。運命共同体、違うかね?」
……言われてみればそうだな。転生者の俺も、指名手配犯のリドラも、国から追われているのは同じこと。
だったらもう俺は、リドラから離れる道はない。最初から離れることができない運命だったのか。
「キミが人間になっても、ボクから離れることはできない。どこにも逃げ場なんてないよ。そういう意味では、キミはいつまでも従魔のままだ」
「……」
「でもキミはわかっているだろう? 『ここ』以外ないと――」
青い瞳が、俺を見据えてきた。
ウサギの姿の奥に眠る、俺のあるべき姿。それが見えているのだろうか。
もちろん、返事は決まっている。
「……わかってる。俺はリドラに、お世話になるよ」
異世界した時に想像したチート生活とは、大きくかけ離れているけれど。
同じ運命を辿るリドラを、俺は選ぶぜ。
「……クフフッ! ようやくキミの意思が決めてくれた。従魔契約は、この瞬間に本当の成立を果たしたのかもな」
「……?」
「さぁ、キミのことをもっと研究しないと! それにボクのパートナーなのだから、ボクのいろんな実験に付き合ってくれよ!」
突然、上擦った声を出し始めるリドラ。
あ? 今、実験に付き合ってとかなんとか、言ってなかったか?
「さっき、あの男に食わしたキノコの解明をしないとだな。新たな毒薬でも作ってみるか? ……いや、これは後回しにするとして。まずは、さらに威力を倍増した爆薬を開発だ!」
「……リドラ?」
「ラビー君がいると、実験や研究のし甲斐があるのだよ! 成果の自慢ができるからね!」
いや、自慢とかされても絶対に理解できない。俺は理科が嫌いなんだって。
それに、どうせろくでもない研究しかしないんだから!
「爆薬の研究とか、マジでやめてくれ。またこの研究所を半壊させる気か」
「そうしたらまた直すからさ」
「ここは町の中だっつーの! それに、俺が死んだらどうするんだっ!」
だいたいな、爆発の実験は失敗しないことを前提にやるもんなんだよ。
体力がゴミみたいな俺が爆風に巻き込まれたら、一瞬で死んじゃうから!
「なら、キミを人間の姿に戻してから行うとするか」
「駄目だっ! やっぱり俺、この研究所にいたら死んじまう!」
「こらこら、どこへ行くんだい。キミが逃げる場所はないって言っただろ」
「あああああああああああ!!」
転生者だとバレても問題がなかったから、リドラの元にいれば安全だと思ったのに。
結局のところ、俺はこの異世界で生きるには、数多の苦境を乗り越えなければならないと理解したのだった……




