風鈴の音が聞こえる
おじいちゃんの家の縁側に腰掛けるなんて、ちょっと粋だと思う。隣に一人分の場所を開けて座る。
きゅうりもナスもある。きっと彼女は、僕に会いにやってくる、はず。久しぶりに会える喜びと、これが最後になるかもしれない悲しみでソワソワする。
この家には思い出が詰まっている。母さんが再婚してできた新しい父さんの父さんの家。初めて来た日のことは今でも忘れられない。母さんがすごい緊張してて、小学生だった僕はその緊張を感じて不安だった。
何人かいた親戚の中で、子供は僕と従兄弟の彼女だけ。そこで人生初めての恋をした。
二人で遊んだ関係は、それぞれが高校生になっても細く長く続いて、この家の持ち主が死んだあとは、二人でたまに掃除なんかもした。
リン、と澄んだ音が響いた。この縁側に唯一残ったもの、風鈴の音だ。みると、切ったスイカを乗せた皿を持って、白いワンピースの彼女が立っていた。
「久しぶり。元気だった?」
無言の彼女は小さく笑うと、僕の隣の定位置に座った。もうすっかり木がなくなった小さな庭を二人で見つめる。
訪れた静寂を破るように、彼女が口を開く。
「スイカ、切ってきたんだけど」
「あー、ありがとう」
「苦手だったよね?」
「まあ、うん。だから僕の分も食べていいよ」
「私食べていい?」
「うん」
この会話はいつぶりだろう。スイカが苦手な僕とスイカが好きな彼女が揃うといつもこうなる。
彼女はスイカを一つ手に取って、器用に種を受け皿に落としながら食べ始めた。その横顔を見つめる。もう見ることはできないかもしれない横顔を。
「あのさ、ずっと言えてなかったんだけど」
彼女はスイカを食べ続ける。
「好きだったよ」
彼女の動きが止まった。食べ方を忘れたように硬直する。
「苦…っ」
口元を手で押さえて種を吐き出した。どうやら嚙み潰してしまったらしい。頬に涙が一筋光っていた。
その苦みはすごくわかる。だって僕は、初めてスイカを食べた時に間違って食べた種が苦かったから、スイカが苦手なのだから。
「一緒に食べれたらよかったのにな、スイカ」
立ち上がって、スイカを持つ彼女の手に触れる。その温かさを感じることはできなくても、確かにそこに居た。
「またくるね」
風が吹いて、風鈴が揺れる。澄んだ音とともに、僕の意識は空へと飛んだ。
◆
リン、と音がして顔を上げる。自分と同じく縁側に取り残された風鈴の主張だった。
もともと一人ぼっちだった縁側が、より一層寂しくなった気がした。




