8.難易度高めの再会イベント③
ぐるぐると思考を回転させる。
りょーこを救い出すために、あたしが優位に立って主導権を握りたいと思うのはおかしいことじゃない、はず。
もうちょっと怪しんでから「そこまで言うならしょうがないわねぇ」って言いたい。
「あんた、なんか怪しいのよね……」
「いやいや、疑い過ぎじゃね? 俺様にどういう他意があるってんだよ」
「自慢じゃないけど、後継者候補に指名されてからあちこちから声がかかるのよ。鬱陶しいくらいにね。
あんたたちにだって下心くらいはあるんでしょ。面倒だからぶっちゃけなさいよ。知らない仲じゃないんだし」
知らない仲――。ザインの使った言葉をそのまま使ってやる。
一瞬だけ面食らった顔をするザインが肩を竦めた。
不意に、それまでずっと「我関せず」を貫いていたディディエがあたしを見た。
「ロゼリア」
静かに、それでいて冷たく名を呼ばれて心の中でドキッとする。
いや、ときめきとかじゃなくて、怒られる直前みたいな雰囲気のせい。
「何よ、ディディエ」
「お前を招くという話はこいつが勝手にしてるだけでオレはお前に対する下心なんて微塵もない」
「あー、はいはい。わかってるわ。大丈夫よ」
急に真面目な顔をして名前を呼ぶから何かと思えば……。
思わず呆れてしまった。ザインもカミルも呆れている。
ジェイルたちからは「なんだそれは」という肩透かしと、若干の苛立ちが伝わってきた。
「……っていうか。あんた、空気読めないって言われない?」
「なっ?!」
ディディエが面食らう。ザインとカミルが「ぶっ」と吹き出していた。あ、やっぱり空気読めないんだ。
「あんたが自分の意思を伝えたいのはわかるけど、タイミングってもんを考えた方が良いわよ。
大体、あんたがあたしのことを嫌いだってのは十分伝わってるし、変な勘違いはしないから安心して頂戴」
ひらひらと手を振りながら言う。
流石にこれまでの態度でディディエがあたしにちっとも興味がないのは理解している。恐らく、ザインとカミルに無理やり連れてこられたのも。
ディディエはあたしの言葉と態度が気に入らなかったのか、腕組みをして「ふん」と顔を背けてしまった。
何なのこいつ、ガキなの!?
――まぁいいわ。ムカつくけどディディエには静かにしてもらっていた方が都合がいい。
改めてザインを見る。
「で? 結局あんたはどうなの?」
「下心の話? ……それは、まぁ、おめーに声をかける奴らとほぼ一緒だよ」
「つまり?」
あたしは口元に笑みを浮かべ、足を組んだ。
自分で自分の顔は確認できないけど、悪い笑い方をしていたと思う。だって、あたしを見たザインがすごく嫌そうな顔をしていたから。
少しの沈黙の後、ザインが思いっきりため息をついた。
「俺らは、いや、俺様はおめーと違って会の『後継者』ってもんには縁がねぇんだよ。
全く縁がねぇのに周囲は『六狼会』の人間であり『六堂家』直系の人間だって見てきやがる。そういう肩身の狭さなんて、おめーにはわかんねぇだろうけど。
できる範囲で自分だけのパイプが欲しいんだよ、今後のためにも」
思いのほか、ザインの語りは真剣なトーンだった。
悪い顔をしちゃって申し訳なかったわ。ちょっとだけだけど。
――あたしは傍系とは言え、九条家で唯一の『後継者候補』。現会長である伯父様の庇護もあり、軽んじられることは一切ない。
けど、ザインたちはこれまでずっと『後継者のスペア、そのまたスペア』くらいの扱いだったのかもしれない。内情は詳しくないものの、優秀なお姉さんとお兄さんがいたらわざわざ前に出ることもできなかったでしょうね。
自分だけのパイプ、か。
その言葉に妙なシンパシーを覚えてしまった。
あたしは去年、デッドエンドを回避するために「自分だけの味方が欲しい」と願った。九龍会でも九条家でもなく、『九条ロゼリア』の味方。
今、あたしはそれを手に入れている。
ジェイル、メロ、ユウリ、そしてアリス。後ろにいる四人。
あたしと状況は全く違うにしろ、少なくともザインは『自分だけの何か』を欲している。
その気持ちは――理解できなくもない。
視線を伏せ、カップを手に取った。一口お茶を飲み、視線を伏せたまま口を開く。
「……そうね。あたしには全く無縁の話だわ。想像力が足りなかったみたい。茶化して悪かったわね」
言い終わった後、もう一度お茶を飲んだ。
未だに謝罪が上手くないのよ。
ちらりとザインを見ると驚いていた。ディディエも同じ反応。あたしが謝るとは思ってなかったみたい。
「カミル。あん――いえ、あなたも同じ理由? あたしに挨拶に来たのは」
「えっ?! も、もちろんそれもありますけど……僕の場合は噂のロゼリアさんにお会いしたかった気持ちの方が強い、かな……? 僕は『後継者』って話からずっと遠い場所にいたので今更だし……今までも楽しく過ごせてるので」
カミルが戸惑いながら答える。優等生な答えね。
うーん、この発言を聞く限りカミルが黒幕だなんて思えない。『ブラック・ロマンス』でも猫被ってる描写があったから、今は思いっきり猫被ってる状態なんでしょうけど。
さっきのザインの言葉を真に受けるなら、五年前の罪滅ぼしも兼ねて多少仲良くしてあげてもいい。そういう意味で「交流の一環」として六狼会に遊びに行くのは、あたしの中でまぁ一応納得ができる。
――何よりも。
コウセイさんとカミル、どちらが黒幕なのか探り、りょーこを救い出すためには六狼会に赴くしかない。
よし、覚悟を決めるわよ……「仕方ないわね、遊びに行ってあげるわ」って言えばいいだけよ。
「あの、ロゼリアさん」
「え。な、なに?」
気持ちを高めていると、カミルが人懐こく笑う。
不意打ちの様に感じてしまい、ちょっと挙動不審になってしまった。
「僕らと仲良くしても、ロゼリアさんにとってのメリットみたいなものってないですよね。周囲からも、いい顔をされない可能性もあります」
「否定しないわ」
しれっと答えておく。三人にはそういう理由で悩んでいると思われるのがいい。
あるんだけどね、メリット。
りょーこもといヴィオレッタがどうなってるのか、黒幕はコウセイなのかカミルなのかを調べるためなのだから、メリットなんて言葉じゃ表せない。
けど、それを言うわけにはいかない。知られるわけにもいかないのよ。
カミルが満足げに頷く。ザインは楽しそうに様子を見守り、ディディエは相変わらず知らんふり。
「だったら、僕らとゲームをして僕らが勝ったら遊びに来てもらう、ということでどうでしょう?」
「……あなたたちと? つまり、三対一ってこと?」
「いえ。こちらからの提案を飲んでもらうわけですから、ゲーム種目はロゼリアさんが決めてくださって結構です。なので、一対一のゲームでも、部下の方々を加えて二対二でも……ロゼリアさんの意向に従います」
「ふーん? あたしが勝ったら?」
尋ねてみると、カミルが困り笑いを浮かべる。一瞬だけディディエを見た。
「見合うかどうかわからないんですけど……僕らがロゼリアさんの言うことを何でも聞――」
「おい、カミル。ふざけるな」
「……あはは。ディディエ兄様はダメみたいなので、僕とザイン兄様が何でも言うことを聞くってことでどうでしょう?」
全て言わないうちにディディエが全力で拒否した。「やっぱり」と言わんばかりの顔をしたカミルが苦笑している。なんか大変そうね、ディディエの面倒を見るの。
一番年下のカミルが話を進めていることに疑問を抱き、ザインを見る。
「ザイン。あんたはいいの?」
「べっつにぃ。……まー、今のおめーは滅茶苦茶なことは言わなさそうだしな。いいぜ」
「ふーーーーん……」
あたしは口元に手を当てて笑う。
その笑みを見たザインたちが、揃って一瞬だけ顔を引きつらせた。
……まるで心の中で「うわぁ」って言ってるみたいに。
鏡を見なくても『悪女らしい』笑みを浮かべていたんだろうって容易に想像がついた。
――だって。
あたしには『絶対に勝てるゲーム』があるもの。
わざと負けるなんてことはしないわ。勝って優位に立った上で言うことを聞いてもらおうじゃないの。
読んでくださってありがとうございます!




