7.難易度高めの再会イベント②
ザインを見たはずなのに、一番に反応を見せたのは意外にもディディエだった。
持ち上げかけたカップを下ろしてあたしを睨んでくる。
「……何故そんなことを聞く?」
「あら、当たり前でしょう? 年明けの挨拶の時は体調不良でいなかったんだもの。あたしはジョウジ様とヴィオレッタさんに挨拶に行ったのよ? 体調不良でお会いできなかったんだから心配するのは当然じゃない?」
険しい顔をしたディディエに対し、にこやかに答える。
明らかな敵意と警戒心を向けられる面白いはずがない。けど、あたしは表情を崩さなかった。
――そう、年明けの挨拶の目的はあくまでも現会長と次期会長候補への挨拶。次期会長として名高いヴィオレッタさんに会えずに帰ってきた身としては心配するのは当然の話。
ディディエは失言に気付いたのか、何も返さなかった。口を閉ざしてしまう。
お茶を一口飲んだザインがニヤニヤと笑いながらあたしを見る。――要警戒。
「おめー、そんなに他人のこと気にするタチだっけ?」
「五年もあれば人も変わるわ。何よりも、今のあたしには立場ってものがあるからね」
「へぇー? 相変わらず男を侍らせてんのに? ……ああ、今は女もか」
ザインがあたしの背後に視線を向ける。ジェイルたち四人を値踏みするように眺めていった。
――あ。こいつ、五年前のこと根に持ってる。
当時それを表に出すことはなかったけど気にしてたのね。意外だったわ。
そして、背後にいるジェイルたちの殺気がぶわっと強くなった。特にアリスの殺気がすごい。
「伯父様も認めてる子たちよ。そういう言い方はやめてもらえるかしら? 大体ね、あんたの女癖の悪さも聞こえてくるわよ」
「俺様はおめーほどあちこちで恨み買ってねーよ」
お、俺様って……。ちょっとお茶を吹きそうになっちゃったじゃない……!
『ブラック・ロマンス』で見聞きしていたとは言え、リアルで聞くと破壊力がすごいわ。
五年前は普通に「俺」って言ってたのに、この五年で妙な仮面を身に着けたみたいね。まぁ、彼なりの処世術なんでしょう。あたしが茶化したり突っ込んだりするのはやめとこ。関係ないし。
「そう。双方納得済みなら良いわ。あたしには関係ない話だけどね。
で、ヴィオレッタさんの体調はどうなのかしら?」
ザインが話を逸らすために妙なことを言い出したのはわかってた。
だから、あたしはにこやかに笑みを浮かべたまま、再度聞いてみる。ザインの口元が微かにひくついたのは見逃さなかった。
――やっぱり体調不良じゃないんだわ。
既にコウセイさんかカミルによってどこかに監禁されている。洗脳も進んでいるに違いない。
チリッと心の中に焦りが生まれる。
「ちょっと長引いてるんですよね。医者からは少なくとも今月いっぱいは養生するように言われてるみたいです」
それまで黙っていたカミルが口を開く。
あたし同様にこやかに笑いながら、ケロッとした様子で受け答えをした。
「そう……早めにご挨拶に伺いたかったのだけど……」
「ロゼリアさんのお気持ちはよくわかります。僕も医者じゃないので確かなことは言えないんですけど、来月以降にご連絡いただければと……。
姉様のために二度もご足労をおかけしてごめんなさい。姉の代わりに謝罪します」
卒がない……! 黒幕候補なだけあって、こいつ……!
何が嫌って『六堂家の人間』としての顔と、『弟』としての顔を使い分けてるところ。本来「姉」と言うべきところを、未熟さを押し出して「姉様」とか「ごめんなさい」って言うところが賢しい。
けど、この調子じゃヴィオレッタさんのことはこれ以上聞けないわね。病状を詳しく聞くなんて失礼だし。
あたしはにこやかな笑顔を保ちながらカミルを見つめた。
「ありがとう。そういうことなら来月改めて連絡させていただくわ」
「ええ、そうして頂けると助かると思います。
ロゼリアさんこそもう大丈夫なんですか? ほら、撃たれたと聞いたんですが――」
「ああ、もう大丈夫よ。あの時は色んな人に心配かけちゃったわ」
あたしは笑いながら、あの時撃たれた脇腹を軽く撫でた。
そうそう。あたしは自分のデッドエンド回避のために撃たれたのよね。しかもその後一ヶ月も眠り続けて――すっかり元気だからいいんだけど、他の会の人間からすると気になる話題なのかしら。
少し前に「崩しやすそう」と思った自分が恥ずかしいわ。流石に一筋縄ではいかないみたい。
「『会』のためなら身を挺するなんてすごいですよね……自分ならできたかどうか……。――ねぇ、兄様?」
カミルが兄二人に同意を求める。
「状況次第」
「同じく」
しかし、ザインもディディエもそっけない返事をするのみ。
テコを外されたカミルが目を見開いて二人を凝視した後、誤魔化すように笑う。
「あ、あれ? 迷うの僕だけ? それだと僕が意気地なしってことになっちゃうんだけど……」
失敗したなぁと言わんばかりのカミル。隣に座るザインが頭をぽんぽんを叩いた。
「状況次第っつってんじゃん。俺もディディエもおめーと同じ意見だよ」
「……はは。なんだ、びっくりした」
カミルは気が抜けたように笑う。ドッキリでも食らったような反応ね。
ザインは『お兄ちゃん』の顔をしてカミルを見て笑った。ディディエも似たような反応を見せ、カミルを見て微かに笑っている。
――弟ルートと言うだけある。
この三人の仲や関係性の一部が伝わってくるやり取りだった。
「随分仲が良いのね。意外だったわ。五年前のあんたたちしか知らなかったから」
「お。なんだよ、惚れ直した?」
「何でそうなるのよ。そもそも惚れた事実がないわ」
ムッとしてザインの言葉を否定する。「惚れ直す」って何よ、「直す」って。恋愛感情なんてなかったでしょうが。
五年前と言うとあたしも相当だった。けど、ザインは唯我独尊って感じだったし、ディディエはとにかく他人に興味がないって感じだった。マイナスがゼロになったって話のつもりだったのに。
ザインは面白くなさそうに軽く肩を竦めた。
「へえ、あっそ。……傷付く~。なぁ、ディディエ」
「オレに話を振るな」
明らかにふざけた態度でザインがディディエに絡んだ。ディディエは鬱陶しそうにしている。
カミルに対しては『弟』って意識が強いみたい。一方、ザインとディディエの関係は兄弟というより友達同士という感じかしら。どちらかと言えば悪友という印象方が強いけど。
今後のことを考えるためにも、兄弟の関係性を把握するのは大切。『ブラック・ロマンス』の兄ルート、弟ルートそれぞれで兄弟関係が違ってたしね。
そんなことを考えていると、お茶を飲み干したザインがカップを置きながらあたしを再度見つめる。
「多少遠慮を覚えたかと思えば……おめーは相変わらずだな」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。まぁ、多少大人になったみたいだけど」
「言うじゃん。ま、相変わらずである意味安心したわ。どうせだし、今度こっちに遊びに来ねぇ?」
「……はあ?」
予想外の言葉にあたしは間抜けな声を上げてしまった。
だって、どうにか六狼会に探りを入れたいと思っていたところによ? ザインから「こっちに来ないか」なんて言われるなんて思わないじゃない。
この誘いはあたしにとって千載一遇。
けど、なーんか怪しい。
「……急に何? 何を企んでるのよ」
「企むってひでぇな。知らない仲でもねぇんだし、これを機にもっかい仲良くしようぜぇってだけ」
あたしは腕組みをして考え込んだ。
目の前にいる、ザイン、ディディエ、カミルを眺める。ザインは五年前と変わらず笑ってない目で笑っていた。ディディエは興味なさそうだけど、カミルはさっきからずっとにこにこしている。三人の様子からはザインがこんなことを言い出した意図を汲むなんて無理だわ。
――正直、飛びつきたい話だった。
とは言え、簡単に乗るのは怪しい。そもそも彼らの誘いに乗る表向きの理由がない。
けど、理由くらいは「交流の一環」で通せるかしら? 他の会からも挨拶だや食事会の誘いがあるんだし、そこまで不自然じゃないはずよね。
でも、なんか癪。誘われたからってホイホイついていくみたいで。
こいつらに上手く有利を取りつつ六狼会に赴けないかしらね。




