5.ノートと元カレと無理ゲーと
あたしはアリスが持ってきてくれたサンドイッチを食べながらノートに向かう。
そう言えば、自分の前世とこの世界のことを思い出した時もこうしてノートにまとめてたわ。誰にも見つからないように厳重に金庫に入れてしまってある。まさかその続きを書く日が来るなんて思わなかった。
暗い部屋の中、アンティーク調のテーブルランプの灯りが机を照らす。
夢の中で見たことをガシガシと書き込んでいった。忘れない内に、順番なんて気にせずに書き殴った。
あらかた書き終わったところでペンを置く。
一息ついて、カップに入ったスープを飲んだ。
最初に書いた『ブラック・ロマンス』の攻略キャラクターを眺める。
【六堂コウセイ】
25歳。こげ茶髪の毛に青い目。筋肉質でスポーツやってそう。良いお兄ちゃんと言うか兄貴! って感じ。
ゲームの中では、立場的に苦しかったのと姉へのコンプレックスが伝わってきた。弟ルートでのダークな一面が良かったわ。
実際会った時の印象は、溌溂としていて気遣いのできる人。
【六堂アオ】
23歳。明るい茶髪に緑の目。擦れたところのなさそうな人畜無害そうな雰囲気。実際はにこにこ笑顔でズケズケ言うタイプ。
姉である次期会長をサポートする立場と言うスタンスを崩さない。会長の座には興味ないみたい。
実際会った印象は……すごく疲れてるなって感想しかないわ。
【六堂ジークリード】
22歳。長い金髪を一つにまとめている。白衣を着用していて研究者気質な毒舌家。兄弟中一番背が低くて見た目は可愛い。
現在海外留学中で、父親が刺されてから帰国してくるからひょっとしたら会えないかもしれない。
【六堂ザイン】
21歳。明るめの赤毛に黄緑色の目。チャラくて軽薄。ピアス空けまくりでアクセサリーをじゃらじゃらつけてる。
ナンパな性格で女と見るとすぐ声をかけて、好みだと口説く。兄弟思いなところがある。
過去に会った印象としては……見た目通りなんだけど、笑ってるのに目が笑ってないことが結構あった。
【六堂ディディエ】
21歳。青みがかった銀髪を少し伸ばしてハーフアップにしてる。薄い青い目。氷のようで近寄りがたい雰囲気がある。
神経質でわかりやすいツンデレ、すぐ眉間に皺が寄るし機嫌が悪くなる。兄弟の中でも生い立ちに問題を抱えている。
過去に会った印象は、まぁ、面倒くさい人間。
ザインの1日後に産まれたので同い年。周囲から双子扱いされてるらしい。
【六堂カミル】
18歳。オレンジ色の髪に黄緑色の目。大人びている兄たちとは違い、素直な性格でザ・少年というタイプ。
黒幕になった理由は簡単に言えば優性思想ゆえ。兄ルートで、笑顔で凄んできたり兄に対して強気な態度を取るところがよかった。
なんと母親がザインの母親と姉妹。
自分の書き記した内容を読み返し、小さくため息をつく。
コウセイさんとアオさんには挨拶をしてる。ザイン、ディディエとは昔会ったことがある。
「黒幕が固定と聞いた時は自由度低いと思ったけど……今にしてみれば感謝だわ。
対象は二人だけ。コウセイさんか、カミルのどちらかなんだもの」
コウセイさんにはつい先月会ってる。
『次期会長候補』として挨拶をするため。本来なら現会長である六堂ジョウジ様と次期会長であるヴィオレッタさんにご挨拶をするはずだったんだけど、ヴィオレッタは欠席。急遽代理として長男のコウセイさんと次男のアオさんが同席した。
ヴィオレッタの欠席理由は、表向きには体調不良となっている。
けれど、やっぱりそうとは思えない。
「カミルはザイン経由で呼び出せるけど……問題はコウセイさんだわ」
夢を見る前はザインが挨拶をしたいなんて連絡してきて驚いたけど、今にしてみればラッキーだわ。ディディエはともかくカミルも連れて来てくれるんだもの。何もとっかかりがないよりは全然マシ。
で、現状会う術がないのがコウセイさん。
そもそも年明けの挨拶が初対面で、それ以外に接点らしい接点がない。
『ブラック・ロマンス』は始まってない。つまり、ゲームスタート前だから何の情報もない状態。だからこそ、本人に会わなきゃ話が始まらない。
って、待って。
逆に考えればゲームがはじまる前までに――つまりはヴィオレッタが帰ってくる前に黒幕がどっちなのかを特定する。その上で証拠を突き付けて、ヴィオレッタを救い出さなきゃいけないんだわ……。洗脳されきって父親を刺す前に。
――これ、無理ゲーじゃない?
レドロマの時はあたし自身のことだったからやり方はある程度思いついたけど、今回ハードル高くない?
いや、……いや!!
不安になってる場合じゃない。
りょーこ(かもしれない人物)の破滅と、六狼会の会長の命がかかってるのよ。こんな弱気じゃいられないわ。
とにかく行動あるのみ!
何とかコウセイさんに会う方法を見つけないと……!
「とは言え、すぐに会える方法は思いつかない。個人的にお会いしたいですって言える関係でもないし、会う口実は何も作れないわ……仕方ないからザインたちを介して何とか会う方法を見つけたいわね」
カップの中のスープを飲み干し、静かに机の上に置く。
ノートの並ぶザインとディディエの名前を眺め――大きくため息をつきながら机に突っ伏した。
六堂ザイン。六堂ディディエ。
元カレなのよね、こいつら。
五年前に知り合ってノリで付き合った。
同い年だし、顔は嫌いじゃなかったし、向こうもそうだった。『会』の関係者同士で付き合うのも悪くないと思っただけ。恋愛感情なんて一切なかった。
お互いにアクセサリー感覚だったと思う。少なくともあたしはそうだった。まぁ、半年も経たずに別れてるから、どう考えてもあの二人からは嫌われてる。
なのに挨拶?
時間も経ってるから当時の悪感情が薄れたかもしれないけど、こっちは気まずい。本当に気まずい。
しかも原因は全部あたし。
二股してたから。
パーティーで声をかけたらザインが気楽に乗ってきた。ディディエは警戒心マックスだったので猫を追いかける気持ちで追いかけた。
何故か当時のあたしは「バレるわけない」って高を括っていた。二人は兄弟なのにね、ほんと馬鹿だったわ。
もちろんあっさりバレた。
しかもその時「あたしが相手なんだから光栄でしょ?」「騙される方が悪いのよ」って最悪のセリフを吐いてる。今思い出しても枕に顔を突っ込んで叫びたくなる。
「大体、この二人が『ブラック・ロマンス』の攻略キャラクターってどういうことなのよ。
前作ラスボス悪女の元カレ設定、どう処理してんの?」
思い切りため息をついた。
ゲームと現実の整合性なんて考えてもしょうがない。『ブラック・ロマンス』を楽しんでいた人たちに申し訳ないわ。
でもゲームの中には「ロゼリアと付き合っていた」「昔酷い女に騙された」って話題は出てこなかったから、完全にリンクはしてないと思いたい。
この際、別モノと割り切るわ。
「にしても、ザインも何考えてんのかしら。いきなり挨拶だなんて……いい度胸してるわよね」
時間が経ってあたしの立場が変わったからという理由で挨拶を申し出てくるザインの度胸がすごいわ。
ここに何か理由があったりするのかしら。例えばカミルに頼まれたから、とか?
あたしはそういう『裏』を読んで探りたい。だから、都合が良いのは確かなのよ。
ただ、個人的な感情として気まずいだけ。
今更だけどね。
ザインにもディディエにも全く非はない。二股かけたのはあたしだから。
顔を合わせるのが憂鬱なんだけどそうも言ってられないわ。
今回ばかりは行動しないと始まらない。時間が過ぎていくだけになっちゃう。
「……色々憂鬱すぎる。でも、何とかしないとりょーこが……」
夢の中のりょーこの顔を思い出す。
大きく息を吸い吸って気合を入れ直した。泣き言なんて言ってる場合じゃない。
やれるだけやる――今はそれだけよ。




