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悪女の悪あがき。2回目!~今度は親友の破滅フラグをへし折りたい~  作者: 杏仁堂ふーこ


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49.どうでもよかったはずなのに

 一応スクリーンに視線は向けていたけど、映画の内容なんてこれっぽっちも入ってこなかった。

 映画の中の爆音も悲鳴も、全部あたしの耳を素通りしていってしまう。

 そんな状況だけど、傍から見たら映画に集中しているように見えたに違いない。

 実際は全く別のことを考えていた。


 やがて、ぼんやりしているうちに周囲から「面白かった」という感想が聞こえてきくる。

 どうやら映画は終わったらしい。

 流れるスタッフロールを眺めていると、ザインが横からあたしのことを覗き込んできた。


「随分集中してたじゃん。おめーアクションもの好きだったっけ?」

「……あんまり見ないから珍しかっただけよ」


 視線だけを向けて答える。

 時計に視線を向けると、もう昼になろうとしていた。

 ……あんまり食欲が沸かないわ。

 あたしは鬱々とした気分になりながら、ソファからゆっくりと立ち上がった。


「ザイン。悪いんだけど、あたしは部屋に戻るわ」

「は? 昼飯は?」

「少し休みたいの。画面に酔ったのかしらね、食欲も湧かなくて」


 少し早口になりながら、一刻も早く一人になりたくて歩き出す。

 メロの話を聞く――この話は今のあたしからは完全に抜けていた。とにかく一人になって頭を冷やしたかった。

 しかし、当然そんなあたしの行動は奇異に映るわけで。


「お、お嬢! 大丈夫ッスか?!」

「ロゼリア様、何か必要なものがあれば――」


 メロとユウリ、そしてアリスが慌ててあたしの後を追ってくる。

 本当ならもっと取り繕って、周りから変に思われないようにしたかったけど、そんな余裕はなかった。

 シアタールームの扉に手をかけたところで立ち止まり、振り向かずに声だけを向ける。

 追ってくるな、という感情をしっかりと乗せて。


「大丈夫よ、心配しないで」


 そう言ってシアタールームを出て、廊下を歩く。

 雪のせいで怖いくらいに静かで、周囲には人っ子ひとりいない。

 途中まで歩いて、ぴたりと足を止める。


「……迷子になるわ、このままだと」


 客室までの道のりは曖昧だった。

 ポケットの中から小さく折りたたんだ見取り図を取り出す。

 コウセイさんがわざわざ用意してくれたもの。

 その見取り図を広げたところで手に力が入り、ぐしゃっと紙に歪な皺が寄った。

 紙の擦れる音が、雪影だけがちらつく廊下にやけに響く。

 指先が微かに震えていることに、その時になって気付いた。


 夢を見て、行動を起こした時のことを思い出す。

 あの時はまだ……コウセイさんとカミル、どっちが黒幕でも正直どうでもよかった。

 だって、二人ともあたしの人生には関係ない――そう思っていたから。

 あたしが動かなくても結果的にヒロインに罪を暴かれて、制裁を受けることになる。

 けど、その前にあたしが止められれば――りょーこが助かる。それにジョウジ様も実の娘に刺殺されるなんて結末を迎えずに済む。他の兄弟だって事件が起きてから暴かれるよりも未然に防がれる方がずっといいはず。

 あたしがりょーこを助けることで、全体の不幸が最小限に抑えられると思っていた。

 ……ヒロインの役割は奪っちゃうし、ゲームは破綻するけど、別にいいと思っていた。


 今なら黒幕側のルートがない理由がよくわかる。

 無理だわ、一緒に堕ちるなんて。

 立場や使命があれば、なおさら。


 自分の想いを振り切るように早足で歩き、逃げるように部屋の中に入った。

 鍵をかけて、ふらふらとテーブルに近づき、倒れ込むようにして椅子に腰掛ける。テーブルの上で頭を抱えてしまった。


 黒幕がわかった。

 けれど、そこには何の根拠もない。

 強いて言うなら、”あたしがかつて悪役だったから”。

 不思議なシンパシーを感じ、”彼”の嘘や本音を嗅ぎ分けてしまった。

 それと同時に――。


 思考を遮るように扉がノックされる。顔を上げて扉の方を見た。


「ロゼリアさま、大丈夫ですか? あとで軽食をお持ちしますので……。

 あの、ゆっくりお休みください。……体調が回復されたら、少しお話させて頂けると嬉しいです……」


 アリスの声だった。

 あたしが「追ってくるな」と態度と声で伝えたからか、ノックも声もすごく控えめ。

 今声を出すと変な感じになりそうだったから無言でいた。

 アリスはそれ以上何も言わずに、部屋の前から去っていったようだった。

 あたしは深い溜め息とともにもう一度テーブルで頭を抱え、ずるずると突っ伏してしまうのだった。



◇ ◇ ◇



 そして三十分後。

 もう一度アリスがやってきた。流石に追い返すわけにも行かず、部屋に入れる。

 扉の向こう側に他のメンバーの顔が見えたけど、構ってる余裕はなかった。

 サンドイッチとフルーツを持っている。特別に作ってもらったらしい。


「……ロゼリアさま。あの、ここに置きますね……」

「……ええ」


 あたしが頭を抱えてたままでいると、アリスがテーブルの上にそっとトレイを置く。

 そわそわしているのと、心配そうなのが伝わってくる。


「……あ、の。お医者様を、お呼びしますか……?」


 控えめな問いかけにあたしは緩く首を振った。

 ただの仮病だもの。医者なんて呼ぶわけにはいかない。

 一向に出ていこうとしないアリス。あたしは俯いたまま、溜息混じりに口を開く。


「ねえ、アリス」

「は、はい! なんでしょう!」

「……あんた、あたしの頬を思い切り引っぱたいてってお願いしたら、できる?」

「…………え?」


 そっとアリスの顔を覗き見ると、アリスはぽかんとしていた。何を言われたのかわからないと言わんばかりの表情。

 その顔があたしの言葉を理解すると、さぁっと青ざめた。


「っむ、むりですむりですっ! そんなのむりです! ロゼリアさまのお顔を、た、た、た、叩くなんて……!!!」


 首がねじれるんじゃないかってくらいに高速で首をぶんぶん振るアリス。

 その様子がおかしくて、ちょっとだけ笑ってしまった。

 テーブルに頬杖をついてもう一度溜息をつく。


「そうよね……この世であたしに手を上げられる人間はもういないのよ。伯父様もそういうことはしないしね。

 ……お母様とエリーゼさんくらいだったわ、あたしが悪いことをしたら叩いて叱ってくれたのは」


 思わず遠い目をしてしまう。

 加減をされていたし、エリーゼさんはデコピンくらいだった。あのデコピンが意外に痛くて、エリーゼさんがデコピンを構えると反射的に額を押さえるほどだったわ。

 アリスはすごく困った顔をしてあたしを見ている。スカートの裾をぎゅっと握りしめていた。


「わるいことを、されたのですか……?」

「……してないわ、まだ」

「ま、まさか、するご予定が……?」

「……ないわ。でも、決心が揺らぎそうなのよ」


 自嘲気味に笑うと、アリスが目を見開いている。

 ――あたしは、りょーこを助けるために来た。

 りょーこことヴィオレッタは今現在監禁されている。助け出すのは少しでも早い方がいいに決まっている。

 でも、まだゲームが始まるまで十日くらいある。

 確かに黒幕に妙な確信は得たけど、間違っている可能性だってある。だから、もっと慎重に――と、もっともらしい言い訳して、結論を先延ばしにしようとする自分がいた。


「ロゼリアさま、」

「変なこと言っちゃったわ、忘れて頂戴。サンドイッチありがとう」


 すぐには食べる気にならず、視線を向けるだけだった。

 アリスは何か言いたげにあたしを見つめては口を開き、ということを繰り返している。

 ……本当に変なこと言っちゃったわ。

 アリスは俯いたまま、何かを吐き出すように口を開いた。


「……ロゼリアさま。他に……何か、できることありますか?」

「え?」

「わたしにはロゼリアさまに手を上げるなんて、絶対にできません。

 でも、それ以外でできることは、”何でも”します。

 ……わたし、ロゼリアさまの辛そうな顔、見たくないです……」


 辛そう?

 アリスの言葉を聞いて、思わず頬を押さえた。普段と変わらぬ感触に首を傾げる。


「あたし、そんなに辛そうな顔をしてるの?」

「してます……」

「……そう」


 短く答えた。だって、辛いのは事実だもの。

 自分がこんなことで辛くなるなんて思っても見なかったし――”彼”の笑顔を思い出すだけで決心が鈍るなんて。


 言いたくないのよ。

 あなたがヴィオレッタを攫って監禁したんでしょう、って。

 ――コウセイさんに。

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