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悪女の悪あがき。2回目!~今度は親友の破滅フラグをへし折りたい~  作者: 杏仁堂ふーこ


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29.ゲストという名の足枷

 一通り笑いが収まったところで、部屋にはほのかな気まずさと、どこか温かい空気が残っていた。

 その合間に使用人がお茶を置いていき、そして部屋を出ていく。

 コウセイさんもようやく落ち着いたらしく、喉を軽く咳払いして「どうぞ」とお茶を勧める。

 ハルヒトがお茶を飲みながらコウセイさんを見つめる。


「オレ、屋敷の中で迷っちゃいそうなんたわけど……見取り図とかって、ないのかな?」

「ああ、あるよ。一日泊まるくらいなら必要ない、と言いたいところだけど……不安なら用意させよう」

「そうしてくれると嬉しい。こんなに広いからね」


 あ。あたしもそれ欲しいわ。何かの役に立つかもしれない。


「コウセイさん、あたしもいただいていいですか?」

「勿論。まぁ記念品だと思って持って帰ってくれて構わないよ」

「ふふ、ありがとうございます」


 軽く笑ってお礼を言う。

 コウセイさんは「いやいや」と気楽そうに笑っていた。


 コウセイさんの態度には特に変なところはない。

 突然の宿泊にも不満を見せていないし、むしろ表面上は歓迎しているように見える。

 カミルも、あたしと関わることを歓迎していた。まぁ、今となってはどうかわからないけど。

 厄介なのは――ゲームの中で、両者とも周りを“駒扱い”していたところ。

 ヒロインを証人にしたり、罠にはめたり……そんなイベントが何度かあった。

 だから、あたしたちがどちらかに”丁度良い駒”と思われてたら厄介極まりない。


 そんなことを考えながらハルヒトが中心になって進められていく雑談に耳を貸していた。

 ジェイルたちも相手がハルヒトだからか、かなり気楽そう。コウセイさんに気を使いつつ、楽しげに話を弾ませていた。

 その光景に少しホッとしてしまう。

 ……ザインたちとはちょっと微妙な感じだったし。


 やがて、使用人が部屋の準備ができたとやってきた。

 コウセイさんは「わかった」と言いながら、ゆっくりと立ち上がる。


「じゃあ、部屋に案内しよう。――移動するけど、いい?」


 コウセイさんがぐるりと全員を見回す。

 当然、異を唱える人間なんていなかった。全員、ゆっくりと立ち上がって移動の準備をする。

 満足気に頷いてから、コウセイさんは「こっちだよ」と廊下を出て歩き出した。


 雑談を続けながら、長い廊下を歩く。

 ミステリーものに出てきそうな屋敷だわ。広くて、ちょっと作りが複雑。

 あたしたちはコウセイさんの後をついていくだけだったけど、多分自力でさっきの部屋に戻れって言われたら無理。絶対迷う。

 やがて、『ゲストルーム』というドアプレートがついた部屋が並ぶ区画に入る。

 その前でアオさんとザインたちが待っていた。

 アオさんはにこやかだったけど、ザインたちはちょっと不機嫌そうだった。


「準備ができたと聞いてきたんだが……大丈夫?」

「うん、問題ないよ。で、部屋割りがこれね」


 コウセイさんの問いかけに、アオさんがにこやかな表情のまま答える。部屋割表と思わしき紙を手渡していた。

 それを見たコウセイさんが小さく頷く。


「わかった、ありがとう。

 部屋割なんだが、ロゼリアさんとハルヒトさん、それからアリスさんは一人部屋。

 ジェイルくん、メロくん、ユウリくん、ユキヤくんの四人は悪いが二人部屋でお願いしたい」


 当然と言えば当然の部屋割り。

 二人部屋でと言われた四人が顔を見合わせる。が、相談するまでもなくどういう組み合わせになるのかは想像がついた。

 ジェイルたちはそれぞれ「承知しました」「了解ッス」「わかりました」と答えている。

 そして、割り当てられた部屋を教えられた。

 部屋は自由に使っていいこと、屋敷内も歩き回っていいけど迷子になる恐れがあること……などなど、まるで前世の修学旅行で、先生からの説明を思い出すような話をされた。

 どれも常識的な話ばかりで、問題なんてない。

 コウセイさんは「最後に」と前置きをして、何故かあたしを見る。


「多分ロゼリアさんが一番気にかかることだと思うんだが……」

「な、何でしょう……?」

「着替えは後で持って来させるから――」

「ああ。別に二日くらい同じ服でも構いませんけど」


 しれっと言う。こればっかりはしょうがないでしょ。

 と、思っていたのだけど――。


 何故か場がしんと静まり返った。

 窓の外で降る雪の音が聞こえそうなくらい。

 全員の視線があたしに集中していた。

 中でも失礼な視線を向けていたのはディディエだった。

 ……何その“お前正気か?”みたいな顔。コイツ、本当にムカつく……!

 こんな状況で「綺麗な服が欲しいわ!」なんて我儘言うわけがないでしょ。前世の記憶を思い出す前のあたしなら絶対に言ってたけどね!

 コウセイさんが慌てた様子で、バタバタと手を振った。


「い、いや! ツテはあるんだ! 今取り寄せてる最中だから、少し待っていてくれないか。

 疲れているところを申し訳ないが、ちょっと確認して欲しいというだけで……」

「……は、はぁ。既にご準備をいただいているのでしたら、お言葉に甘えさせていただきます」


 正直「どういうこと?」って聞きたかったけど、既に動いてるんだったら止めるのも申し訳ない。

 コウセイさんはどこかホッとしていた。

 彼の言うツテって一体……。


「それから使ってる化粧品のブランドとかを教えて欲しい」

「え?」

「あ、それならわたしが……」


 そこまでしてくれるの? と思った直後、アリスがすっと挙手をした。

 ちょっと驚いたけれど、アリスはあたしの身の回りのことは把握している。あたしがあれこれ言うよりもアリスに任せておいた方が楽だし、話が早いかも。

 コウセイさんも驚いてたみたいだったけど、アリスを見て頷いていた。


「わかった。じゃあ、アリスさんにお願いしようかな。――アオ」

「了解。アリスさん、こっちに来て彼女と確認してくれる?」


 コウセイさんに呼ばれたアオさんは、女性の使用人を呼び寄せてアリスと引き合わせる。女性の使用人はあからさまにホッとした様子を見せていた。……何となく気持ちはわかるわ。

 アリスは「はい!」と元気に返事をして、彼女の元に行き、「お願いしますっ」と頭を下げていた。うーん、いい子。

 そして、各自部屋の鍵を渡されて、一旦全員部屋に入るのだった――。


 流石六堂家のゲストルーム、という感じの部屋だわ……。

 部屋自体も広いし、ベッドもゆったりしてるし、良いホテルの一室みたい。


「はー……」


 唯一の手荷物であるバッグを適当に放り投げつつ、ベッドにダイブした。ごろんと寝返りを打って天井を見上げる。

 まさかこんな展開になるなんて思わなかったわ。

 これで彼らのことをもっと探れる。


 ただ――思いの外、カミルに対しての手応えはなかった。コウセイさんはこれからだけど。

 理由の一つは、きっとゲームでのヒロインとの立場の違い。

 ヒロインはメイドとして六堂家に忍び込む。だから、見れる場所や接した相手の反応なんかがかなり違う。

 あたしは、どうしたって彼らにとって『客』でしかない。最低限のもてなしをしないといけないから、そこには『壁』がある。

 それに、ヒロインは最終的に恋愛対象になるけど、あたしはそうじゃないしね……。

 感情面のやり取りが希薄で、強い感情による反応(?)や、それによって引き起こされるイベント関連が無関係なんだもの。


「……どうしようかしら、これから」


 声に出すことで、自分に問いかけてみる。

 自分がどうしたいのかを。


 本当なら、もう一度ギャラリーの方に行きたい。

 全館調べ尽くしたい。

 けど、ハードルが高すぎるのよね。

 困ったわ、本当に。

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