27.雪とともに訪れた再会②
「俺が誰を呼ぼうがあんたに報告する義務ねーだろーが!」
「お前の何人いるかわからないガールフレンドを呼ぶなら報告は要らない! だが彼女は別だ!」
「ただの昔の知り合いだよ! いつもグチグチうっせーーー!!!」
「お前にとってそうでも六狼会にとっては違うんだ! それくらいわかるだろう?!」
コウセイさんの言葉にザインが視線を逸らしては言い返す、ということが繰り返された。
ザインは悔しそうに食ってかかり、コウセイさんは怒気を隠しもせず即座に言い返す。
どこをどう見てもザインの分が悪い……。
その場にいる全員、口を挟むことができずにただ立ち尽くしていた。兄弟であるディディエもカミルも。
――ただ、あたしは目の前で繰り広げられている光景がおかしすぎて笑いを堪えていた。
だ、だって、あの余裕綽々のザインが言い負かされてるのも、コウセイさんが我を忘れて怒鳴ってるのも面白すぎるでしょ……!
あたしは口元を押さえ、必死で笑いを噛み殺していた。
そして、あたし以外にも戸惑いを見せない人が一人。
次男のアオさん。
呑気に携帯を取り出してどこかに電話をしている。やがて電話が終わったらしいアオさんは、言い合いをしているコウセイさんとザインのところに向かった。
アオさんは携帯をしまいながら、ゆっくりと二人の間に割って入った。
何かを掻き分けるように二人の体を左右に押しやる。
「はいはい、そこまでそこまで」
アオさんは慣れた様子で二人を宥める。
コウセイさんはまだ言い足りないと言わんばかりだけど、ザインはホッとした様子だった。
「もう。来客の前でみっともない姿を晒さないでよね」
そこでようやくコウセイさんが焦った様子であたしを見る。
突然目が合ってびっくりしてしまった。
コウセイさんはめちゃくちゃ慌てた様子であたしのところまでやってくる。そしてガバっと頭を下げた。
「申し訳ない、ロゼリアさん。折角来てくれたのにみっともない姿を見せてしまった」
「い、いえ、お気になさらず……っふ、ふふ……!」
わ、笑いが……笑いが抑えられない。
漏れ出そうになる笑いを何とか押し留める。けれど、なかなか静まってくれなかった。
あたしが笑いを堪えてるのは周囲に伝わっているらしく、場に一瞬だけ緊張が走る。ま、まずい……!
あたしは恥を忍んで右手を前に出し、「少し待って欲しい」とアピールした。
ゆっくりと深呼吸をして、りょーこのことを思い出す。笑ってる場合じゃないわ……。
ようやく笑いが収まったところで、さっきのことはなかったみたいにコウセイさんに向き合った。
……ほんと身長高い。百九十超えてるのよね、この人。
「――失礼しました。突然お邪魔して申し訳ございません」
「えっ。あ、い、いや……ザインが無理やり誘ったんじゃないか? 弟たちが何か失礼なことはしなかっただろうか。何かあれば遠慮なく言って欲しい」
「いいえ、楽しい時間を過ごさせていただきましたわ」
にっこりと笑って言う。コウセイさんはちょっと戸惑っているようだった。
見なさい、短期間で身につけたあたしの外面を……。年始の挨拶回りはずっとこれだったのよ。
「……お嬢、今更取り繕っても無駄だと思うよ」
ぼそっと水を差すメロ。
直後。ゴッ、パコッ、ゲシッ。という打撃音が連続して聞こえた。振り返らずともメロがジェイル、ユウリ、アリスに叩かれたり蹴られたのは明白。
背後で起きたことは無視をして、「ふふふ」と笑っておく。
そして――全然意識してなかったんだけど、コウセイさんとアオさん以外の存在に遅れて気付いた。
彼らは場が落ち着いたタイミングであたしに近付いてくる。
その姿を見てギョッとしてしまった。
「ロゼリア、久しぶり」
「お久しぶりです、ロゼリア様」
「ハ、ハルヒト!? ユキヤ!? な、なんで、ここに……?!」
外面が一瞬で剥がれ落ちた。
い、いや、びっくりするでしょ。二人が六狼会にいたら……。
千代野ハルヒト。湊ユキヤ。
前作『レドロマ』の攻略キャラクターの二人。
ハルヒトはゲームの看板キャラ的な王子様。去年、ハルヒトは諸事情で九龍会に身を寄せていた。色々落ち着いたので八雲会に帰って、正式に後継者教育を受けている真っ最中。
ユキヤはあたしの推し。ユキヤは父親が逮捕されたことで第九領に居づらくなり、ハルヒトに雇われる形で八雲会に身を寄せているはず……。
それがどうしてここに?
目を見開いて二人を見つめると、ハルヒトがおかしそうに笑った。
「実は今日、コウセイさんとアオさんと交流会だったんだ。父さんがセッティングしてくれてね。第六領をあちこち案内してもらった後なんだよ」
「……そ、それで、ここに……?」
「うーん。本当は帰る予定だったんだけど……ちょっと事情が変わっちゃってね……」
「じ、事情……?」
我ながらしどろもどろだわ。混乱しすぎて。
事情が変わったと聞いて首を傾げると、ユキヤが困ったように笑う。
「夕方から雪が降り出したでしょう? 実は既に積もっているところもあるそうで……一部道路が雪で通行止めになってしまったのです。
雪道の準備もなく、夜間の運転は危険ということでコウセイ様とアオ様のご厚意で屋敷に泊めていただくことになりました」
道路が、雪で通行止め?
第八領に行く道も、第九領に行く道も、そんなに変わらないわよね……?
……あれ?
あたしは思わずザインを見た。ザインがぎくりと肩を揺らす。
「いや、知らねーって……」
ザインにしては珍しく弱い言葉だった。それを聞いたコウセイさんがギッと睨む。
ザインがまたもや「げっ」と声を上げたところで、今度はアオさんがその肩をガシッと掴んだ。
「……ザイン。まさか今からロゼリア嬢を帰すつもりだったの?
ニュース見た? 道路情報は六堂家に必ず連絡入るよね? チェックした?」
ゴゴゴ……と音が聞こえて来そうなくらいに凄みがあった。笑顔なのに、圧がすごい。
ザインは錆びついたロボットのようにギギギとアオさんから顔を背けていた。せめてもの抵抗のよう。
ちなみに、ディディエとカミルは完全に地蔵と化していた。自分は関係ありません、と言わんばかりの他人事顔。
三男のジークリードさんがいないけど、今集まれる兄弟はこれで全員ね。
図らずもコウセイさんに会うことができてラッキーだわ。
兄弟の力関係も見えて面白いし、本当にツイてる。
思わぬ収穫にほくそ笑んでいると、ザインに圧をかけていたアオさんがくるりと振り返ってあたしを見た。
この人は兄弟の中では癖がなさそうな見た目してるのよね。
「ロゼリア嬢。弟が考え無しでごめんね?」
「えっ。い、いえ、そんな……あたしも気にしてませんでしたし……」
「ううん。ザインがホストなんだから帰りのことまで気を配るのは当然さ。
――さっきユキヤ君が言ったように夜も雪が降るみたいだから、帰り道は危険だよ」
にこにこ笑うアオさん。この人はこの人で何を考えてるのかさっぱりわからないわ。
でも、帰り道は危険って言われても……帰るしかないわけで……。
そう悩んでいると、アオさんはにこやかな笑顔のまま続きを言う。
「だから、ロゼリア嬢も泊まっていったらどうかな?」
しんと沈黙が落ちる。
何言ってんだ? と言わんばかりの沈黙。
しかし――あたしの頭の中では、クラッカーが派手に連続で鳴っていた。
ラ、ラッキー!!
六狼会に居座れる上にコウセイさんもいて、りょーこ奪還の大チャンス到来よ!
年内最後の更新です。お読みくださり、ありがとうございました。
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良いお年をお過ごしください。




